「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
馬車を降りたマリーンお嬢様に深々と腰を折って最敬礼。
「うん、帰りはいつも通りの時間に迎えに来てね」
ひらひら手を振ってお嬢様が校内へと消えていく。ここから先は我々のような使用人が足を踏み入れる事ができない領域です。
しかし、この先はお嬢様に仇なす者達の巣窟。
下半身に節操のない女の敵レッド・ブラックシーを始め、
ですが、どんなに心配しても無力な私は無事を祈り見送る事しかできません。
「だがしか~し、この程度で諦めてはお嬢様の専属侍女など務まりません!」
私は侍女服に手をかけるとバサッと一気に剥ぎ取る。
「あのぉ、ホントにそのお姿で学園に潜入されるので?」
御者が不躾に私を上から下まで見ていますが、何ぞおかしいところでもあるんか。
「当然です。学園は貴族子女しか入れないのですから変装は必須ではありませんか」
「変装なら何も学生服でなくとも」
「何を言っているんです。制服は学園潜入の定番ではありませんか」
「ですが、それではかえって目立ってしまうように、あっしには思えるんですが」
何です? 年齢か? 年齢の事を言ってるんか?
私が年増だからって制服姿が痛いとでも言いたいんか。クスン。
「むぅ、悪かったですね。どうせ二十過ぎの私では制服姿は似合いませんよ」
「いえ、むしろ似合い過ぎているから問題なんです」
「同情ならけっこうです」
「いえ、同情ではなく、学園がイケナイお店に……いえ、なんでもありません」
くっ、御者め、私の制服姿がイタ過ぎると言いたいのか。ですが、私はお嬢様を影に日向に見守る専属侍女。どんなに痛い恰好であろうとお嬢様の為ならどんな恥だってかいてみせます!
と言うわけで、今現在、私はお嬢様の通われている学園へと女生徒に扮して潜入中でございます。
ふふ、変装が功を奏しました。誰も私がここの生徒だと疑っていないようです。ちょっと守衛の者に二度見、三度見され、立ち去る時も背後からねっとりした視線を向けられましたが。
だがしか~し、校内の生徒達に紛れて、全く違和感がありません。
ほら、校内では誰も私なんて気にも止めて……ん?
「おい、あれ」
「むっ、なんだあの女生徒は」
なにやら私を見て男子生徒が騒ぎ始めましたが……どうしたのでしょう?
「あんな女子いたか?」
「一年生だろうか」
二十過ぎの女が制服を着るのは痛すぎたんか?
だから、かえって目立ってしまっているんか?
「いや、あれを一年と言うにはさすがに無理があるだろう」
「ああ、ちょっと育ち過ぎだな」
てめぇら、私が老けてると言いたいのか!
むぅ、確かに私にもいい大人がキャピキャピした若い子に混じって女生徒の制服を着るのには抵抗がありました。ですが、こうして見れば私もなかなかイケてるじゃないですか。
きゃる〜ん♡
「グハッ!?」
「なんて破廉恥なんだ!」
むっ、ちょっと年甲斐もなかったですか。やけに視線を集めてしまいました。やはり、若い子ぶってかわい子ぶりっこするものではありませんでしたね。くすん。
しかし、視線の集中する先がどうにも胸やお尻の辺りなのはどうしてでしょう?
「これは公序良俗が乱れる」
「くっ、なんてケシカランおっぱ……ゲフンゲフン」
「目がくらむほど眩しいフトモ……モフンモフン」
「や、やばい、鼻血が……」
なんか男子生徒が増えて騒ぎが大きくなってきました。まずいですね。ここの場をすぐに離れましょう。
じゅうぶんイケてると思ったのに。二十過ぎの女が十代の女生徒と言い張るのには無理があったのでしょうか。クスン。
「すっごいエロ……だそうだ」
「色香がハンパ……美人だって?」
「マジ?……どこどこ?」
「俺も見た……探して……」
なんだか学園中の男子生徒達が騒がしいです。これは仕方ありません。今日は撤退です。
ですが、私は諦めませんよ!
アイルビーバック!