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第4話 髪に宿るもの

あれは、6年前の10月のことでした。


ハロウィンが近づき、友人たちと仮装して出かける約束をしていた私は、残り10日しかない中で急いで準備を進めていました。


どうせなら本格的な仮装がしたい。

けれど何を着るかも決まらず、私は夜な夜なネットで衣装を探し続けていました。


結局、友人との話し合いの末、自分で衣装を加工して“ゾンビ”になることに決めました。


当時の私は明るく派手な髪色をしていたのですが、ゾンビの雰囲気に合うように暗い色のカツラが欲しくなり、できるだけ安く済ませようとネットでカツラを探しました。


そしてある中古ショップで「人毛」と記載された黒髪のカツラを見つけたのです。


値段は900円。人毛なのに格安ということもあり、私は迷わず購入しました。




──それが、すべての始まりでした。



カツラが届いたのは3日後のこと。


しかしその日から、私は体の異変を感じ始めました。

頭痛、吐き気、立っていられないほどの倦怠感。


病院では風邪と診断されたものの、症状は日に日に悪化し、ついには夜になると立ち上がることさえできなくなりました。


それでも無理やり横になり、眠りにつこうとした深夜2時過ぎ。


ふと目を覚ました私は、部屋の隅に“誰かが立っている”のが見えました。


闇の中に浮かぶその人影。

なぜか私は目をそらせず、金縛りにかかったように体が動かなくなっていました。


そこにいたのは、一人の女の人。

横顔しか見えませんでしたが、その存在は異様に“はっきり”と私の目に映っていたのです。


暗い視界の中で、彼女だけが妙に鮮明に見える。


目を閉じようとしても閉じられず、私はただ恐怖に飲み込まれていきました。


そして──


女が、こちらを向いたのです。


目が合った瞬間、彼女が何かを手に持っていることに気づきました。

それは、あの人毛のカツラだったのです。


「え……?」


思考が追いつく間もなく、女がするすると私の顔のすぐ前まで近づいてきて、


「これは、私のだよ」


と、低く、けれどはっきりと囁いたのです。


次の瞬間、私は意識を失いました。


朝、目が覚めたときには全身が汗で濡れていて、全てが悪夢だったのかとすら思いました。


けれど──ベッドの脇には、あのカツラが落ちていたのです。


震える手でそれを拾い、私はすぐにお祓いをしてくれる神社を訪ねました。


神職の方はカツラを見てすぐに言いました。


「これは……強い怨念が宿っています。すぐに手放してください」


私はその場で処分をお願いしました。


それ以来、体調は嘘のように回復し、あの女の影を見ることもなくなりました。


──あの髪の毛は、おそらくあの女性のものだったのでしょう。


彼女がどんな経緯で髪を失い、それが商品として流通したのか、私には知るすべもありません。

けれど、あれが“自分の意志”で提供されたものだとはどうしても思えなかったのです。


今もあのショップでは中古の人毛カツラが販売され続けています。

見た目は普通の品でも、そこに宿るものまでは誰にも分かりません。


どうか、皆さんも気をつけてください。


人の“髪”には、想いが宿ることがあるのです。


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