「うまー!」
ゲームセンターで遊び倒した私達は、近くのファーストフード店で食事をしていた。
実は鳳鞠君はゲーセンが大好きで、此処の常連らしい。その場所で私とデート出来た事が嬉しかった様で満足そうな笑顔でハンバーガーを頬張っている。
「それにしても、あんなところにプリクラ貼るなんて大胆というか…。」
「ん?何の話?」
鳳鞠君は目の前のポテトに手を伸ばしながら、不思議そうな顔で此方を見ている。
「プリクラよ、プリクラ。」
先程のゲーセンで撮ったプリクラを半分に分けた後、鳳鞠君はその場で自分のスマホケースに貼り付けた。
「しかも、大胆に♡ラブラブ♡って書いてたやつだしこんなの誰かに見られたら…。」
「えーっ、別に良いじゃん!婚約者同士なんだし。」
鳳鞠君はそう言って悪びれる様子もなく、私は言葉を詰まらせた。
「そうだけどまだ結婚するって決まったわけじゃないし…。」
「俺は羽闇と結婚するつもりでいるんだけどなー、今すぐにでも出来ちゃうよ。」
「まだ知り合ったばかりでそれは早いって。」
私は鳳鞠君の発言に苦笑いを浮かべながらコーラを一口含む。鳳鞠君って、周りが恥ずかしくて言えない事を平気で言ってしまうところがあるなぁ…。
「でも、それは他の候補達も同じだと思うよ?華弦なんてもうあからさまじゃん!てかさー、羽闇の好きなタイプってどんなの?」
「えっ、何いきなり。」
鳳鞠君がポテトを頬張りながら突然そう尋ねてくると、私は驚いて目を丸くした。ついさっきまでプリクラの話をしていたのに、急に好きなタイプの話になるなんて予想もしていなかったから。
「だって羽闇はどんなタイプの男が好きかっていうところで色々変わってくるじゃん。俺だって羽闇の好かれる男になりたいし!」
鳳鞠君は前のめりになって、真剣な眼差しで此方を見つめてくる。その瞳には冗談めかした光は一切なく、本気で聞いている事が伝わってきた。
「好きなタイプ、っていうか…。」
「ふんふん…」
『好きなタイプも何も、本当は夜空君の事が好きです』なんて、とてもじゃないが鳳鞠君に言えるわけない…!私は顔を赤らめ、視線を泳がせながら口籠っていると背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「あれ、羽闇…?」
「そ、青空にぃ!?何で此処に…?」
振り返ると、そこにはファーストフード店の制服を着た青空にぃが立っていた。まさかこんなところで会うなんて…。
「何って…見ての通りバイト中だけど。」
青空にぃは、戸惑った表情を浮かべながらそう言った。高校の頃からアルバイトをしているのは知っていたけれど、まさかこのお店だったなんて。
「あっ!それよりも羽闇!お前、いつの間にアパート引き払ってたんだよ!?部屋に行っても誰もいないし、心配になって両親に聞いてみればお前の祖父って名乗る人が引き取りに来たって…!」
「アハハ、どう説明したものか…。実は色々と事情がありまして…。」
青空にぃは月光家の事を詳しく知らない様だった。どう説明すればいいのか困っていると、テーブル越しに鳳鞠君の姿が目に入った青空にぃは、何かを確かめる様に彼をじっと見つめた。
「ん?その子、羽闇の友達か?お前に年下の友達がいたなんて知らなかったな。」
「あぁ、うん。この子は―…」
「…火燈鳳鞠、羽闇の婚約者だ。」
鳳鞠君はやや不機嫌そうな表情で席を立ち上がり、私を抱き寄せながらはっきりとそう宣言した。
『婚約者』という言葉が聞こえたのか、周りの客がざわつき始める。そういえば、鳳鞠君はその整った顔立ちからデート中も周囲の視線を集めていた。
「は?婚約者…?」
「羽闇。もう食べ終わったみたいだし、そろそろ出ようか。これ以上は、お店の迷惑になるかもしれないし。」
「え、待って…!まだ青空にぃに、ちゃんと説明出来てないのに…。」
鳳鞠君は私の手を強く引き、出口へと向かっていく。彼は先程までの明るさは消え、その表情は冷たく固まっていた。
私は青空にぃの方を振り返ると、彼はまるで時間が止まったかの様に呆然と私達を見つめていた。私は青空にぃに小さく手を挙げて、心の中で何度もごめんと繰り返しながら後ろ髪を引かれる思いでお店を出ていった。
「羽闇の婚約者…?一体、何がどうなってるんだ?」