――そして、後夜祭当日。
「「「マリーン・アトランテ!!!」」」
生徒達の談笑を怒りの篭った男達の大声が突き破りました。
「キサマのピスカへの悪行の数々、もはや我慢ならん!」
「学園の生徒が集まるこの場であなたの卑劣な行いを断罪します」
学園の大講堂で催されている夜会の最中、突然ヴァルト殿下達が壇上を占拠したのです。
お嬢様の前に側近達とレッド・ブラックシーが立ちはだかりました。彼らの後方には殿下とピスカ・シーホワイトが並び立っております。
「これだけの生徒達が証人になるのです」
「もはや今までのような言い逃れはできんぞ」
続けて側近達がお嬢様へ暴言をぶつけてきました。
「いったい何をおっしゃっておられるのか私には分かりかねます」
お嬢様は毅然とノーを突きつけておられます。多数の男達に囲まれて震えておられるのに、なんて健気なお嬢様。
「まだシラを切るか」
「ピスカがイジメられていたのは事実」
「その首謀者はキサマで間違いない」
一方的に決めつけ、お嬢様を犯人扱いにするとは。
「違います。私はやっていません」
「往生際の悪い女だ」
否定するお嬢様にレッド・ブラックシーが汚物でも見るような視線をぶつけてきました。
「か弱き女性を権力にものを言わせて
「レ、レッド様?」
愛するレッド・ブラックシーに詰られ、お嬢様は信じられないとふるふると首を横に振っておられます。お顔をあんなに真っ青にされてお可哀想に。
だから、あんなクソ野郎はお嬢様に相応しくないと申し上げましたのに。
「わ、私にはまったく身に覚えがありません」
「何を白々しい!」
「この奸婦めが!」
「キサマがピスカへ行った非道は皆もう知っているのだぞ!」
「マリーン君、もう言い逃れはできませんよ」
勝ち誇った顔の男達が寄ってたかってお嬢様一人を嬲なぶるように責め立てる。
あゝ、なんてことでしょう。お嬢様が怯えて顔を青くされておられます。
無理もありません。大勢の男達に囲まれて罵声を浴びせられているのですから。しかも孤立無援状態なのです。非力な女性が一人で立ち向かわねばならないなんて。きっと、お嬢様は心細い思いをされているに違いありません。
待っていてください。このシーナが今すぐお女様のお傍へ参ります……って、人垣が邪魔で前に進めません!
あなた達そこをどきなさい!
「みんな止めて!」
「「「ピスカ?」」」
突然、ピスカ・シーホワイトがお嬢様の前に躍り出て祈るようなポーズで訴え始めました。うそくせぇ。
「わたしはただマリーン様に謝っていただければそれでいいの」
「ああ、君はなんて心が清らかなんだ」
「まさに聖女のようだ」
き、気持ち悪い。大根役者の下手な演技を見せられているみたいです。こんな三文芝居にどうしてみなさん涙ぐんでいらっしゃるんです?
「マリーン・アトランテ、本当にキサマのような毒婦とは大違いだな」
「さあ、己の罪を恥じるならピスカに謝罪し許しを請え」
私が人波をかき分けるのに苦戦している間に事態が進んじゃってますよ!
ぐお! は、早くお嬢様の元へ馳せ参じねば!
「謝罪を要求されましても、私がいったい何をしたとおっしゃっるのです?」
「この期に及んで往生際の悪い!」
「キサマは本当に面の皮が厚い最低の女だな」
「いいだろう、我らが貴様の罪状を教えてやる」
彼らはお嬢様がピスカ・シーホワイトに行った虐めを朗々と語り出しましたが……
潜入した時に聞いた教科書や制服の被害に始まり陰口だとか、除け者にしただとか、身分が低いとバカにしただとか、果ては階段から突き落としたなどと言い掛かりばかり。
お嬢様がそのような振る舞いをするわけないでしょうに。証拠も無しにシーホワイト嬢の証言だけで糾弾するなど愚の骨頂。
「これで分かっただろう!」
「本当に私には身に覚えがありません」
こんな茶番で分かるも何もないでしょう。お嬢様がそんなマネをするはずもありません。あまりに酷い言い掛かりにお嬢様も困惑されておられます。
「まだとぼけるつもりか」
「だが、観念するんだな」
「こちらにはキサマが犯した悪事の動かぬ証拠がある」
汚れた制服や破れた教科書を載せたワゴンカートが運び込まれてきましたが……まさか、そんなものが物的証拠だって言うんじゃありませんよね?
「これは全てピスカの私物だ」
「それをキサマが汚し、破り、隠したりしたのだ」
「なんて非道なイジメを行うヤツなんだ」
おい、お前らちょっと待てぇぇぇい!
それのどこが決定的な証拠なんです!
そんなモン、自分で汚したり破いたりできるじゃないですか。お嬢様がやったって証拠はどこにもないでしょう!
「それがいったい何の証拠になると言うのですか?」
当然、お嬢様は否定されました。そりゃそうですよね。
「これでもまだ認めないか悪女め!」
「もはや言葉で諭すだけでは無理なようだな」
「きゃあ!」
しかし、なんたる事でしょう!
逆上した男達が事もあろうにお嬢様を両側から取り押さえる暴挙に出たのでした。