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第21話【壱月の提案】

鳳鞠君とのデートから数日が経った。現在、私は外出禁止令を下された身である。何故その様な禁止令が出たのかというと、それは先日の鳳鞠君とのデート後に二人揃って壱月にこっぴどく叱られた時の事―。


「ごめんなさい…」


「羽闇は悪くないんだ!俺が羽闇を連れ回していたから…心配かけてごめん。」


玄関先で私達の帰りをずっと待っていたという壱月。門限を過ぎた事を何度も謝っているが、壱月は無表情のまま全く表情が変わらない。隣に立つ鳳鞠君も、しょんぼりとした様子で俯いている。


「羽闇様、火燈様、お気持ちは分かります。ですが、貴方がたは少し羽目を外しすぎました。お立場のあるお方として、夜遅くまでお出掛けになるのは如何なものでしょうか。ご存知かと思いますが、以前の襲撃事件の敵もまだ捕まっていないのですよ?」


そう諭された。確かに二人とも軽率だったとは思うけど…。そんな事を考えていると、壱月は更に続ける。


「それと…今回はお二人共に責任が御座いますので二週間の間、学校以外の外出は禁止とさせて頂きます。」


壱月は静かに、きっぱりとした口調でそう言い放った。


「えっ…外出禁止…?」


「はい。門限を破った罰です。」


私は思わず声を上げた。まさか、外出を禁じられるなんて。壱月の表情は厳しく、反論をしたところで此方の言い分を聞き入れる余地はなさそうだ。


「そんなぁ〜!」


「えー!俺、明日の放課後に期間限定のアイスを食べに行こうと思ってたのにー!」


学校以外とはいえ、二週間という期間は私にとってあまりにも長すぎた。私はがっくりと肩を落とすと、鳳鞠君も同じ様に肩を落としている。


「外出禁止の間は、家で大人しくしていて下さいね。」


そう言い残して、壱月は部屋を出て行った。二週間も外出禁止だなんて…。私は溜め息をついた。


「…ごめん、羽闇。俺のせいで…」


「鳳鞠君のせいじゃないって。私だってあれだけ壱月に念を押されていたのに時間を確認していなかったんだから。それでも今日、鳳鞠君と放課後デートが出来て本当に楽しかったよ!」


私はそう言いながら、駆け寄ってきた鳳鞠君の頭をそっと撫でた。申し訳なさそうな表情を浮かべていた鳳鞠君の顔が、少しだけ安心した様に和らいだ。


「羽闇…」


「ね、鳳鞠君。こんな事言ってたらまた壱月に怒られちゃうかもけど…遅くなった事に後悔はしてないんだ。だって、鳳鞠君と過ごした時間…すっごく充実してたもん。」


私はそう言いながら、鳳鞠君の手にそっと触れる。


「それにね、鳳鞠君。私…鳳鞠君の事もっと知りたい、もっと一緒にいたいなって思ったんだよ。だから…」


私は少し照れながら、鳳鞠君の顔を見上げた。


「だから、また今度一緒にデートしてくれる?」


私は少し照れながらも微笑みを浮かべて、鳳鞠君に問い掛ける。すると鳳鞠君は少し驚いた表情を見せた後すぐに笑顔へと変わり、私の手をとって両手で包み込む様にぎゅっと握った。


「勿論!俺もまた羽闇とデートしたい!それに羽闇の事、もっと知りたいし一緒にいたい!」


「ふふっ…ありがとう。鳳鞠君、あんな素敵にエスコートしてくれて疲れてるでしょう?今日はもう遅いし、早くご飯食べて休もうか。」


私はそう言いながら鳳鞠君の手を取って歩き出す。すると鳳鞠君は満面の笑みを浮かべ、私に抱きついてきた。


「ありがとー!やっぱり羽闇大好きだー!」


「ちょっ、鳳鞠君、苦しい…!」


「羽闇の事、もっと好きになりそう…!」


私は慌てて鳳鞠君の腕を解こうとしたが、彼はますます力を込めて抱きしめてくる。この子、結構力強いんだけど…!


「何をしているのですか、お二人共!騒がしいですよ!」


その時、背後から壱月の声が聞こえた。私たちは慌てて体を離したが、壱月は呆れた様に私達を見つめていた。


「全く、お二人共懲りないんですから…。」


今度は軽い方ではあるが、またもや壱月のお説教が始まってしまった…本当に厳しいんだから。でも、やっぱり二週間の外出禁止は長いなぁ…。私は心の中でそう思った。

そして今に至る。

外出禁止の間、私は家でボーッとして過ごしていくのかと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。あのお説教の後、壱月が「せっかくですから外出禁止の間、羽闇様にはある特訓をして頂きましょうか。」と言い出したのだ。詳細は準備が出来次第伝えると言っていたが、特訓…?特訓って何?もしかして花嫁修業の事かな?花嫁修業なら、お裁縫にお茶、それとお花とか…?どれも自信ないなぁ。そんな事を考えてながらベッドに仰向けで寝転がっていると、扉の向こうから控えめなノック音が聞こえた。


「どうぞ。」


私はベッドからゆっくりと起き上がり、返事をする。すると静かに扉が開き、壱月が姿を現した。


「失礼致します。羽闇様、ようやく特訓の準備が完了致しました。此方へどうぞ。」


「は、はい。」


私は部屋を出て、壱月の後について廊下を歩き始めた。歩く度に微かな音が響く。壁に飾られた美しい絵画や装飾品は、改めてこの屋敷の歴史と格式を感じさせる。


「ねぇ…壱月。特訓って言ってるけど一体何をするの?」


「それは後程ご説明致します。」


私は少し不安になりながら壱月に尋ねてみるが、壱月はにこりともせずに淡々と答える。その返答に私は少しがっかりしながらも壱月の後ろ姿を見つめる。壱月がそこまで教えてくれないなんて一体どんな特訓が始まるんだろう…。私は不安と期待が入り混じる気持ちで、壱月の後を追った。

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