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転生した悪役令嬢、救出される

「……どうした?」


 わたくしがいきなり上げた奇声を聞きつけ、イケ悪魔さんがマッハで戻ってきましたわ。・・・・・・こう見えて意外と面倒見のいいタイプなのかしら?


「い、いえ・・・・・・。なんでもありませんわ・・・・・・。おほほ」


「……?」


 伝家の宝刀「令嬢流ごまかし笑い」でその場を凌ごうと試みましたが、完全におかしな娘を見る目で首をかしげられてますわね……。


 ・・・・・・しかし、もし本当に転生したのだとしても、状況が分からなさすぎるのも困りものですわよね。この際ですから、このイケ悪魔様にいろいろ聞いてみるのも一つの手かもしれないですわ。


「ええと・・・・・・つかぬことをお聞きするのですが……わたくしはどうしてここに……?」


「……頭でも打ったのか?」


 当然のことではありますが、すっごく怪しまれてますわね・・・・・・。でも仕方ないじゃない。なんたってわたくしだって何が何だかさっぱり分からないのですから。


「・・・・・・魔王様に歯向かう愚かな勇者共をおびき寄せるエサに決まっているだろう」


 ふむふむ。なるほど? なにやら魔王軍にさらわれた姫君ことわたくしのことを勇者たちが救い出しにくるっていう、おファンタジーのお約束みたいなことなのかしら?


 ・・・・・・と、いうことはですわ。わたくしのことをとっても勇者様が連れ戻しに来てくださる……ってコトォ!? 


 あら、大変! こうしちゃいられませんわ! 


 ・・・・・・でも、このイケ悪魔さんも捨てがたいのですわよね。まさに「やめて! 私のために争わないで!」ってやつですわね。前世(?)では無縁だったイベントがこんなすぐにやってくるなんて。さすが、正統派ヒロインのお姫様になっただけのことはありますわ。


「ハイド様! 敵襲です!」


 わたくしがそんな妄想にふけっていると、慌てた様子の骸骨兵士さんが一人飛び込んで来ました。……骸骨はちょっとイケメンかどうかの判定に困りますわね。


「勇者か……。わかった、すぐに行く。それまで正門の守りを固めておけ」


「はっ!」


 どうやらイケ悪魔、もといハイド様は魔王陣営のお偉いさんみたいですわね。部下を指揮する姿も様になっていて素敵ですわ。


 でも、いけない。わたくしにはすでに勇者様という未来の約束されたお方がいるのですわ……!


「……逃げようなどと馬鹿な考えを起こすんじゃないぞ」


 低くドスの利いた声で脅すように言い残して去っていくハイド様。


 心配しなくてもわたくし一人で逃げたりしませんわ。なんたってな勇者様がわたくしを救い出してくださるはずですもの。


 ・・・・・・でも、勇者様が来るってことは、やっぱりハイド様は殺されてしまうのかしら? それはかなり惜しいですわね……。やめて! わたくしのために争わないで!


 ガシャン! 


 またまたそんな妄想にふけっているうちに、真横で突如、窓ガラスの割れる音が響き、白銀の鎧兜を身につけた騎士が一人、部屋の中へと入って来ました。この方って、もしかして……!


「ご無事でしたか、姫!?」


 やっぱり勇者様ですわ!


「失礼致しました! お顔もお見せせずに申し訳ありません!」


 くぐもった声とともに、兜の首に手をかけ持ち上げる勇者様。さあ! そのイケてるご尊顔を存分にお見せくださいまし!


 大興奮で眺めるわたくしの目の前で、そのヴェールならぬ兜からお出になられたのは……


 ボサボサで生え際の退行した髪! くすんだ灰色の瞳! 豚みたいに大きな鼻の穴から覗く鼻毛! 厚ぼったいタラコくちびる!


 ・・・・・・わたくしの中の勇者様像が脆くも崩れ去っていく音が聞こえるようですわ。なんと! わたくしを助けにきたのは、Notイケメンな勇者様だったのです!


「さあ、姫! 私と一緒に、ここから逃げましょう!」


 勇者様はわたくしの身体を軽々と抱えあげ、いわゆるお姫様だっこで、入る際に割った窓の方へと向かって行きます。


 ・・・・・・ああ。わたくしはこれから、この方と共に愛の逃避行ランデヴーと洒落込むことになるのですわね。


 Notイケメンなのは残念ですけれど、命がけでわたくしのことを救い出しに来てくださったんですもの。一番大切なものは決して、顔の美醜なんかではありませんわ。


 ですから……わたくしは……


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