目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第4話 今殺す~! ここで殺してアタシも死ぬ!

「アタシね、あなたにパートナーになってほしいのよ! 動画を見て確信したの! あなたの強さ、あなたの映像の美しさ……それと頼もしさとかっこ良さと……」


 尻すぼみにもごもご言っていて何も聞き取れんな。

 ミオ=セリーヌっぽかったのは一瞬だけかよ。


「いや……俺は一般人だし、ダンジョン配信なんてとてもとても……。じゃ、じゃあそういうことでー、またクラスでー」


 いそいそ。

 ここは逃げるが勝ちだな。


「バラすわよ」


 ドスの利いた声が背中に浴びせかけられる。


「おい……まさかの脅迫かよ。さっきは『命を助けてくれてー』とか言っていたくせに、やっぱり俺のことを世間にバラして……なんだ、金か⁉」


 この間のボス『深淵の騎士』のドロップしたアイテムの分け前がほしいのか?

 ああいいよ、それくらいで手打ちにできるなら、安いもんさ。


「お金はいらないわ。十分間に合っているもの。わたしの父ね。迷宮対策省の政策局長なのよ」


「迷宮対策省って……D省⁉ そのお偉いさんってことか⁉」


 迷宮対策省とは、通称ダンジョン省やD省とも呼ばれる政府の行政機関の1つだが……。


「あ、まさかお前……」


 親父さんの力を使って俺の身辺を洗ったな⁉


「ふふ~ん♪」


 否定しなかった。

 むしろそのドヤ顔は……!


「完全に法律違反だろ!」


「訴えてみる? 証拠はないわよ? その前にあなたが誰かに殺されるかもね?」


 コイツ……。開き直りやがって……。


「だからもう全部わかっているの。あなたが『LUI』という名前で、姿を消して有名配信者についていって動画を撮影していることも、覚醒ネームが『ルイ=シャドウイング』だってこともね」


「おい、その名前を出すな!」


 誰かに聞かれたらどうする⁉

 身バレするだろ!


「平気でしょ。ルイくんはダンジョン配信していないんだから、覚醒ネームだってぜんぜん無名でしょ」


「まあそうだが……」


 もうルイくん呼びかよ……。

 距離の詰め方バグってねぇか?

 さっきからちょいちょいボディタッチしてくるし……。なんかこう……良い匂いするし。


「とにかく、ルイくんに拒否権はないの。わかった? 今からアタシのパートナーだから!」


 コイツ、見た目は陰キャのくせして、実は配信の時のはっちゃけギャルのほうが素だな?

 マジで厄介なヤツに絡まれちまった……。


「お前と組んだら――」


「ミオ様」


「は?」


「アタシのことは『ミオ様』って呼びなさい。双剣で切り刻まれたいのかしら?」


 おいおい、完全に≪閃光≫のミオ=セリーヌじゃねぇか……。

 やっぱりこっちが素なんだな。


「仮に、お前の――」


「ミオ様って呼びなさいって言ってるでしょ!」


 ダメだ、話が進まねぇ……。


「ミオ様のー! ダンジョン配信のパートナーになったら、俺に何のメリットがあるんだ? 俺は現状に満足している。俺のほうも金には困っていないし、ダンジョン配信者として有名になりたいわけでもねぇ!」


 ただ、カメラマンとしての実力をあげて、世間に認められたいだけだからな。

 俺たちの利害関係は一致しないだろう。


「ルイくんの正体はバラさないでおいてあげる」


 前髪をかき上げて満面の笑みを見せてきた。


 ……えっ、ほかには? まさかそれだけ⁉


「で、俺はおま……ミオ様のダンジョン配信を撮影するカメラマンになれって? さすがにそれは取引として不平等すぎないか?」


 さすがに井伊直弼でも断るレベルの不平等条約だぜ?


「でもルイくんは断ったら死ぬんだし、メリットありありだと思うわよ?」


 死ぬの確定かよ。


「普通に脅迫じゃねぇか……」


「脅迫だけど何か問題でも?」


 なんでキョトン顔なんだ……。

 今日初めて話をしたばかりのクラスメイトのことを、白昼堂々脅迫してくるメンタルは何なの?

 やっぱりダンジョン配信者って、脳汁ジャンキーで頭がイッちゃっているのか……。


「じゃあ逆に、……ミオ様のほうのメリットを聞かせてくれ。なんで俺を脅迫してまで配信に引き込もうとするんだ? これまでもソロで名をあげてきたんだろう? これからもそうすれば良いじゃないか」


 まあたしかに、俺の撮る映像はなかなかのもんだと思うよ?

 手前味噌だけどさ。

 でもそれだけなら、自分の正体を明かしてまで俺と組もうとするのは動機としては弱いよな。


「この間の……あの時ね……。アタシ、完全にボスの攻撃パターンを見誤っていたのよね。あれは『死ぬ』って思ったわ。『完全回避RTA配信』なんて謳っておきながら、ここで無様に死ぬんだ~って」


「まああれは、だいぶお粗末だったな。完全に焦り過ぎだ。『深淵の騎士』の第3形態移行前に倒したかったのはわかるが、おま……ミオ様のパワーではそれは無理だ。パワーがないうえに双剣じゃぁな。ボス戦ではごり押し攻撃は通用しない。もっと効果的に急所を突くか、一撃で葬れるようなパワーが必要だからな」


 完全回避したいならもっと事前に戦う相手の知識を手に入れておくんだな。

 それともっと良い武器を使うのと、単純にもっと自分自身も鍛えろ。


「なんでそんなに偉そうなのよ……。動画撮影ばかりで、大してダンジョン攻略をした経験もないくせに、なんでそんなに強いのよ……」


 さっきまでの勢いはどこへやら。急にぼそぼそ声になっていく。


「なんか言ったかー?」


「何も言ってない! 殺すわよ!」


 逆ギレかよ。

 おー、怖っ。


「お前にゃ俺を殺すのは無理だ。少なくともダンジョン内ではな」


 俺のほうが速いし、俺のほうが攻撃力もある。たぶんダンジョンに潜った経験もな。


「今殺す~! ここで殺してアタシも死ぬ!」


 メンヘラ化した⁉

 ダンジョンの外でやったら、ただの殺人事件だぞ! いや、ダンジョン内でも故意に人を傷つけたら犯罪だけどな⁉

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?