春の陽気が屋敷の庭を包み込み、風が花々の香りを運んでいた。
セーラはテラスの椅子に座り、紅茶のカップを片手に庭を眺めていた。
目の前には、リチャードが椅子に腰掛け、書類をめくっている。
彼は、貴族としての仕事をこなしながらも、時折顔を上げ、こちらを見つめて微笑んだ。
「こうして二人で過ごす時間が、何よりも幸せだ。」
そう思うと、心がじんわりと温かくなる。
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それぞれの成長
あの時、彼と本当の意味で心を通わせたことで、セーラの人生は大きく変わった。
「働かなくていい貴族夫人」になるつもりだったが、気づけば 「自分の意思で人生を楽しむ女性」 になっていた。
商人ギルドの顧問として、簿記と珠算を広め、商業の発展に貢献した。
屋敷の管理を改善し、使用人たちが働きやすい環境を整えた。
そして、リチャードの財務管理を手伝い、彼の支えとなった。
――すべて、自分の意思で選び取った道だった。
前世では、仕事に追われるだけの人生だった。
だが、今のセーラは 「働くことを楽しんでいる」 と言える。
「自由に生きる」というのは、何もしないことではない。
「自分の意思で、やりたいことをやること」 なのだと気づいた。
リチャードもまた、変わった。
「自由を与えることでそばにいてもらう」のではなく、
「共に生きることを選ぶ」 ことを決意した。
今では、仕事が終われば必ずセーラのもとへ戻り、
彼女と過ごす時間を大切にしている。
その変化が、何よりも嬉しかった。
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何気ない日常の幸せ
「セーラ。」
リチャードが書類から顔を上げ、彼女を見つめる。
「今日の午後、街へ出かけようと思うが、一緒に来るか?」
「まあ、お買い物ですか?」
「いや、最近ギルドの新しい商店街が完成したらしい。」
「商人たちが君の簿記講習を受けて、事業を成功させたと報告があった。」
「君の影響で成長した店も多いらしいから、一度見に行ってみようと思ってな。」
セーラの目が輝いた。
「まあ! それは素敵ですわ!」
「なら決まりだな。」
リチャードは微笑み、彼女の手を取った。
「今日は、君と一緒にのんびり街を歩こう。」
「ええ、楽しみですわ。」
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未来へ続く道
セーラとリチャードは、手を取り合いながら屋敷を出た。
風が心地よく吹き、二人の歩みを優しく包む。
――これからも、こうして共に歩んでいくのだろう。
貴族の夫人としてではなく、
商人ギルドの顧問としてでもなく、
ただ、一人の女性として。
ただ、一人の男性として。
彼らは、お互いを支え合いながら、
これからも幸せな未来を築いていく。
「永遠に、共に。」
その誓いを胸に、二人は歩みを進めた。
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