あれから私も青空にぃも昼夜問わず、あの石について調べ続けた。図書館に足を運んだり、インターネットの海を彷徨ったり、時には青空にぃの知り合いの専門家らしき人物に話を聞きに行ったりもした。
光る鉱物、変色する石。
確かにそういったものは存在するらしい。だが、どれもあの時の出来事とは何かが違っていた。
光り方、色、変色の速度、規模。
どれをとっても、あのペンダントの石に起きた現象と完全に一致するものは見つからなかった。
時間だけが過ぎていき、あの石の変異の日から一週間が経った頃…夕飯の買い物を終えた私は重たいエコバッグを提げてアパートへ戻ろうとするとその異様な光景に私は足を止めた。
アパートの前に場違いな程に黒光りする高級車が停まっている。しかもその周囲にはサングラスを掛けた男達がゾロゾロと立っており、映画のワンシーンの様だ。
「何アレ…」
私は思わず呟いた。こんなボロいアパートにあの様な高級車が停まっているなんてどう考えてもおかしい。それに、あの男達の威圧的な雰囲気…どう見ても一般人には見えない。
借金取り、もしくは何か裏社会の人間だろうか。それとも、此処に住んでいる誰かが何かトラブルに巻き込まれたのだろうか?だとしたら、早く立ち去った方が良いかもしれない。
そう思いながらも、あのアパートには私の部屋もあるわけで…買い物の荷物も持ったままだし一刻も早く部屋に入りたい。私は仕方なくアパートの方へと近づいていった。
「あの、すみません。此処通りたいんですけど…」
男たちは私に気付くと、一斉に視線を向けた。
その鋭い眼光に私は思わず息を呑んだ。
「失礼致しました。あの…貴方様はこのアパートの住人様で?」
男たちのリーダーらしき人物が、丁寧な口調で話し掛けてきた。しかしその表情は何処か冷たく、私は警戒心を抱いた。
「は、はい。そうですけど…」
「失礼を重ね申し訳御座いませんが、お名前をお伺いしても?」
「月光、羽闇ですけど。」
その瞬間―周囲の空気が一変した。男達の顔から表情が消え、全員が固唾を呑んでいるのが分かった。
「……
リーダーらしき男が、静かに呟いた。
「見つけた、と連絡しろ。」
「オイ、お前ら。車の動かす準備をしろ!」
男達は慌ただしく動き始める。そして、次の瞬間には全員が私に跪いていた。
「お待ちしておりました、羽闇様。私共は月光家の使いの者です、大旦那様の命により貴方様をお迎えに参りました。どうぞ、中へお入り下さい。」
「…………はぁ?」
私は混乱した。
月光家?使いの者?大旦那?
一体、何がどうなっているの?私は親戚など誰もいない、お母さんからもそう聞いている。お父さんは私が生まれる前に亡くなっており、親戚もいない私は本来なら施設で育つ筈だった。だが、それを引き取ってくれたのは青空にぃのご両親だ。
「ちょっと待って下さい!私には親戚は誰もいない筈…!私を引き取ってくれたのは、母親の友人ですし。」
私が必死に抗議すると、リーダーらしき男は困った表情を浮かべる。
「詳細は大旦那様と直接お話した方が宜しいかと。悪いようには致しませんので、どうぞ中へ。」
男達は有無を言わさず私の背中を押し、私は半ば強制的に高級車へと乗せられてしまった。車内は広々としており、革張りのシートは高級感に溢れていた。
しかし、私はそんな事を気にする余裕はなかった。頭の中は、疑問と不安でいっぱいだった。
私を乗せた車は、大旦那様とやらのいる場所へと向かう。窓から見える景色は次第に変わっていく…古びたアパート街から、豪邸が立ち並ぶ高級住宅街へと。私の心臓は益々高鳴っていく。
………っていうか、これってどう見ても誘拐よね!?どうしよう、警察に通報した方がいいのかな…。
でも、もしかしたら何か隠された大きな秘密が明かされるのかもしれない。取り敢えず今は大人しく、彼らの指示に従おう。
私は緊張してガチガチになっているのを悟られない為に窓の外を眺めていた。遠くに見える高層ビル群が、まるで私を嘲笑っているかの様だった。