――我が宿敵レッド・ブラックシー。
きゃつめはお嬢様を毒牙にかけながら奸計にハメようとする不届者である。今日、その裏の顔を私は目撃いたしました。
あゝ、なんて事でしょう。きゃつめはマリーンお嬢様を弄んでいるくせに、同時に自分の息のかかった女生徒達を使ってお嬢様の
お嬢様がキサマをどれほどお慕いしておられると思っとんのじゃ!
そのお嬢様の愛と信頼を裏切るなど万死に値します。一万回殺す!
「シーナ、なんだか顔が恐いわよ?」
いけません。ヤツへの憎しみが顔に出てしまいました。
私を見て不思議そうにお嬢様が小首を傾げておられる。そんなお姿も神々しく美しい。あゝ、尊い。
「どうかしたの?」
ティーカップをソーサーに戻しお嬢様が心配そうに見上げる。こんな一使用人にまで気を配るなんて女神のごとくお優しい。いと尊きお方。
こんな素晴らしいお嬢様を貶めようとするレッド・ブラックシーの所業はやはり裁かれねばなりません。
「いえ、特別な事はなにも」
ですが、お嬢様に報告するのはまだ早い。
お嬢様はレッド・ブラックシーにすっかり夢中になっておられます。ここで私が今日の出来事を伝えても信じてくださらない可能性が高いでしょう。
恋とはそれだけ人を愚かに変えてしまうものなのです。お嬢様ほど賢明なお方でも、きっと私の言葉に耳を貸してはくださらないでしょう。
それどころか、私の忠言も愛する殿方への誹謗中傷と取られかねません。学園に無断で潜入した事を責められる可能性だってあります。最悪、私は遠ざけられるやもしれません。
お嬢様の目を覚ます為には決定的証拠を見つけなければ。それまではお嬢様に報告できません。なんとも歯がゆいです。
「だけど、なんだか思いつめたような……いつもと違ってシリアスな表情してるわよ?」
「私はいつでも職務に真面目に取り組んでおりますので」
キリッ!
「確かに他に誰かいればシーナはお澄ましさんだけど……いつもなら私と二人っきりになったら途端に顔が変態さんになるじゃない」
「お嬢様、それはあんまりな仰りようにございます」
キリリッ!
「顔だけではなく身も心も全身全霊をかけて変態になります」
「変態は認めちゃうんだ」
何を呆れていらっしゃるんです?
変態は最大限の褒め言葉ですよ?
「お嬢様を前にして変態にならない方が失礼でございます」
「まあ、とにかくシーナが普段通りで安心したわ」
変態が側にいて安心されるのは問題があるかと思いますが。まあ、追お嬢様に追い出されたら私は死んでしまいますので、いいんですけど。
「ああ、そうそう。変態で思い出したけど」
お嬢様が何やら意味深にクスッと笑われましたが……いったい何でしょう?
「先日、痴女が現れたって学園で噂が立っているの」
「まあ、それは真ですか?」
珍獣ピスカ・シーホワイトといい、変態まで出没するなんて。学園はげにも恐ろしき場所なのですね。
「ええ、なんでもきつきつの制服を着ていたそうよ」
「それのどこが痴女なのです?」
ちょっと期待したのにガッカリです。
「お胸とお尻がとっても大きかったんですって」
「ほう?」
なるほどなるほど、小さな制服を着たのは身体のラインを見せつける為だったのですね。その痴女なかなかやりおる。
「しかも、スカート丈が短くって足がとっても艶めかしかったそうよ」
「なんですって!?」
「相当な美女だって殿方の間で噂されていたわ」
「美女!?」
スタイル抜群の美女がぱつぱつの制服で太ももを晒して徘徊……それは是非ともお近づきになりたいですゲスな。
「一昨日現れたのよ」
「一昨日でございますか」
その日は確か女生徒に変装して潜入していましたが、そのような痴女には出会いませんでした。惜しい事です。
ん? どうされたのです、お嬢様? なんで私の顔をジーッと見つめておられるのです?
「そう言えば昨日も不審者が出たそうよ」
「ほう、不審者でございますか」
不審人物まで校内に出没しているんですか。学園のセキュリティに不安を覚えます。私、心配です。
それで、どんな痴女なんです?
そこのところ
「その不審人物というのが見知らぬ男子生徒らしいの。ただ、とっても麗しい貴公子なんですって。女生徒が騒いでいたわ」
ケッ、男なんてどうでもいいです。
それより痴美女の情報をプリーズ。
「シーナ、あんまり無茶なマネはしないでね」
「はあ? 了解いたしました?」
意味が分からず首を傾げたら、分かってないみたいねとお嬢様に苦笑いされてしまいました。
うーん、いったいなんなのでございましょう?