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第2話 バジリスクなんて怖くない!

「あーもう怖い……」


右の道は進めば進むほどに臭いの強さが増していく。


「もう引き返して良くない?」


『何のためにこっち進んでんだよ』

『はよいけー』


無責任なコメントを見ながらあたしは進んでいく。


「ていうかさこっち装備も何もないけどどうすればいいの」


『知るかよwww』

『勝手に縛りプレイしてるのはアイラなんだよなぁ……』

『ノープランでダンジョンに潜った奴の末路』


「うるさい! あんたらが右行けって言ったんだからなんか案でも出しなさいよ」


『それを考えるのが配信者では🤔』

『とりあえず攻撃力も防御力もないんだからとりあえず隠れながら行け』

『何がいるかはわからんがバレたら終わりだな』

『死にたくなかったら戦おうとはするなよ』


「ふんふん……魔物がいたらどうすればいい?」


『だからとりあえず隠れてろって』

『どうすればってアイラどうしようもないだろ』

『しょうがねぇなぁ。いざとなった時に逃げる用に渡しとくわ【1000ルピ】』

『なんか優しいやついて草』


「やった! ありがとう! 感謝してあげるわ。これで武器買える〜。ブロンズソードっと」


貰った1000ルピを使ってブロンズソードを購入する。

ピシュンと音がしてあたしの手元にブロンズソードが出現した。

これで一先ずは戦える……と思ったら……


『は?』

『は?』

『は?』

『は?』

『は?』

『ヤバすぎて草』

『文字が読めなかったのかな?』

『ブロンズソードっていくらだっけ』

『1000だよ。つまり今使いきった』

『アホで草』

『テレポート代は残しとけよ』

『アイラって剣の腕前いいの?』

『全く良くない。お遊戯会みたいな動きをこの前してた』

『うーんこの』

『この剣を使って逃げるんやろなぁ……』

『スパチャの人可哀想』


コメントが一気に流れていく。


「は? 何? あたしなんか悪いことした?」


『逃げる時用って書いてただろ』

『なんでテレポート代に500でも残しておかないんですかねぇ』

『これは大物』


「だって、装備がなきゃ戦えないじゃん」


『戦う必要ないんだって』

『コメント読んでないのかなこの子』

『隠れながら進むんだよ!』


「うっさい! 貰ったスパチャどう使おうがあたしの勝手じゃん!」


『開き直ってて草』

『案出せって言ってこの言い草だよ』

『1000ルピ返せよ』


「返さない! ちゃんと見てろよこの剣で凄い事してやるから!」


『抽象的で草』

『ある意味凄いことはもうしてるんだけどな』


ムカつくムカつくムカつく!

何よ別にちょっと間違えただけじゃない!

この先で魔物がいたら倒せばいいんでしょ! それでいいんでしょ!

絶対文句言わせないんだから!


怒りに身を任せてズンズンと進んでいく。

ちょっとした無敵状態だ。

今なら誰にも負ける気がしない……!


そう感じながら臭いを辿って、曲がり角を曲がった先には……



グチャッグチャッ


そう音をたてながら、別の魔物の死肉を食い漁る鶏のしっぽの部分に蛇が繋がれた魔物、すなわちバジリスクの姿があった。


「…………」


そのあまりの光景にあたしの思考と行動はフリーズしてしまう。


『うわグロい』

『止まったwww』

『Nowloading……』

『アイラ逃げろー』


静寂。

それを切り裂いたのは……


「クエーッ!」


バジリスクの一喝だった。


「ギャアアアアアアアアアア!!!!!」


『また叫んだwww』

『さっき見たわこれ』

『再放送かな?』


「あーッ! あーッ! アーッ! ウアーッ!」


見るな来るな食べないで!

あたしの剣に恐れてどっか行け!

ただガムシャラにその場で剣を振るって精一杯威嚇をしていく。


『届かねぇよその距離www』

『お遊戯会のダンスだ』

『叫び方が獣のそれ』

『これもうどっちが鶏かわかんねぇな』

『一応言っとくとバジリスクは蛇が本体』

『はえー知らんかったわサンガツ』


「クエーッ!」


あたしの威嚇に恐れをなしているのか、バジリスクはただ叫ぶばかりだ。

よし……。だったら…………!


「クエエエェェェーーーーーーー!!!」


より大きな声を出して相手をビビらせる!

これが勝負の鉄則!


『?????????』

『壊れたwww』

『完全に鶏じゃん』

『鳥類も配信する時代か』

『クッソワロタwwwクエー返しwww』

『人の姿でやられると恐怖を感じる』




「クエーッ!」

「クエエエエエッッッ!!!!」

「クエーッ!!」

「キエェェェーーーーーーッ!!!!!」


恐れるな、引くな、引いたら負ける!

そう本能が告げている!


『動物の喧嘩かな?』

『近所の野良猫でこういうの見たわ』

『なんか既視感あると思ったらそれだ』

『ここが動物園配信ですか』

『俺達は何を見せられているんだ……?』




「…………」

「…………ハッ……ハッ……ハッ」


バジリスクは叫ぶのをやめて少し静かになった。

あたしもちょうど息が続かなかったところなので助かる……そう思ったのもつかの間……


「クエーッ!」


ドタドタと足音をたてながらバジリスクは一気にあたしの方へと走り出してきた!


「ああああああああああ!!!!!」


一瞬で身を翻し今来た道を全速で駆け抜ける。

なんで!? どうして!? ビビったんじゃなかったの!?


『結局こうなる』

『買ったんなら剣使えや!』

『使ってただろ威嚇に!』

『今度こそダメかもしれんね』

『バジリスクに襲われたらどうなるんだっけ』

『噛まれたら毒になって死ぬ。見られたら本来石化するけど石化は死亡じゃないためリスポーンが効かないからダンジョン入るやつはそれが無力化される魔法を入る時に付与されてる』

『サンガツ』


「言ってる場合か! 噛まれたら死ぬってことじゃん!」


『もう大人しく死んでいいだろ』

『追いかけるバジリスクの気持ちも考えろ』


「じゃあテレポート! テレポート代頂戴!」


『それを使ったのがアイラ定期』

『厚かましくて草』


「この薄情者! 死んだら化けてでてやるからな」


『おうまた地上でな』

『化けて出てくるアイラたん萌え〜♡』


ダメだこいつらあてにならない!

逃げててもそのうち追いつかれて殺される!

覚悟を決めろアイラ!

今は武器があるんだ!


ザザッと足を滑らせて追いかけてくるバジリスクと向き合う。


『お?』

『やるきだ』

『ガンバエー』


「でゃああああああ!」


恐怖で足がすくむ前に一瞬で決める!

剣を振り上げて突撃して振り下ろす!


「クエーッ!!」


あっやっぱ怖い。



ガッ



足がすくんでもつれてしまった。

終わった……。

アイラのダンジョン配信これにて終了──


グサッ


と音がした。


「グエェェッ!」

「えっ?」


顔をあげると、転んだ時にすっぽ抜けた剣がバジリスクの鶏の胴体に深々と突き刺さっている。


『刺さったwwwwww』

『奇跡起きてて草』

『いやそうはならんやろ』

『なっとるやろがい!』

『えぇ……』


バジリスクの声は次第に小さくなっていき、ズズンとその場に倒れふした。


『倒したwww』

『マジかよ』

『流石は俺達のアイラさんだぜ』


「な……なんかよくわかんないけど…………倒したーッ! 勝ったー! ほら見たかお前らーッ! 剣買ってよかっただろ!」


『はいはいソウダネー』

『まぐれ勝ちでイキってて草』

『イキってるアイラたん萌え〜♡』


あたしはバジリスクの死体を足蹴にそう勝どきをあげるのだった。


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