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第11話 エピローグ:共に歩む未来



 春の陽気が屋敷の庭を包み込み、風が花々の香りを運んでいた。

 セーラはテラスの椅子に座り、紅茶のカップを片手に庭を眺めていた。


 目の前には、リチャードが椅子に腰掛け、書類をめくっている。

 彼は、貴族としての仕事をこなしながらも、時折顔を上げ、こちらを見つめて微笑んだ。


 「こうして二人で過ごす時間が、何よりも幸せだ。」


 そう思うと、心がじんわりと温かくなる。



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それぞれの成長


 あの時、彼と本当の意味で心を通わせたことで、セーラの人生は大きく変わった。


 「働かなくていい貴族夫人」になるつもりだったが、気づけば 「自分の意思で人生を楽しむ女性」 になっていた。


 商人ギルドの顧問として、簿記と珠算を広め、商業の発展に貢献した。

 屋敷の管理を改善し、使用人たちが働きやすい環境を整えた。

 そして、リチャードの財務管理を手伝い、彼の支えとなった。


 ――すべて、自分の意思で選び取った道だった。


 前世では、仕事に追われるだけの人生だった。

 だが、今のセーラは 「働くことを楽しんでいる」 と言える。


 「自由に生きる」というのは、何もしないことではない。

 「自分の意思で、やりたいことをやること」 なのだと気づいた。


 リチャードもまた、変わった。


 「自由を与えることでそばにいてもらう」のではなく、

 「共に生きることを選ぶ」 ことを決意した。


 今では、仕事が終われば必ずセーラのもとへ戻り、

 彼女と過ごす時間を大切にしている。


 その変化が、何よりも嬉しかった。



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何気ない日常の幸せ


 「セーラ。」


 リチャードが書類から顔を上げ、彼女を見つめる。


 「今日の午後、街へ出かけようと思うが、一緒に来るか?」


 「まあ、お買い物ですか?」


 「いや、最近ギルドの新しい商店街が完成したらしい。」


 「商人たちが君の簿記講習を受けて、事業を成功させたと報告があった。」


 「君の影響で成長した店も多いらしいから、一度見に行ってみようと思ってな。」


 セーラの目が輝いた。


 「まあ! それは素敵ですわ!」


 「なら決まりだな。」


 リチャードは微笑み、彼女の手を取った。


 「今日は、君と一緒にのんびり街を歩こう。」


 「ええ、楽しみですわ。」



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未来へ続く道


 セーラとリチャードは、手を取り合いながら屋敷を出た。


 風が心地よく吹き、二人の歩みを優しく包む。


 ――これからも、こうして共に歩んでいくのだろう。


 貴族の夫人としてではなく、

 商人ギルドの顧問としてでもなく、


 ただ、一人の女性として。


 ただ、一人の男性として。


 彼らは、お互いを支え合いながら、

 これからも幸せな未来を築いていく。


 「永遠に、共に。」


 その誓いを胸に、二人は歩みを進めた。



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