「お前達の言い分は良く分かった」
「おお、それでは」
自分達の意見が受け入れられたと勘違いして喜色を浮かべるバカども。言葉と裏腹にヴァルト殿下の目が汚物を見るように冷えているでしょうが。私ちょっとゾクゾクしてきましたよ。
「お前らの理屈なら、シーホワイト嬢は信用のならん女狐の嘘つきで、マリーンは品行方正なお手本となる淑女だから嘘はつかんと言えばいいんだな」
「「「は?」」」
殿下の切り返しの意味が理解できず、側近どもは口を開けて間の抜けた顔を晒しています。
「俺の証言は立派な証拠になるのだろ?」
側近達が慌てふためいているのを見て、殿下がニヤッと不敵に笑っておられますよ。殿下もなかなかイイ性格をしているみたいです。
「これでマリーンの潔白が証明されたな」
「お、お待ちください!」
「それはあまりに横暴ではありませんか」
側近達の抗議の声を殿下はふんっと鼻先で笑い飛ばされました。
「不思議だな。先ほどまで自分達がマリーンにやっていた事は横暴にならないのか?」
「そ、それは……」
「お前らは俺の主観よりも自分達の主観こそが正しいとでも主張するのか?」
「いえ、けっしてそのようなことは」
いやぁ、まさか側近の癖に自分の主人に逆らったりしませんよねぇ?
「証拠もなしに片方の意見のみ信じて相手の話に耳を傾けない自分達の拙さが理解できたか?」
「「「……」」」
「あーだが、一つだけ確かな事実がある」
「あっ、ヴァルト様!?」
なんと!
お嬢様の傍まで歩み寄ると殿下がグイッと肩を抱き寄せましたではありませんか――ヒューッヒューッ!
お嬢様、はやし立てたくらいで睨まないでください。
「お前達はマリーンに暴力を振るった。それはこの場の全員が目撃している」
「そ、それは……」
「アトランテ伯爵家の令嬢に無実の罪を被せ、乱暴狼藉を働いた罪が軽いものとは思うなよ」
ハッハッハァ!
これはもうザマァ確定――ザマ確ですな、ザマァ!
「それだけではない。お前らは俺の許可もなく勝手に婚約破棄などと騒いでいたな?」
「で、ですが、それはこの女が殿下に相応しくないからで」
「そうです!」
「だから我らが殿下に代わり悪女に引導を渡してやったのです」
殿下のこめかみがぴくぴくしてますよ。今までこんなバカ者どもに良く耐えましたね。
「俺の婚約は国王が決められる事だ。いわば王家の約定。それを何の権限があってお前達が
「そ、それは……」
「俺にも無い権限なのだが……なるほど、お前達は王よりも偉いのだな」
ぷぷぷっ、やっと自分達の失言に気づいたみたいですね。今さら真っ青になってももう遅い、ですよ。
「お待ちください!」
「確かに我らに過失はありました」
「ですが、ピスカは被害者なんです」
「虐め受けていたピスカがあまりに哀れではありませんか」
「たわけ!!」
側近達のあまりの無理解に殿下がついにキレた!?
「この女は無実のマリーンにあらぬ噂を立てて冤罪をかけたのだ。それが罪にならないと思っているのか!」
「私は本当にマリーンに酷い事をされていたんです」
また祈るように両手を組むあざといポーズで目をウルウルさせてますが、本性をあれだけ晒しておいて今さらでしょう。
こんなのに騙されるヤツがいるんですか?
「ほらほら、ピスカはとても純真で清らかなんです」
「こんな娘が嘘をつくはずがありません」
いましたよ。騙されるバカが。
「揃いも揃ってアホウしかおらんのか」
あまりに目の腐った側近達に、ため息を吐き出しヴァルト殿下も呆れ果ててしまったじゃないですか。
「あのな、マリーンにはこの女を害する理由がない」
「り、理由なら、ヴァルト様と仲の良い私に嫉妬したんです」
「俺がお前と仲が良いと思われるのは心外だが……」
勘違い女と仲が良いと言われて、殿下は本当に嫌そうな顔をしております。
「たとえそうであったとしても、マリーンにはまったく関係がない話だ」
「婚約者が他の女と仲良くすれば嫉妬するものでは?」
おいおい、それを分かっていてピスカ・シーホワイトを殿下に近づけたのですか?
あなた達、ちゃんと側近としての仕事をしなさい!
「そもそも、それが勘違いだ。俺とマリーンは婚約をしていないんだからな」
「「「はあ!?」」」
はあ!?
えっ、えっ、えっ?
「ですが、殿下はその女とお見合いをされましたよね?」
「ああ、王命だったからな」
「お互い名前で呼び合っておられますよね?」
「許可したからな」
ですよねぇ?
「だが、彼女と婚約したとは一度も言った覚えはないぞ」
「はい、ヴァルト様がおっしゃる通り私は誰とも婚約は結んでおりません」
「今はまだ、な」
殿下、なんか意味深な笑いをされますね。
「つまり、お前らの前提が最初から間違っていたのだ。今回の騒動は美貌と才能、家柄まで全てを持っているマリーンに嫉妬した愚かな女による自作自演に馬鹿な俺の側近が踊らされたと言うのが事の顛末だ」
「ち、違います……私は嫉妬なんて……」
「いずれにしてもマリーンに冤罪を被せようとした事実に間違いはない」
連れて行けと殿下が指示を出すと、ピスカ・シーホワイトは筋肉隆々の騎士達に会場から摘み出されたのです――ザマァ!
「離せぇ! 私はヒロインなのよぉ! こんなの間違ってる!!」
最後まで猛獣娘は暴れていましたが。
「さて、次にお前らだが――」
側近達がビクッと体を震わせ、殿下に
「お前らは不貞を働き婚約者を不当に扱ったな。しかも、証拠もなく彼女達を断罪した」
その他にも許しもなく殿下の名前を使って傲慢な振る舞いをしていた件などなど……殿下が罪状を述べる中で側近達がプルプルと震えながら許しを請うています。
「高位の貴族令嬢の名誉を不当に傷つけた罪、その女性に暴力を振るった罪、王家の取り決めを蔑ろにする言動に対する罪、他にも調べれば余罪が色々と出てきそうだな」
ですが、殿下はお構いなしにバッサリ。
側近達は
「お前らの愚行の代償は安くないぞ」