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第10話 その密会は誰のため?


 今日も今日とて学園に潜入ですよ!


 さーて、本日の変装は再び女生徒にしましょう。前回の轍を踏まぬよう三つ編みおさげに眼鏡をかけた地味っ子仕様。


 完璧です……と思ったのですが、御者から微妙な顔で止めた方がいいと忠告を受けてしまいました。何故に?


 えっ、田舎から出てきた少女をイジメる教育係みたいで恐い?


「仕方がないので今回も男子生徒に扮して潜入です」


 女教師になるのも考えましたが、さすがに人数の少ない教師だと新顔はすぐにバレるでしょうから断念しました。


「ご覧になって、あの殿方ですわよ」

「まあ、またお会いできるなんてラッキーですわ」

「いったいどこのクラスのお方なのかしら?」

「お近づきになりたいですわぁ」


 だけど、やっぱり女生徒達からジロジロ見られてはいませんかね。気のせいでしょうか?


「あゝ、もう……ダメ」

「私もですわ」


 みなさん顔が赤いですねぇ。すれ違うたび胸を押さえて蹲ったり、過呼吸起こしたり、ホントに身体の弱いご令嬢ばかりです。私とても心配です。


 愛らしいご令嬢がたを放置するのは後ろ髪を引かれますが、今は何を置いてもマリーンお嬢様を探さねば。


 おっと、さっそくお嬢様を発見しましたよ。


「レッド様!」

「よく来たね、マリーン」


 くっ、卑劣な女の敵レッド・ブラックシーも一緒じゃないですか。


「お待たせしました」


 お嬢様、どうしてそんなに嬉しそうに微笑まれているんですか。やっぱり、お嬢様はまだヤツと縁が切れていなかったのですね。


 まったく、学園内で逢引するなんて。


「それで本日はどのような御用でございましょう?」

「呼んだのは他でもない。ピスカ君の事についてだ」


 おや? ですが、なんだか様子がおかしいですね。


「君は彼女をいじめているそうじゃないか」

「レッド様までそんな事をおっしゃられるなんて!?」


 レッド・ブラックシー!


 テメェ、私のお嬢様になんて言い掛かりをつけやがる。恐い顔で詰問するもんだから、お嬢様が真っ青になって震えてるじゃねぇか。


「私はピスカ様に無体なんて働いておりません」


 お可哀想に。目に涙を溜めてお嬢様がふるふると首を振っておられます。こんなイジらしく尊いお姿を見て、テメェは何とも思わんのか。この不感症め。私なら血走った目でゼェハァゼェハァ息を荒げてるぞ。あん、尊い。


「本当に本当か?」

「お疑いになるなんて心外ですわ。そもそも私がピスカ様を虐げる理由がありませんもの」


 まったくです。むしろ、あの女の方こそお嬢様に噛みついてくる特定危険指定珍獣。檻に閉じ込めるか屠殺すべきでしょう。


「殿下と懇意なピスカ君に嫉妬したんじゃないのか?」

「嫉妬なんてそんな……」


 口に手を当てヨヨヨと涙するお嬢様。レッド・ブラックシー、私のお嬢様を泣かせるとは万死に値する。ああ、殴りてー。


「彼女が殿下と親しくしようが関係ありません」

「だが、君はヴァルト殿下の婚約者ではないか」

「それは家の都合で仕方がなく結んだ縁談。私がお慕いしているのはレッド様だけですわ」


 すがるお嬢様を見るスケベ野郎レッド・ブラックシーの瞳が妖しく光る。


 お嬢様の豊かな胸を凝視して舌舐めずりしやがって。イヤらしい目で私のお嬢様を舐め回すように見るんじゃない。その胸は私んじゃ。殺す!


 しかし、ここで乱入すれば、もう二度と学園に潜入できなくなるでしょう。我慢の子ですシーナ・サウス。


 ぐぬぬぬ、憎しみで人が殺せたら。


「ヴァルト殿下ほどの好条件だからな。私から彼に心移りしたんじゃないのか?」

「信じてください。私の心はレッド様のものです」

「本当に僕を愛しているなら殿下を解放したまえ」

「そんな事をおっしゃられても……」


 なんですかそれは!


 あゝ、お可哀想に、お嬢様が失望と失意にショックを受けています。おいたわしや、レッド・ブラックシーと別れ去って行くお嬢様の背中がなんとも哀愁を誘います。


 落胆で肩を落としトボトボ歩く姿が痛ましい。すぐにでも駆け寄って慰めて差し上げたい。


 ですが、まだ何の証拠も得ていないのに、学園に潜入しているのをお嬢様に悟られるわけにはまいりません。耐えるのですシーナ・サウス。


 後ろ髪を引かれますが、今はレッド・ブラックシーを追って、きゃつめの悪の決定的証拠を掴まねば。


 おっと、さっそくレッド・ブラックシーが幾人かの女生徒達と密会を始めやがりましたよ。


 コイツ、さっきまでお嬢様の胸に鼻の下を伸ばしてたくせに、もう別の女を引っ張り込みやがって。しかも、全員カワイイときている。ウラヤマケシカラン。一人私に寄越せ。いけません、本音が。


「君達、例の件は順調かい?」

「ええ、もちろんですわ」

「お任せくださいレッド先生」

「少しずつ、少しずつ生徒達の間に広めていっていますわ」


 ん? 何やら怪しげな密談を始めやがりましたよ。これはもしかして決定的現場を抑えられるかも。


「マリーンがピスカさんをイジメていると徐々に浸透しておりますわ」

「生徒達だけでなく教師の間にもマリーンへの悪感情が沸き上がっています」

「マリーンに味方する者など学園にはもうおりませんわ」

「あの悪女にもそろそろ引導を渡せそうだな」


 くっくっくっとレッド・ブラックシーが嫌らしく笑い、女生徒達も一緒になって黒い笑みを浮かべています。


 なんて事でしょう。どうやらレッド・ブラックシーがお嬢様の誹謗中傷を流布するように指示しているようです。これは学園でお嬢様を孤立させるのが目的ですね。


「あぁん、先生ぇ」

「成功の暁にはちゃんと私達とも……」

「分かているさ……君達にも色々と良い目を見せてあげよう」


 密談を終えたレッド・ブラックシーが複数の女生徒と乳繰り合いを始めやがりましたよ。くッ、羨ましくなんてないんだからね。


 チクショー! だから、お嬢様にはこんな男は止めてくださいとあれほど……


 これは決して嫉妬やひがみじゃありませんからね?



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