うーん……。つぶらな瞳と真ん丸お腹はキュートだと思いますけれど……。
・・・・・・え? いきなり何の話をしているのかですって?
「高い・速い・怖い」の三重苦な空の旅を経て、わたくしは魔王様がいるというお城まで連れて来られたんですの。なんでも、わたくしのことを魔王様に嫁がせるつもりなのだとか・・・・・・!
てっきり、ハイド様とのキャッキャウフフ展開を想定していたわたくし。完全に騙された気分でございますわ!
・・・・・・え? ハイド様はお前とキャッキャウフフするなんて一言も言ってないだろって? お黙り!
でも、ハイド様のお姿を見る限り、悪魔族にはなかなか期待ができそうな気がするんですの。・・・・・・もしかしたら、魔王様はハイド様が霞むほどのイケメン悪魔かもしれませんしね!
そんな思惑を抱いて臨んだ魔王様とのお見合い。と言っても、わたくし側に拒否権はなさそうでしたが……。
そして、ついに相まみえた魔王様のお姿は……はっきり言って、まるまると太った豚さんでございました。それも容姿の揶揄とかではなく、文字通りの。強いて豚さんと異なる点を上げるとするならば、ギリギリ二足歩行ができそうな体格ということぐらいじゃありませんこと……?
・・・・・・え? わたくし、この豚さんに嫁がされた上に、子作りまで……? 考えただけで血の気が引くようでございますわね・・・・・・。
なんとかこの婚約を避ける手はないのでしょうか?
いっそ、このまま走って逃げるのは……現実的ではありませんわよね……。腕を組んだハイド様がこちらを見張っていますし、仮に城から逃げおおせたところで、ここがどこなのかも分かりませんし……。
ああ、勇者様……! この哀れなわたくしをお助けくださいまし! あなた様の愛する姫君が今、醜い豚さん魔王に無理やり嫁がされそうになっていますわよ!? ……って、勇者はわたくしがもう殺したから、いないんでしたわね。
・・・・・・いっそ、魔王も殺してしまおうかしら? 勇者があんなあっさり黒焦げになったのですから、わたくしの魔法は魔王相手にも通用するんじゃないかしら?
でも、たとえ前世の力を引き継いでいたとしても、わたくし魔力量が多いだけで、けっして戦闘のエキスパートではありませんし・・・・・・。こんな敵陣のど真ん中で大立ち回りをするのはさすがにリスキー過ぎますわよね……。
「もうよい。下がれ」
わたくしがああでもないこうでもないと頭を悩ませていると、ついに魔王様が沈黙を破りました。途端に重苦しい空気に包まれる城内。
……っていうか、人の言葉話せるのですね。この豚さん。
「しかし……! この女の魔力量であれば、さぞかし強力な御子が……!」
豚さん魔王の言葉に対して平伏しながらも、食い下がろうとするハイド様。・・・・・・せっかく向こうから解放してくれそうなのですから、余計なことを言わないでくださいまし!
「余がこのような醜悪な見た目をしているせいで、そこな娘が嫌がっているのは分かっておる。それを強引に嫁がせるというのは、余にとっても本意ではない」
なんて話の分かる魔王様なのでしょう! 中身のイケメン度なら、なかなかいい線をいっていそうですわね! 惜しむらくは、外見が豚さんでさえなければ……!
そして、ハイド様がとんでもなく恐ろしい目でこちらを睨んでいますわね……。だって、仕方がないではありませんか……!
「勇者もすでに退けた以上、王国の姫君を人質に取っておく意味もないのだが・・・・・・とはいえ帰すわけにもいくまい。そこな娘の処遇はハイデンリヒター卿、お主に任せよう」
ああ! これでわたくしとハイド様の仲は魔王様公認ですわね。一時はどうなることかと思いましたけど、これにて一件落着ですわ。
……ところで、ハイド様が鬼の形相でこちらを睨んでいるのですが、わたくし殺されたりしませんわよね……?