目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

お見合いを終えた姫君、投獄される

 その後、わたくしは行きと同様ハイド様に抱えられ、「キング・オブ・安全性軽視」な恐怖の空の旅を経て、元の砦へと帰って参りました。


 ・・・・・・なんだかどっと疲れましたわね。今日はもう、あの白一色の悪趣味部屋でゆっくり休むとしましょう。


「・・・・・・おい。どこへいくつもりだ?」


 すると、部屋の方へと向かおうとするわたくしの手を、後ろからハイド様が掴んで言いました。


「え? どこって・・・・・・お部屋ですが・・・・・・?」


「こっちへ来い」


 いきなりのことで困惑するわたくしをよそに、手を引いてどこかへ連れていこうとするハイド様。


 ・・・・・・はっ! もしかしてこれは「俺の部屋に来い。今夜は寝かさないぞ」コース!? 


 キャー! わたくしまだ、心の準備が……!


 ***


 ハイド様に手を引かれるがまま、たどり着いたのは……薄暗くじめじめとした、ムードもへったくれもない空間。


「・・・・・・って、ここ地下牢じゃありませんの!?」


 え!? わたくし収監されるんですの!? これから始まる囚人ライフ!?


「あれ、ハイド様? その女、魔王様に嫁がせるんでなかったですかい?」


 牢の鉄格子前で見張りをしていた獄卒と思しき骸骨兵士が、ハイド様とわたくしの姿を見るやいなや声をかけてきました。


「その予定だったが、破談になった。魔王様のお眼鏡には適わなかったらしい」


 ちょっと!? わたくしがあの豚さんにフラれたみたいな言い方よしてくださる!? 不名誉極まりないですわ!


「へー、そいつは意外ですね。見た目は良いと思うんですがね」


「見た目はな。別にお前らの好きにして構わないが、王国に身代金を請求するために生かしてはおけよ」


「へいへい、分かりやしたよっと」


 だけを強調しないでもらえるかしら!? まったく失礼しちゃいますわね!?


 しかし、そんなわたくしの訴えなど耳にも貸さず、獄卒さんにわたくしの身柄を引き渡すと、踵を返して去ってしまうハイド様。


 いやー! わたくしをこんなけだものだらけの巣窟に置いてかないでくださいましー!


「おらぁ! さっさと入りやがれ!」


 骨だけボディのくせに意外と力強い獄卒さんに後ろから尻を蹴り飛ばされ、わたくしは敢え無く投獄されてしまいました……とほほ……


 あんまりの扱いにわたくしが途方にくれていると、その後ろから中性的な声が。


「あなたは、まさか……姫様……ですか……?」


 声のする方へ振り向くと、そこには3人……いや、2人と1匹の姿がありました。


 一人目は先程の声の主でもある、赤髪を短く切り揃えたボーイッシュな髪型が、切れ長の整った顔立ちに映えるイケメン風女騎士。


 もう一人はなんかそれっぽいドレスローブの聖女。


 そして最後に、魔法使いの大きな三角帽を被った……ゴリラ……? 


 ……いや、けっして容姿の揶揄とかではなくて、本当にゴリラなんですの。


「名乗りもせず申し訳ありません。私は勇者パーティの騎士・フィリアと申します」


 女騎士のフィリアさんが恭しくかしずいて自己紹介をされました。女性ではありますが、イケメン力高めの方にかしずかれるのは気分がいいですわね。


「聖女のリリーですぅ」


 次いで聖女のリーナさんが、作っているのが見え見えの可愛い子ぶった声で挨拶してきました。……コイツはぶりぶり女でいいですわね。けっ!


「ウホウホ」


「『僕は魔法使いのゴリロウです』・・・・・・と申しております」


 ゴリロウさんは人語を話せないみたいで、フィリアさんが通訳をしてくださりました。……フィリアさんにはゴリラ語が分かるのでしょうか?


「姫様がここに囚われていらっしゃるということは……勇者アレクサンダーは……?」


 全員の自己紹介を終えると、重々しい様子でフィリアさんが続けました。


 ・・・・・・あのブス勇者、そんな無駄にカッコいい名前でしたのね。ブスのくせに。


「勇者・アレクサンダーは、敵の追手・ハイデンリヒターの雷からわたくしを護って……」


 ・・・・・・まさか取り残されたパーティーメンバーの目前で「ブスだったから殺しました」なんて言えようはずもないですわよね。とりあえず、ハイド様が殺ったことにして誤魔化すこととしました。


「そんな……! アルくん……!」


 ぶりぶり女が泣き真似をしてやがりますわ。なーにがアルくんだ。けっ!


「・・・・・・でも、あのハイデンリヒターって悪魔、リリーたちと戦ったとき雷なんか使ってたっけ?」


 ちっ、ぶりぶり女のくせに勘がいいですわね。ぶりぶり女のくせに。……コイツは早めに殺しておく必要があるかしら?


「ウホウホ」


「『僕の装備が雷無効だから使ってこなかったのではないか?』……と申しております」


 装……備……? わたくしにはゴリラの天然毛皮にしか見えませんが……。


 っていうか、フィリアさん。自己紹介のときと今の言葉、何が違うのかまったく分かりませんでしたが、本当にその通訳合っているんですの・・・・・・?


「・・・・・・私たちが不甲斐ないばかりに! ヤツをもっと足止めできていれば、勇者と姫様だけでも……!」


 床を叩いて悔しがるフィリアさん。そんな姿もなかなか絵になりますわね。さすがのイケメン力ですわ。


「・・・・・・そう自分を責めないでくださいまし。今はここから逃げる方法を考えましょう。……亡き勇者・アレクサンダーの犠牲に報いるためにも」


「姫様……!」


 ・・・・・・まあ、殺したのはわたくしなんですけれども。嘘も方便・言わぬが花ってやつですわ。


「ウホウホ」


「『隠し通路へつながる扉らしきものは見つけました』・・・・・・と申しております」


 ・・・・・・やはり何が違うのかまったく分かりません。ゴリラ語は奥が深いんですのね。


 そして、ゴリロウさんの言う通り、彼が指差した方向にはボロの丸扉がありました。


「でも、強力な封印がされてて、ビクともしないんだよね……。リリーの探知魔法によれば『雷属性の超特大ダメージを与えることで解除できる』はずなんだけれど、ゴリっちの魔法じゃうんともすんとも言わないんだよね」


 それは、ぶりぶり女の探知魔法がポンコツだからではなくて? ぶりぶりしてるから魔法の腕も鈍るんですわ。


 ・・・・・・でも、「雷属性の超特大ダメージ」ねえ。もしかして……


「皆様、少し離れていてくださいますか?」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?