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救出された姫君、やってしまう

 ・・・・・・やってしまいましたわ。


 え? 「何をやったのか」ですって・・・・・・? 


 文字通り「ってしまった」のですわ!!!


 わたくしの囚われていた砦から少し離れた先にある、静まり返った不気味な森の中。そこで今、わたくしの足元に転がっているのは勇者様・・・・・・だった者の黒焦げ死体。


 あの後、わたくしを抱えた勇者様はそのまま窓から飛び出し、この森の中へと入って行きました。魔王軍の警戒の虚を突いた形になったのか、逃避行はあっさりと成功し、わたくしたちはこの誰もいない静かな森で二人きりとなったのです。


 勇者と姫君、何も起きないはずもなく……追手が来ないことを確認すると、勇者様はわたくしに口づけをしようとしてきました。わたくしもこの時までは受け入れる気でいましたわ。そう、この時は・・・・・・!


 キス待ちで閉じていた瞳をこっそり薄く開いてチラ見してみると、近づいてくるのは・・・・・・やっぱりタラコ唇! それに豚っ鼻から飛び出す鼻毛!


 ・・・・・・一度は受け入れる気でいましたけど、やっぱりこんなブス勇者は嫌!!!


 途端に生理的嫌悪感MAXとなったわたくしは、近づいてくるそのブス顔を両手で拒み・・・・・・魔法をぶっ放してしまったんですわ。


 え? 「いくらブス相手だからってそこまでしなくていいじゃないか!? この人でなしの面食い女!?」ですって?


 わたくしだって別に殺すつもりまではなかったですわよ!? ちょっと電撃で痺れさせて、その隙に逃げようと思っただけですわ! 


 あの貧弱なカマトトヒロインならともかく、屈強な勇者様がこれくらいで黒焦げになるなんて思いもしなかったんですもの! これは不可抗力・正当防衛でございますわ! 0:10とまでは言いませんが、1:9くらいでわたくしは悪くありませんわよね!?


 しかし、いくらわざとではないとはいえ、殺ってしまったことに変わりはありません。このままでは「助けに来た勇者がブスだったからという理由だけで殺した面食い姫」との汚名がついてしまいますわ・・・・・・! 


 せっかく正統派ヒロインっぽいお姫様に転生できたというのに、どうしてこんなことに……。


 ・・・・・・とりあえず、この黒焦げ死体は埋めておいた方がいいのかしら?


「ちっ、勇者の奴め。他メンバーを囮にして俺達を引き付け、自分は単騎で人質の奪還とは……。ずいぶん小賢しい真似をしてくれる……」


 そんなかんなで、この黒焦げ死体を埋めようか悩んでいたところ、逃げ出してきた方角から誰かの足音と共に、何だかぼやくような声が。 


 ・・・・・・この低音イケボイスは!


 そうでしたわ! わたくしにはハイド様という心に決めたお方がいるではありませんか!


 ・・・・・・どのみち「勇者を殺した」なんてことがバレようものなら、わたくしにはもう、魔王軍に寝返った闇墜ちヒロインとして生きていくしか道はありませんし。


 そうと決まれば、今するべきことは・・・・・・!


「ハイド様ーーー!!! 勇者(の死体)はこっちですーーー!!!」


 わたくしはブス勇者の黒焦げ死体を埋めるのをやめ、愛しのハイド様のことを大声で呼ぶことに致しました。


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