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第5話


転生者同士の秘密を共有してから一ヶ月が経った。


ライナスとアルベルトの共同研究は順調に進んでいたが、ある日、予想外の出来事が起こった。


「今日は魔力の効率化について実験してみよう」


アルベルトがいつものように指導を始めようとした時、ライナスは奇妙な感覚に襲われた。


「あれ……?」


頭の中で何かがちらついている。ステータス画面とは違う、新しい感覚だった。


「どうしたんだい、ライナス君?」


「なんか……変な感じがするんです」


ライナスは集中してみた。すると、頭の中に新しい文字が浮かんだ。


【魔法理論解析 レベル1 習得】


「えっ……?」


「何かあったのかい?」


ライナスは慌ててステータス画面を確認した。


【名前:ライナス】

【レベル:1】

【スキル:魔法理論解析Lv.1】


「スキルが……現れた……」


「スキル?」


アルベルトが興味深そうに聞き返す。


「ステータス画面にスキルが表示されたんです。『魔法理論解析』って……」


「ステータス画面……?」


アルベルトの表情が変わった。


「君にはステータス画面が見えるのかい?」


「はい。名前とレベルとスキルが表示されます。アルベルトさんには見えないんですか?」


「私には見えないよ……それは興味深いね」


アルベルトが考え込んでいる。


「もしかして、君の転生には特別な意味があるのかもしれない」


「特別な意味……?」


「この世界への転生者の中でも、ステータスが見える人は珍しいんだ」


ライナスは驚いた。


「そうなんですか……」


「私が知っている転生者たちも、ステータス画面については話したことがなかった」


「じゃあ、僕だけなんでしょうか……」


「可能性はあるね。そして今、スキルが現れたということは……」


アルベルトが急に興奮し始めた。


「君の魔法研究が一定のレベルに達したということかもしれない」


「そんなことがあるんですか?」


「この世界には、まだ解明されていない現象がたくさんある。君のステータス画面もその一つかもしれない」


ライナスは新しく習得したスキルについて考えてみた。


(魔法理論解析……これはいったい何ができるんだろう……?)


「試しに、そのスキルを使ってみてはどうだい?」


「使うって……どうやって?」


「スキル名を意識しながら、魔法を見てみるんだ」


ライナスは言われた通りにやってみた。アルベルトが手のひらに火を灯すのを見ながら、『魔法理論解析』を意識する。


すると、驚くべきことが起こった。


「うわあ……!」


ライナスの視界に、火の魔法の構造が詳細に表示されたのだ。魔力の流れ、属性変換のプロセス、温度や燃焼効率まで、数値として見えている。


「何が見えるんだい?」


「信じられません……魔法の構造が全部見えるんです!」


ライナスは興奮しながら説明した。


「魔力の流れが青い線で表示されて、温度が数値で出てて、効率も百分率で……」


「それは……すごいスキルだね」


アルベルトも驚いている。


「そんなことができるなんて……まるでゲームの世界みたいだ」


「ゲーム……?」


「ああ、前世の世界にあった娯楽の一種だよ。コンピューターで遊ぶ仮想的な冒険ゲームで、ステータスやスキルが存在していた」


ライナスは理解した。前世でも似たようなゲームを遊んだことがある。


「もしかして、この世界自体がゲームのような仕組みになっているのかもしれませんね」


「その可能性はあるね。転生者にとって理解しやすいシステムが組み込まれているのかもしれない」


二人は新しいスキルの実験を続けた。


ライナス自身の魔法を解析してみると、さらに詳細な情報が得られた。


「僕の火の魔法、効率が67%って表示されてます」


「67%……かなり高い数値だね」


「アルベルトさんの魔法は94%でした」


「なるほど……経験の差が数値として表れているのか」


このスキルを使うことで、魔法の改善点が明確に分かるようになった。


「これは研究に役立ちそうですね」


「そうだね。君のスキルがあれば、魔法理論の研究速度が大幅に向上するかもしれない」


しかし、アルベルトは同時に心配もしていた。


「ただし、このスキルのことは絶対に他の人には話してはいけない」


「どうしてですか?」


「あまりにも異常な能力だからだ。ステータス画面が見えるだけでも珍しいのに、魔法を数値化して解析できるなんて……」


アルベルトが深刻な表情になる。


「もしこの能力が知られたら、君は確実に研究対象として囚われることになる」


「研究対象……」


ライナスは背筋が寒くなった。


「王国の魔法研究機関や、他国のスパイたちが君を狙うかもしれない」


「そんなに危険なんですか……」


「残念ながら、そうだ。特別な能力を持つ人間は、常に利用される危険がある」


ライナスは理解した。確かに、このスキルは強力すぎる。


「分かりました。絶対に秘密にします」


「それがいい。そして、このスキルは私たちの研究でのみ使うようにしよう」


それから数週間、ライナスは新しいスキルを活用しながら魔法研究を続けた。


『魔法理論解析』のおかげで、魔法の仕組みが手に取るように分かるようになった。


「効率を上げるには、魔力の流れをもう少し滑らかにすれば……」


ライナスは自分の火の魔法を微調整してみる。すると、効率が67%から71%に上がった。


「すごいね。わずか数分で効率を4%も改善するなんて」


「このスキルがあると、改善点がすぐに分かるんです」


「羨ましいよ。私も40年かけてようやくこの効率に到達したのに」


しかし、スキルの使用には注意が必要だった。


「最近、頭が少し疲れやすくなってるんです」


「スキルの使いすぎかもしれないね」


アルベルトが心配そうに言う。


「おそらく精神力を消費するんだろう。適度に休憩を入れるようにしよう」


「はい」


ライナスは休憩の重要性を理解した。どんなに便利なスキルでも、使いすぎれば体に負担がかかる。


そんなある日、村に変化が起こった。


「ライナス、今日は外に出ちゃダメよ」


母のミエが慌てた様子で言ってきた。


「どうしたの、お母さん?」


「魔物の群れが村の近くに現れたの。みんなで対処することになったから」


ライナスは窓から外を見た。村の男性たちが武器を持って集まっている。


「お父さんも戦うの?」


「そうよ。でも心配しないで、きっと大丈夫だから」


しかし、ミエの表情は不安に満ちていた。


(いつもより多くの魔物が現れているのかもしれない……)


ライナスは心配になった。自分にも何かできることはないだろうか。


「お母さん、僕にも何かできることは……」


「ダメよ! まだ子供なんだから、家にいなさい」


「でも……」


「お願い、ライナス。お母さんを心配させないで」


ミエの必死の頼みに、ライナスは諦めるしかなかった。


しかし、外からは戦闘の音が聞こえてくる。金属のぶつかり合う音、魔物の咆哮、人々の叫び声……


(村の人たちは大丈夫なんだろうか……)


ライナスは不安で仕方なかった。自分の魔法が役に立つかもしれないのに、何もできずにいることが歯がゆかった。


(もっと強くなりたい……村の人たちを守れるくらいに……)


この日の出来事が、ライナスに新たな決意をもたらすことになる。


自分の能力を隠しながらも、いざという時には人々を守れるだけの実力を身につけたい。そんな想いが、彼の心に芽生えていた。


(アルベルトさんと相談してみよう。もっと実戦的な魔法も学ぶ必要があるかもしれない)


ライナスは決意を固めた。研究だけでなく、実際に戦える力も身につけようと。


しかし、彼はまだ知らなかった。その決意が、彼を新たな危険に巻き込むことになるということを……

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