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第2話 うしろの重み

これは数年前、私が実際に体験した話です。



ある日の夜22時過ぎ、ふとTSUTAYAで借りたDVDの返却日が「今日まで」だったことを思い出しました。


私は慌てて自転車に乗り、1人で返却に向かうことに。


TSUTAYAまでは自転車で15分ほど。


決して遠くはありませんが、途中には街灯がほとんどなく


明かりといえば自動販売機の光くらいしかありません。


いつもは少し遠回りしてできるだけ明るい大通りを通るようにしていたのですが……


その日に限って私はなぜかこう思ったんです。


「よし、裏道から行こう。」



理由もなく、迷いもなく、まるで導かれるように私は真っ暗な裏道を選びました。



裏道に入ってすぐ、違和感が全身を襲いました。


何もない。ただの道なのに怖い。


背筋がぞわっとして、心臓が妙に早く打ち始め気持ち悪さを覚えました。


誰かに見られているような、そんな気配を感じて思わず振り返っても誰もいない。


私は怖くなって自転車を少し速くこぎはじめました。


すると前方の電柱の前に誰かが立っているのが見えたのです。



それはワンピースを着た女性でした。



私はとっさに「よかった、人がいる」と思ってしまいました。


裏道に入ってからずっと誰ともすれ違わなかったのでその存在がなぜか安心に思えたのです。



そして彼女の横を通り過ぎようとした瞬間――

彼女がこちらを見ているような気がしました。



その直後です。




ドンッ!!!!



自転車の後ろが突然、信じられないほど重くなったのです。


まるで誰かが後ろに飛び乗ったかのような重み。


驚いて振り返るとさっきまで電柱の前に立っていた女性の姿はどこにもありませんでした。




(やばい……やばいやばいやばい……)



私はパニックになりました。


あの女の人は生きている人じゃない。

今、私の後ろに――乗っている。



直感的にそう思った瞬間、全身が凍りつき何も考えられなくなりました。


とにかく明るい場所へ、と裏道を抜けようとしたのですが


なぜか道が分からないのです。


何度も通ったはずの道。


住み慣れた街のはずなのにどこを見ても見覚えがない。


まるで別の世界に入り込んでしまったようでした。


私は混乱し、勢いよく転んでしまったのです。



その瞬間――


見慣れなかった街並みが自分の知っている街並みにパッと戻ったのです。



見慣れた道、街灯。


私は「今だ」と思い慌てて自転車に乗り、明るい場所を目指して全力でこぎました。


けれど自転車の後ろはさっきと同じく重いまま。



「明るいところに出れば・・きっとなんとかなる」

そう信じて全力で走り続けました。


ようやく明るい場所に出たとき、急に頭が割れるように痛み出し私はその場に倒れそうになってしまったのです。


このままじゃまずい――


そう思い私は重くなった自転車を押しながらゆっくり歩いて帰ることにしました。



家に着いたのは1時間後。


玄関を開けた瞬間家族に「顔色が悪い」と言われました。


身体中に鳥肌が立ち、震えは止まらず。


そんな私の姿を見た父に「何か見たのか?」と聞かれ私は何も言えませんでした。


霊感のある父は多分私が何かを見たのだろうと察したのだと思います。


そのあと父に塩をかけられ、ようやく体調が戻りました。


あの女性が本当に私の後ろにいたのか、

あのまま家までついてきたのかは今も分かりません。


ただ、あの夜の体験は今でも思い出すと震えるほどとても恐ろしいものだったのです。


忘れようとしてもあの“重み”だけは今も背中に残っています。






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