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第3話 往生際が悪いですね。それでも男ですか?

「そ、そうです……、わたしがミオ=セリーヌです……」


 目の前にいる、黒髪三つ編みの陰キャガールクラスメイトの女が、ミオ=セリーヌを名乗っている。


 これが≪閃光≫のミオ=セリーヌ、だと……。

 さすがにそれはウソだろ……。


「だってほら、ミオ=セリーヌって……ギャルギャルしていて、勝ち気で無謀なダンジョンアタックの……」


 申し訳ないけれど、光崎さんとは似ても似つかないというか……むしろ真逆の存在?


「あれはダンジョン配信用のキャラです」


「お、おう……」


 きっぱり言い切ったな。

 そうか……あれはロールプレイってやつなのか。

 まあ、ダンジョンに潜る時に着るダンジョンスーツは、身バレを防ぐために顔や体形なんかも偽装をしてくれるからな。あんな技術、どこから調達したのかは知らんが、そこの仕組みの導入だけは政府もよくやったと思うわ。ほかには何もしてくれないけどな!


「何を見せたらわたしがミオ=セリーヌだと信じてくれますか?」


 スッと近づいてきて俺の袖を引っ張り、小声でつぶやいた。


「いや、別に疑っているとかではなく……」


 まだ信じられてはいないが、積極的に知りたいわけでもなくてだな……。俺の身バレのほうが困るわけで……。

 それと、ちょっと近いから離れて。


「これ、わたしの配信用の公式チャンネルです。配信モードでログインできているし、これで本人だって証明になりますか?」


「あ、ああ……」


 顔の前に突き出されたのは光崎さんのスマホ端末。

 開かれている画面は、『覚醒者』専用配信サービスのアカウント編集画面だった。


 マジかよ……。

 目の前にいる光崎さんは、どうやら本当に≪閃光≫のミオ=セリーヌらしい。

 このサービスは『覚醒者』のオーラ認証になっていて、なりすましでのログインは不可能……。信じられないが、信じるしかない。

 性格が真逆なのに、同一人物……女ってやつは怖いな……。


「わたしがあなたに助けられたミオ=セリーヌなんです。わかっていただけましたか?」


 なんで今うれしそうに笑うの?

 顔を上げたら普通にかわいいじゃん。そういうのダメだよ? 距離近いし。惚れてまうやろーーーー!


「お、俺はミオ=セリーヌさんのことは……配信で見たことがある、くらいで……あー、ファンです?」


 あー、俺今不自然じゃない? ちゃんとしゃべれている? 顔、熱っ!


「もうあなたが『LUI』さんだってわかっているので、隠しても無駄です。でも周りにバラすためにこうして話しかけたわけではなくてですね……」


 モゴモゴモジモジ。

 かわいいかよっ!


 ってそうじゃない!

 俺の身バレが、命がかかっているんだぞ!


「……何が目的なんだ? まあ、俺は『LUI』なんて人物は知らないが、一応聞いておこうか」


 警戒レベルマックス。

 怖ぇよ。マジで何なんだよ……。まさか美人局かよ……。


「往生際が悪いですね。それでも男ですか?」


 うっせぇな。

 身バレはダメなんだよ!

 自分は何サラッと身バレしてきてんだよ。俺が悪人ならこの場で殺されて身ぐるみ剥がされているところだぞ⁉


「わたしはお礼を言いたかっただけなんです」


「へっ?……お礼?」


「命を助けてくださってありがとうございました。直接お礼を言いたかった。ただそれだけです」


「いや別に……」


 大したことをしたつもりはなくて、目の前で死なれたら夢見が悪いというか、居心地が悪いというか、反射的に手が出ただけだから気にするな。


 とは言えないよな!


 危ねぇ……。

 普通に答えるところだったわ。

 誘導尋問じゃん。怖っ!


「それともう1つ」


 お礼を言いたいだけじゃなかったのかよ!


「わたしのパートナーになってください!」


 ……は?


「わたしの……アタシのパートナーになりなさいっ!」


 お、おお……いきなり≪閃光≫のミオ=セリーヌっぽく……って、そうじゃないだろ!


「お前、何言ってるんだ……?」


 さすがに意味がわからんぞ⁉

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