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第12話 その謀略は誰のため?


 ――それから一週間が過ぎました。


 その間、私は幾度となく男装して学園に潜入しました。ですが、その努力も虚しくレッド・ブラックシーの悪事の証拠はいっこうに集まっておりません。


 お嬢様以外にはいつもの女生徒メンバーとお嬢様を陥れれ密談をしているだけで、きゃつめに女遊びをしている気配がないのです。


 本当に珍獣ピスカ・シーホワイトに骨抜きにされてしまったのでしょうか。それとも、お嬢様のおっしゃるように、実はレッド・ブラックシーが遊び人であるとの噂はデマだったのでしょうか。


 いくら考えても答えが出ません。くっ、もともと私は頭脳労働が苦手なのです。いっそお嬢様の敵を全て拳で粉砕できればスッキリするのに。


 ですが、それをすれば、間違いなくお嬢様に嫌われてしまいます。それだけは避けねばなりません。


 ああ、私はなんて非力なんでしょう。こうして私が手をこまねいている間にも、お嬢様の立場は刻一刻と悪くなっているというのに。


 遅々として進まない調査に私は少しずつ焦りが出てきました。


「ここはいったんレッド・ブラックシーから離れてヴァルト殿下の方を探ってみましょうか?」


 切り口を変えることで新たな発見があるかもしれません。それに最初はお嬢様に好意を寄せていたヴァルト殿下の心変わりも気になりますしね。


 まさか、完全無欠の美の女神マリーンお嬢様よりも、コメディ要員珍獣ピスカ・シーホワイトの方がお気に召したなんて事はないと思いますが。


 おっと、殿下の腰巾着どもを発見です。


 何かコソコソ密談をしているみたいですが――


「それで例の作戦を今度の学園祭で決行するんだな?」

「ああ、後夜祭で催される生徒だけの夜会でやる予定だ」


 むぅ、どうも良からぬ事を企てているようですね。


「準備に抜かりはないな?」

「ふっ、任せておけ」

「ちゃくちゃくと進んでいる」


 いったい何を企んでいるのです?


「これであのマリーン・アトランテに正義の鉄槌を下せる」


 なんですって!?


「純真可憐なピスカに数々の悪逆非道な虐めを行う悪女め」

「殿下の婚約者の地位を盾にされ手を出せなかったが」

「ああ、あの邪智暴虐の奸婦ももはやこれまで」


 コイツら、私のお嬢様にいったい何をするつもり?


「ヤツの悪事の証拠はバッチリ集まっている」

「これさえあればヴァルト殿下を心の醜い女から解放できる」

「意外と人気があって手こずらされたが」

「ふんっ、どうせ権力や金銭で得たまやかしの人望だろ」

「それかあの男好きしそうな身体で何人もの男を咥え込んだか、だな」

「汚れ切った売女ばいため!」


 私のお嬢様は身も心も清らかな聖女です!

 くっ、好き放題言いやがってこいつらぁぁぁ!


 歯ぁ食いしばれ! そんな側近ども修正してやる!


 って、鉄拳制裁を加えてやりたいところですが、ここで私が問題を起こせばお嬢様にご迷惑をお掛けしてしまいます。


 今はまだその時ではありません。ここはぐっと堪えねば。


 我慢の子ですシーナ・サウス!


 とにかく後夜祭のパーティーで何かお嬢様に良からぬ事をしでかすつもりなのは判明しました。それだけでも収穫です。


 たかが殿下の側近ごときに、このシーナ・サウスがやらせるか!


 お嬢様の名誉、お嬢様の矜持、やらせはせん、やらせはせん、やらせはせんぞぉ!


 この私が必ずやお嬢様をお守り致します!!


 それにしてもヴァルト殿下はいったい何をやっておられるのですか。大切な婚約者がご自分の側近によって奸計に陥れられようとしているのに。


 おっと、今度は殿下を発見。いつもお屋敷に随伴されていた従者の方と一緒ですね。こっちはこっちで密談ですか。


「どうやらマリーンを上手く孤立させているようだな」

「はっ、計画は順調に進んでおります」


 ――ッ!?


「と言うより、想定以上です」

「まさか俺の側近だけではなく、レッド・ブラックシーまで手を貸してくれるとは思わなかったぞ」

「あの男もシーホワイト嬢のシンパですから」

「皆が彼女の為に動いてくれているわけか」


 こ、これは……ま、まさか!?


「そろそろ頃合いだな」

「はい、情報によると決行は学園祭の後夜祭のようです」

「いよいよマリーンとの婚約破棄か」


 口の端を上げて殿下が黒い笑みを浮かべています。


「これでやっとあの女から解放される」

「お疲れ様でございました」


 か、解放って、殿下はお嬢様との婚約を望んでおられたのではないのですか?


「まったく鬱陶しい女だった」

「あれほど酷い女とは私も予想外でした」


 まさか殿下がお嬢様をうとんでおられたなんて。

 そ、そんな……嘘だと言ってよヴァルト殿下!


「演技とは言え、やはり気持ちの良いものではないな」

「心中お察しいたします」


 演技!?……お嬢様との婚約は全て演技だったのですか!?


 なんてこと!


 ヴァルト殿下までお嬢様の敵だったのですね。疑う事を知らぬ純真無垢な私のお嬢様をみんなして騙していたなんて。


 これではもう誰も信用できません。やはりお嬢様をお守りし、支えられるのは私しかいないようですね。こうなったら学園祭に殴り込みです。


 殿下だろうと国王だろうと、お嬢様に仇なす者は全て私の鉄拳で修正しちゃる!


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