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やってしまった姫君、拉致される

「これは……いったいどういうことだ……?」


 さしものハイド様も困惑されておいでですわね・・・・・・。


 まあ、無理もありません。逃げだしたはずの人質がわざわざ、敵の追手である自分のことを大きな声で呼び寄せてきたのですから。それに飽き足らず、黒焦げにされた勇者の死体まで転がっているときた日には、そりゃあもう意味不明・まるで意味が分からんぞ状態なはずでございますわ。


「……これをやったのは貴様か? 女?」


「い、いえ……。勇者様は……突然現れたリヴァイアサンの雷で……」


 とりあえず、生前のおファンタジー知識を駆使して言い逃れをしようと試みましたが……。


「ほう、海の悪魔がこんな森の中にか。それは一大事だな。……くだらない嘘は身を滅ぼすぞ。女」


 なんと、一瞬でバレてしまいましたわ……。ここは完全に向こうの庭。付け焼刃のおファンタジー知識では、まるで歯が立ちませんでしたわ……。


「王国の姫君は、魔力を持たない箱入り娘と聞いていたが……」


 ハイド様はなにやらブツブツと呟いておられますわね。どうやら、わたくしの転生したこのお姫様は、守られるのがお仕事のか弱いヒロインタイプだったみたいで、そんなわたくしが勇者様を黒焦げにしたという事実に困惑しているみたいですわ。


「まあ・・・・・・魔力持ちなら御子を成すのに好都合か」


 まあ、子を成すだなんて……! ハイド様、それはちょっと気が早すぎるのではなくて・・・・・・!? でも、もしハイド様がその気なら・・・・・・わたくしはいつでも……!


「勇者が死んだ以上、この砦に置いておく意味もないしな・・・・・・」


 何やらブツブツと考えごとをしながら、こちらへと接近してくるハイド様。・・・・・・いくら異種族だとはいえ、すっぽんぽんの細マッチョボディが至近距離に迫ってくるのは、いささか心臓に悪いですわね。


 心拍数を上げている私のことなど露知らず、いつの間にかゼロ距離まで迫ってきたハイド様。・・・・・・いささか近すぎるのではありませんこと!?


「ハ、ハイド……様……? ひゃわあぁぁぁ!!!」


 すると突然、ハイド様の細長い腕が腰へと回され、わたくしはまた変な声を上げてしまいました。急なスキンシップに驚いたのはもちろんですが、主な原因は、ハイド様の腕が相変わらず氷のように冷たいせいですわね。


 しかし、息つく間もなく、ハイド様はわたくしを……そのまま軽々と小脇に抱え上げてしまいました。わたくしのニューボディが軽いせいもあるのでしょうが、こんなガリガリの身体のどこにそんな筋力が……トゥンク……じゃ、なくて!


「えっと・・・・・・ハイド様・・・・・・? わたくし幼児ではありませんので、もっと優しく抱えていただけると……」


「行くぞ」


 わたくしの文句には耳すら貸さず、その大きく黒い翼を広げるハイド様。


 ・・・・・・え? これって……もしかして……


「いやあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」


 嫌な予感は的中し、ハイド様は翼を羽ばたかせ、夜空高くへと飛び立っていきました。……わたくしを小脇に抱えたままで。


「……あまりやかましいと落とすぞ、女」


そんなこと言ったって! こんな頼りない細腕一本だけが命綱の空の旅、騒ぐなって方が無茶ではありませんこと!?


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