「乱暴はお止めください」
お嬢様は抵抗されましたが、二人の屈強な男に掴まれ身動きできません。私のお嬢様になんという狼藉を!――テメェらぶっ殺すぞ!!!
「離して欲しくば、人として当たり前の事をせよ!」
「さあ、頭を下げてピスカに謝罪するんだ!」
さらに、こいつらは無理矢理お嬢様をひざまづかせました。
「い、いや、離して!」
しかも、お嬢様は必死に
お嬢様への無礼、許すまじ!
「ちょぉっと待ったぁ!!!」
ひぃふぅひぃふぅ……や、やっと肉の壁から抜け出せましたよ。
「私のお嬢様への乱暴狼藉万死に値します!」
私は一気に壇上へと駆け上がると、お嬢様へ乱暴を働く不届き者どもに躍りかかりました。ヒャッハー!
喰らえ我が必殺の飛び両足蹴り!
「とうッ!!」
「ぐわっ!?」
フライング・ドロップキーック!が炸裂。
男達を吹き飛ばし床に倒れるお嬢様に手を差し伸べると、私を見たお嬢様が目を丸くされて驚かれました。
「えっ、もしかしてシーナ!?」
「はい、お嬢様のシーナでございます。お助けするのが遅くなって申し訳ございません」
「それはいいんだけど……なんで男装をしてるの?」
まあ似合ってるけどと呟くお嬢様……やだなぁ、そんなに褒めないでください。えっ? 褒めてない?
「何者だキサマは!」
「ふっ」
私は僅かに口の端を上げて笑うと制服のブレザーに手をかけました。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ」
そして、がバッと制服を剝ぎ取ると下から現れたのはアトランテ伯爵家のいつもの侍女服。
「我こそ武名名高きアトランテ伯爵家に仕えしマリーンお嬢様の専属侍女シーナ・サウスよ」
どよどよっと「えっ、侍女?」「なんで侍女が?」って会場中の生徒が驚いていますが……えっ、侍女って主人の為に拳を振るうもののふですよね? これって常識ですよね?
「侍女風情がふざけるな!」
「邪魔立てすると女とてただでは済まさんぞ」
私がお嬢様を助け起こしている最中に襲いくる二人の屈強な男。ふざけているのはそっちでしょ。さっきまでか弱いお嬢様に寄ってたかって暴言暴力を振るってたくせに。
「てやぁっ!」
「チェストォッ!」
ん? 私を挟んで左右から殴りかかってきたコイツらって……確か殿下の側近で騎士を目指している奴らでしたよね?
「ふっ、笑止!」
「どわっ!」「ぎゃっ!」
ちょっと、あまりに隙だらけじゃないですか。易々と投げ飛ばしたら、ヒューッて壇下に落ちていきましたよ。ピクピクしてるから死んではないでしょう。
「騎士科のレベルとはこんなものですか?」
殿下の側近なんですよね?
レベルが低すぎませんか?
「この程度の技量でお嬢様の専属侍女たる私に挑むとは片腹痛し!」
「なんだと!」
私の挑発にいきり立ったレッド・ブラックシーと側近の男が一人前に出てくると呪文を唱え始めました。
「これならどうだ!」
「我が最強魔術を喰らえ!」
呪文の完成と共に宙に火球と氷柱が生じる。騎士科の生徒を瞬殺した私相手に肉弾戦は不利と見て、魔法戦に切り替えたのでしょう。
「ふんッ! ぬるいわッ!!」
ですが、話になりませんね。飛んで来た氷を裏拳で砕き、流れるように回し蹴りを繰り出して炎を霧散させる。
「バ、バカな!?」
「素手で魔法を撃ち破っただと!?」
こんな児戯で驚かないでください。
「アトランテ伯爵家はこの国一の武闘派貴族。その家人はみな一騎当千。お嬢様の専属侍女ともなれば万夫不当が必然です」
戦争ともなれば主人を守る為に持てる力の全てを使って敵を粉砕する。上は侍女長から下は皿洗いメイド、洗濯メイドに至るまで、アトランテ伯爵家に仕える者はその覚悟を持って日々鍛錬を積んでいるのです。
「これだけの攻撃にもびくともしないとは!?」
「ええい! アトランテ家の侍女は化け物か!?」
「アトランテ家の黒い悪魔めッ!」
レディに向かって失礼ですね。
アトランテ家には私程度の実力者ならごろごろと……はさすがにいませんね。
「諦めるな!」
「ここは個々で戦ってはダメだ」
「みんなの力と友情を合わせて悪を打倒するんだ!」
「「「おう!」」」
ふんっ、この雑兵どもが。
「このシーナ・サウスがいる限り、マリーンお嬢様には指一本触れさせません!」
この青びょうたんどもがッかかって来いや!
私はいつ何時、誰の挑戦でも受けてたぁつ!