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売られた喧嘩、買ってあげるわ!

 神官に任命された翌日。


 私はレイラを連れて、ある場所に向かっていた。それは、神官の集う部屋。今風に言えば事務所だ。


「ねえ、レイラ。部屋に入ったら元気よく挨拶すればいいのかしら?」


 レイラは「おしとやかにお願いします」と焦って言う。


 あれ、新人は元気よくってやつ、もしかして現代だけの話なの?





 部屋に着くと、頭を下げつつ「新米のアイシャでございます」と一言。


「へえ、あんたが新人ね。せいぜい、頑張りなさい」


 頭を上げると、そこには五十歳はいってそうなおばさんの姿があった。ふんぞり返って「私に逆らうなら殺す」みたいなオーラを出している。


 この態度から察するに、ここのトップかしら。あまり、いい人とは思えないわね。


「あなたが来たことで、一人追い出されたの」


「え?」


「もしかして、知らずに来たのかしら。法を司る神官は十人まで。つまり、あんたのせいで一人泣く泣く辞めたのよ」


 なんか、私が悪いような言い方だけど、任命したのファラオだからね。


「まあ、いいわ。今日から教育してあげる。ここの過酷さを学びなさい」


 その目は、新米をいびるお局のものだった。





 神官になってから数日経った。


「ねえ、レイラ。私、もうダメかも……」


「ダリア様は……その、あまりいい方ではないですからね」


 お局――ダリアは、新人である私はもちろん、他の神官にもきつくあたる。あれ、現代ならパワハラで即解雇ね。


「今日も出社とか、だるい」


「出社……?」


「あ、何でもないわ!」


 レイラは、この世界で唯一気を置けない人物。ああ、私の立場を全部ぶっちゃけたい。


「さて、今日も一日頑張りますか」





「さて、今日は法についての勉強よ。さて、アイシャ。この国で殺人を行ったら、どうやって裁くのかしら」


「我々、神官が量刑を決めます。そして、しかるべき方法で処刑されます」


「よくできました。と、言いたいけれども、ファラオが決める場合もあるのよ! しっかりと勉強なさい!」


 ダリアが机に拳を振り下ろすと、バキッという音を立てて真っ二つになる。


 うわー、また備品壊してる。それ、うちらの経費が圧迫されるから勘弁して欲しいんだけど。


「アイシャ、片づけなさい」


 嘘、私に片づけさせるわけ?


「では、私も手伝います」


 同僚のルカイヤが名乗り出る。イスから立ち上がると、黒髪がふわりと揺れる。


「それは許しません。ルカイヤ、あなたは私の命令を無視したことの罰として、別の仕事を与えます」


 ルカイヤは顔面蒼白だ。


 その時だった。レイラが部屋に駆け込んできたのは。肩で息をしている。


「た、大変です」


「ここは世話係が入っていい部屋ではありません! とっとと――」


「お言葉ですが、一大事なのです。ファラオの父君のお墓が荒らされました!」


 部屋にいた者は、みな息をのんだ。


 墓荒らし。やっぱり、現代だけの話ではないのね。


「そして、死者の書が奪われました」


 ダリアは、少しの間をおいてこう言った。


「我々の出番ね。さて、アイシャ。お手並み拝見よ」


 なんか喧嘩売られたわね。上等よ。ギャフンと言わせてやるから!

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