ズボッと剣をバジリスクの死体から抜き、血を拭いていく。
「ふへへ……初討伐……!」
『初討伐おめ』
『おめ』
『やったやん』
「ありがと。なんかご褒美とかない?」
『やっぱり厚かましくて草』
『ねぇよんなもん』
「ケチだなお前ら! ご褒美くらい頂戴よ! 他の配信者とか討伐する度にスパチャあるじゃん!」
『バジリスク程度じゃなぁ』
『あれは信頼と実績の現れだぞ』
『しょうがねぇなぁ。ほれ【1000ルピ】』
『しょうがねぇなぁニキ好こ』
「ありがとー! これで他の装備買っていいよね!?」
『いいけど500は残しとけよ』
『どーせアイラだし無理だぞ』
『魔法用においといたら? 魔法は1発1発に金がかかるけど中距離からでも使えるし』
『それがいいかも。アイラビビりだから装備いらねぇわ』
「はいはい。魔法ね。わかったわかった。とりあえずさっきの道進むけどいい?」
『おk』
『行こう』
あたしはさっきの魔物の死体があった場所まで戻りその先へと進む。
「うえっ……くっさぁ……」
『※食事中の人は注意』
ただ歩いていても話すこともないためあたしはそのまま雑談へと移行していく。
「なんか暇だしあたしが配信することになった理由でも話す? お前ら聞きたいでしょ」
『いや全く』
『そんなことより周り注意しろよ』
「聞きたいって言えよ!」
『めんどくせぇ……』
『はいはい聞きたいです』
「じゃあ話してあげるわ。あたしが配信者になったのは有名になりたかったのと宝箱を開けたかったからなのよ」
『( ´_ゝ`)フ-ン』
『(´・∀・`)ヘーソウナンダ』
『完。』
「もっと食いつけよ!」
『話し方が下手くそすぎるw』
『なんの面白みもない理由だったから……』
『ありきたりな理由としか思わんわな』
「なによ……! 皆宝箱開封動画とか好きでしょ!? あたしはそれをしてあげようとしてんの!」
『二層の宝箱なんて開け尽くされてるだろ』
『トップランカーとか何十層まで行ってるからそういうのじゃないとな』
「へーじゃあこの先に宝箱あったらどうする? スパチャ頂戴よ!? 約束したからね!?」
『また勝手に約束にされてる……』
『新手の詐欺師だろこれ』
『配信者じゃなくて押し売りセールスとかのほうが向いてそう』
『しょうがねぇなぁ。あったらな』
『流石しょうがねぇなぁニキ優しい』
「はい決定!」
あたしは意気揚々と進んでいく。
そしてその先には……
「行き止まり…………そして見てこれ! ほら宝箱!」
あたしの足元には薄汚れた開けられていない宝箱がひとつ。
「っしゃぁ! スパチャ確定!」
『おー』
『あっ……(察し)』
『やめろまだ泳がせとこう』
『おめ』
『おめ』
『とりあえずスパチャの前に開けてみたら?』
『せやな。開けよう』
『ナニガハイッテイルンダロナァ』
「了解了解。んじゃ開けるよー見えてるねー? オーーーープン!」
しっかりと箱を掴み、蓋を開けると中に入っていたのは……
箱の内部についていた鋭く並ぶ牙の数、ペロンと投げ出さる舌が私の目に写った。
「…………ミミックァァァァァァ!!!!」
転げ回るようにその場から離れてなんとかミミックの牙から逃れる。
本当に心臓に悪いんだけど!?
『草』
『知 っ て た』
『やっぱりな』
『これはスパチャ無しですね』
『二層の宝箱で未開封なんてほぼミミックに決まってるんだよな』
「わかってたんなら言えよお前らァ!」
『騙される方が悪い定期』
『無警戒すぎるだろ』
『スパチャ確定!→ミミックァ!の流れワロタwww』
騙しやがって
「もーキレた! 乙女の純情を弄びやがって!」
『乙女……? 鳥の間違いでは?』
「許さん! ファイアボール!」
50ルピを消費して掌から火玉を顕現させ、目の前の憎き存在に怒りをこめて解き放った。
小さな爆炎の後に残ったのはただの消し炭のみ。
「どうだみたか! 人様を弄ぶからこうなるんだよ!」
『また無駄遣いしとるわ』
『さっさとその場を離れたら良かったのに……』
『この50ルピが命運を分けることはこの時のアイラは知らなかった……』
『これ意味ある?』
『ない。憂さ晴らし』
「意味はあるんだよ! イライラした状態でダンジョン配信したくないからね!」
『割としょっちゅうイラついてるぞ』
「うるさい!」
『またイラついてる』
あたしは宝箱が開封出来なかった怒りを背に来た道を翻していった。