「なになに!? いったいどういうことぉ!?」
唐突に視界を覆い尽くすかのように立ちこめた白煙に困惑するぶりぶり女。
徐々に引いていく、その煙の中から姿を現したのは・・・・・・。
群れの長たるシルバーバックの毛色を彷彿とさせる灰色の長髪をたなびかせ、全身には発達した筋肉の鎧をまとい、褐色の肌に精悍な顔つきをした雄々しいニンゲンのオスでした。・・・・・・あらやだ、ゴリロウさん。貴男こんな褐色イケメンでしたのね・・・・・・!
「お前は・・・・・・ゴリロウ・・・・・・なのか・・・・・・?」
信じられないものを見るような目のアレクサンダー。構えた剣の切っ先が、動揺でわずかに震えていますわね。
「そうだよ、アレクサンダー。
ゴリラ時代に負けず劣らずのゴツい肉体と、その精悍な顔つきから繰り出されるのは、少し幼さを残したような高めの声。・・・・・・いささか脳がバグリそうになりますわね。
「・・・・・・って、服着なさいよ! このヘンタイが!」
顔を真っ赤にしたぶりぶり女が、勢い任せに光の弾を飛ばして攻撃をしかけました。しかし、その攻撃がゴリロウさんの身体に届くことはなく、見えない壁に阻まれたかのように手前で弾け、消滅してしまいました。
・・・・・・ゴリラの段階で何も着ていないんですから、変身したからといって都合よくいきなり服が現れるわけないでしょうに。まったく、頭の弱いぶりぶりですこと。
「・・・・・・で、アレクサンダー。フィリアはどうしたんだい?」
鬱陶しいぶりぶり女からの茶々入れも意に介さず、アレクサンダーを見据えて静かに口を開くゴリロウさん。
「だから『置いてきた』って言ったろ? 今度こそ殺されたかもしれないな。ハイデンリヒターの奴によ」
「……そう」
憂いを帯びた表情の内に、静かな怒りを燃やしているのが分かるゴリロウさん。・・・・・・そんな仲間思いな姿も素敵ですわね。
「ふん。どういう手品を使ったんだか知らないが、お前なんか所詮は低級魔術師。毛皮による固い防御をみすみす捨てたことを、あの世で後悔するんだな!」
剣を大きく振りかぶり、勢いよく縦に振り下ろすアレクサンダー。しかし、ゴリロウさんはその一閃を杖で軽く受け止め、薄く笑みを浮かべました。
「そうさ。キミの言う通り、僕は低級魔法しか使えない。・・・・・・なぜだか分かるかい?」
急な問いに虚を突かれたのか、素っ頓狂な表情になるアレクサンダー。
「それはお前、ゴリラだから人語の呪文が・・・・・・。・・・・・・!!!」
そう答えかかったところで何かに気づき、とっさに飛び退いて距離を取ろうとするアレクサンダー。
「気がついたみたいだね。でも・・・・・・もう遅いよ。・・・・・・怒れる森の霊長よ。今こそその憤怒を現出せよ! 『クリムゾン・ゴリフレア』!」
ゴリロウさんの杖から放たれた真紅の火球が、アレクサンダー目掛けて高速で飛んでいきます。回避が間に合わないとみたアレクサンダーは自慢の盾で防御を試みますが・・・・・・。
「アルくーーーん!!! ・・・・・・そんなぁ!」
たちまち、アレクサンダーの身体は真紅の火柱へと呑みこまれ、瞬く間に黒焦げの死体ができあがりました。・・・・・・まったく。よく焦げる勇者でございますこと。.
一人取り残される形となり、うろたえるぶりぶり女。・・・・・・さあ、どう調理してやろうかしら?
「さて、リリー。残るはキミ一人だけど、まだやるかい?」
「うう・・・・・・」
ゴリロウさんにすごまれ、へっぴり腰で目に涙を浮かべるぶりぶり女。
「・・・・・・ゴリくんごめんねぇ~。リリー酷いこと言ったの謝るからぁ~、ゴリくんの仲間に入れて欲しいなぁ~って・・・・・・」
・・・・・・なんて恐ろしく速い変わり身。わたくしでなくても見逃さないレベルですわね。
その気色悪い上目遣いを今すぐ止めてくださる? 虫唾が走りますわ!
「・・・・・・どこでフィリアを置いてきたのか教えてくれたらね」
もしかして・・・・・・ゴリロウさん、フィリアさんを助けに行く気なんですの!? わたくしとしてもイケメンが増えるのは嬉しいですが、それは少し無謀なのでは・・・・・・?
「えっと、確かぁ・・・・・・アルくんが死んでたあの森でぇ・・・・・・」
ぶりぶり女がオロオロと口を開いた、その瞬間・・・・・・。
ボウン!
ゴリロウさんの身体が、再び白煙へと包まれました。