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第5話 パパはアタシのことがかわいくてしかたないから大丈夫よ

「アタシね、自分でもわかってるのよ……」


 若干テンションの下がった様子のミオ。

 いきなり殺されることはなさそうだ……。


「それで? 何がわかったんだよ?」


「自分の性格が悪いってこと!」


 おー。


「自己分析できていてえらいな」


「否定しなさいよ! 殺すわよ⁉」


 怖っ! すぐ殺そうとしてくるなよ……。

 そんなだから『覚醒者』は犯罪者予備軍とか言われて、世間から隠れて生きていかなきゃいけないんだぞ?


「アタシと組もうとして近づいてくる人は、アタシを騙そうとしているか、アタシの体目当てのどっちかなのよ!」


「それは……大変だな」


 リアクションの取りづらい発言だが……。

 まあソロの女配信者で、しかも若いってなったら、そういうのは致し方ないっていうか……。お前の配信チャンネルのコメント欄にもそんなやつらばっかりが集まっているしな。


「もっと真剣に心配しなさいよ!」


 スタンス表明しないと許されない感じ……。理不尽だなあ。


「ルイくんってさ、あの時アタシのことを助けて……何も要求しないでいなくなっちゃったじゃない?」


「まあ、つい助けちまっただけで誰かと関わりたくはなかったし。絡まれたら後々面倒だしな」


 でもボスのドロップ品はもらって帰ったから、俺としてはホクホクものだったけどな? 匿名の裏取引所で高く売れたし。


「そういう人、初めてだったのよ……」


「あーそう? ずいぶん人運がない生活をしてきたんだなー。ご愁傷様」


 まあ、俺には関係ないし、ぜんぜん興味ないけど。

 それだけ目立つ立ち振る舞いをしていたら、あんまり良くないやつらが集まってくるのもある程度は仕方ないんじゃねぇの? 知らんけどさ。


「それでね、あの後アタシのファンの人から『LUI』ってアカウント名で、この間の『深淵の騎士』戦の動画が上がっているって聞いて、動画を見てみたのよ」


「再生数の貢献あざーす」


 俺のお財布にチャリンチャリン。

 本人が映像を見てくれるなんてなかなかないから、それはそれでうれしい経験だな。


「それを見てわかっちゃったのよ」


「何がだ? 俺のカメラマンとしての実力?」


 さすがに自動追尾のドローンとは違う良い仕事をしているだろう?

 それで俺に撮影してほしくなっちゃったのか。まあ、その気持ちはわからないでもない。


 だが断る!

 俺は自分のカメラの技術を売り込んで、有名配信者と組みたいわけじゃないんだ。

 たくさんの人に俺の動画を見てほしい。

 俺の動画を見て、ダンジョンってすげぇな。ダンジョン配信者ってすげぇところで戦っているんだな、ってのが伝わればそれで良い。


 まああとは、「『LUI』って謎の凄腕カメラマンがいるらしいぞ」っていう伝説的な存在になりたい、とかな。顔は見せず、その正体は誰も知らない、とかな。欲張り過ぎかな。


「この人、アタシのことわかってるって」


「……ん?」


「アタシのやりたいことや考えていることを全部理解してくれて、先回して撮影してくれているんだって」


 お、おう?

 まあ、ミオの動きはわかりやすいし、ただの力押しだから、それを映えさせるなんて大した撮影技術でもないしな。


「アタシのことをわかってくれる唯一の人に出逢えた」


 期待に満ちた熱い視線を向けられる。


「いや、待て……。それはちょっと……盛大に勘違いをしている」


 俺はお前の攻撃パターンを理解したに過ぎないからな。

 さすがに視野が狭いぞ!


「この人になら安心して背中を預けられる。そう思ったのよ」


 すっげぇ熱っぽい視線……。

 しかも距離が近い……どころじゃなくて、さっきからほぼ0距離。今もずっと手の甲を撫でまわされている……。


「まあ、そこまで高く評価してくれたのは……ありがたいが……」


 ちょっと離れようか?

 冷静にな?


「だからどんな人なのかもっと知りたくなって……調べてもらったのよ」


「調べてもらった……?」


「うん。パパに頼んでね」


 あー、さっき言っていたな。D省のお偉いさんのリアルパパね……。いやらしい関係じゃないほうのパパ。


「だからそれは完全に越権行為では? 一般人の俺のことを調査して、しかもそれを娘に開示しちゃうのは、役人として絶対ダメなのでは⁉」


「パパはアタシのことがかわいくてしかたないから大丈夫よ」


 あ、大丈夫じゃないのは俺のほうなんですよね。

 お前の心配は何もしていない。


「パパに調べてもらったら、『LUI』がまさか同じクラスの流野くんだったなんて……これって運命よね!」


 それはただの偶然だと思うが……。

 俺のほうは光崎さんのことを存在から丸ごと認識していなかったしな。学校の中だと地味だし。


「だから流野くん……ルイくんはアタシの運命の相手なのよ!」


 そう言って、両手で包み込むように俺の手を握ってくる。


 このシチュエーションって、まさか……⁉


「好きです。アタシのパートナーになってください」

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