「……おい」
あれ・・・・・・? どこからか声が聞こえてくるような・・・・・・? 確か、わたくし首チョンパされて死んだはずでは・・・・・・?
「いい加減に起きろ。女」
また聞こえたわ。どうやら気のせいってわけではないみたいね。
・・・・・・でも、どうしてわたくしまだ生きてるのかしら? 確かに首チョンパの描写は大人の事情でカットしたけれど。はっ! まさか、これが「シュレディンガーのチョンパ」ってやつなのかしら!?
・・・・・・それにしても、さっきからこの人の声、低いし小さいし抑揚無いしで、本当に起こす気あるのかしら? もっと腹から声を出しなさいよ。
でも、渋めの低音イケボだから耳は幸せ・・・・・・! いっそ、このまま起きずに聞き続けていようかしらね。
「ちっ……まさか、死んだのか?」
イケボさんがわたくしの側でしゃがむような気配。すると次の瞬間、わたくしの首筋を異様に冷たい手が触れました。
「ひゃわあああーーー」
氷でも押し当てられたのかと錯覚するほどの冷たさに、思わず跳ね起きてしまうわたくし。つい奇声まで上げてしまい、恥ずかしいったらありません。
「ちょっと貴方、いきなり何を……って……」
不意の狼藉に憤りイケボさんを睨みつけようとすると、そこにいらっしゃったのは……
綺麗な下半月状のまるで生気を感じられない目! 無造作に下ろされた銀の長髪! 血色悪いとかの次元を通り越して、完全に真っ白しろすけな肌! 背中には蝙蝠みたいな黒くて立派な翼! お尻からは槍のように鋭くて長い尻尾!
「きゃあああ!!! 悪魔ぁぁぁ!!!?」
ちなみにすっぽんぽんでございますわ! 人型なおかげで細マッチョイケメンみがあって、とってもセクシー! でも目のやり場に困っちゃいますわ!
「……今更何だ? 初対面でもあるまいし」
いろんな意味で思わず叫んでしまったところ、なんだかとっても面倒くさそうな反応をされてしまいましたわ……。でも、ダウナー系の美形なご尊顔のおかげで、そんな様もとっても絵になりますわね。
・・・・・・って、ん? 「初対面でもあるまいし」? いやいや、わたくし確かにお顔は広い方ではございますが、さすがにこんなイケ悪魔の知り合いなんていませんけども・・・・・・?
そういえば、イケ悪魔さんのことに夢中でつい見落としていましたけれど、この見知らぬ部屋はいったいどこのお屋敷なのかしら……? 私のお部屋にも負けず劣らずの広くゆったりとしたお部屋ですけど、不気味なほど飾りっけがなくて殺風景ですわね・・・・・・。
・・・・・・もしかして、このイケ悪魔さんの私室かしら? 花や調度品にはいかにも興味ないってお顔に書いてありますけれど、壁・天井・床に至るまで全て白一色なのはさすがにセンスを疑わざるを得ないですわね・・・・・・。
「……まあいい。そこに食事がある。あとで食べておけ」
イケ悪魔さんの指差す方には、例に漏れず真っ白なテーブルと、そこに配膳されたとってもお質素なお食事。……パンらしき何かが一切れ置いてあるだけのもの。囚人でももう少しまともな食事出されてると思いますが……。
「……レディのもてなしにこれはあんまりではなくて?」
まるで事情がわからないうちは、極力黙ってやり過ごそうとしていましたのに、あまりのお質素ぶりに思わず口をついて出てしまいましたわ。
「人質のくせにずいぶん贅沢だな……」
しかし、イケ悪魔様の反応は心底呆れたようなものでございました。わたくし何かおかしいこと言いましたっけ?
・・・・・・って、え? 人質? わたくしあの絶体絶命の状況から誘拐されたんですの・・・・・・? でも、いったいどうやって・・・・・・?
もしかして、このイケ悪魔さんが処刑寸前のわたくしと愛の逃避行を遂げた王子様・・・・・・ってコトォ!?
「王女の貴様に死なれたら、勇者共をおびき出すためのエサがなくなるから生かしてやっているだけだ。そこのところを勘違いするなよ」
わたくしが妄想にふけっていると、イケ悪魔様から答えが返ってきました。なるほど、そういうことでございましたのね。
・・・・・・って、ん? 王……女……? わたくし確かにいいところの御令嬢ではありますけれども、さすがにそこまでやんごとなきご身分ではございませんが・・・・・・?
それに・・・・・・勇・・・・・・者……? おファンタジーな本くらいでしか使わない言葉ですけど、そんなお方実在するのでございます?
「分かったら、黙ってそれを食べておけ」
わたくしが頭に大量のハテナを浮かべているとも知らず、イケ悪魔様はそれだけ言い残し、踵を返して部屋の外へと出て行ってしまわれました。
これでやっと自由に動けるようになりますわね。まず第一に、鏡で自分の姿を確かめておきたいのですわ。
と言いますのも、実は先ほどから薄々感じている違和感がいろいろございまして・・・・・・。例えば、そうですわね……万年苦しめられてきた肩の重みがやけに楽になっていることとかかしら?
あっ、よく見たらそこの壁にかかっていますわね。部屋中真っ白でとても分かりにくいですが……。
目の前に立ってそっと覗き込んでみると……
「だ、誰よ!? この女!?」
そこに映っていたのはなんと、白銀のさらっさらストレートヘアがよく似合う、なんとも儚げなTHE・美少女ではありませんか!?
わたくし自慢の巻きに巻いたボリューミーなゴールドヘアも、殿方の視線を釘付けにして離さないダイナマイトなバディも、悪役令嬢のたしなみ・美しく鋭い眼光も、全てどこかに捨ててきたみたいな対照的なルックス。
でも、悔しいですが、わたくしの負けを認めるしかないですわ。いや、今はこの方がわたくし・・・・・・のはず?・・・・・・なんですけども。
舞い散る雪の華のように美しく、触れれば溶けてしまいそうな儚さを兼ね備えたこのお姫様力は、凡人がいくら努力しても決して近づくことさえ適わない天性の美と言わざるを得ないですわ。
・・・・・・でも、どうしてわたくしがこんな正統派にして清純派なTHE・美少女の姿に? わたくしは確か、あのとき首チョンパされて……
・・・・・・はっ! バラバラだった情報が一本の線につながり、「カミュ―リアに電流走る――!」……ですわ!
これって……もしかして……!
「転生した……ってコトォ!?」