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第4話


 それからしばらく神霧君とは行動を共にした。

 そして何度も危ないところを神霧君に助けてもらっているうちに、ついに僕から死相が消えたと告げられた。


 死相が消えたことは嬉しいものの、これで神霧君と一緒に行動をする日々も終わりだと思うと、僕は素直に喜べなかった。

 しかし僕の予想に反して、死相が消えてからも神霧君は僕と行動を共にしてくれている。


「ねえ、涼太。そろそろ俺も名前で呼んでほしいなあ」


 そしてよくこんなことを言ってくる。

 僕としても仲良くなった神霧君のことを名前で呼びたいとは思うのだけど、どうしてもイケメンの神霧君をぼっち陰キャの僕が下の名前で呼ぶことには抵抗がある。


「も、もう少しだけ待ってください」


「俺たち、もうずいぶん仲良くなったと思うんだけどなあ」


 神霧君がそう思ってくれていることは嬉しい。本当に嬉しいのだ。

 ただ、まだ僕には勇気が出ない。

 仲良しの友だちの証とも言える下の名前呼びを、こんな僕が神霧君に対して行なうなんて。


「ありがたいことに神霧君にはものすごく良くしてもらってます。修学旅行でも僕と一緒の班になってくれましたし」


「修学旅行ねえ。じゃあさ、修学旅行でさらに距離が縮まったら、俺のことを名前で呼んでくれる?」


「そうですね……って、修学旅行は来週じゃないですか!?」


「うん。だから来週には名前で呼んでもらう予定」


 神霧君がウインクを飛ばしてきた。

 ウインクがさまになるなんて、やっぱり神霧君はすごい。

 でも今そんなことはどうでもよくて、問題なのは。


「来週ですか。うーん」


 あまりにも早すぎる。

 いや神霧君と一緒に行動するようになって結構経つから早すぎるということは無いのだけど。

 だけどいきなり来週は、心の準備が間に合わない。


「もしかして大切なのは時間じゃないのかな。もっと劇的に仲良くなるような出来事が必要ってことかな……それなら、秘密の共有はどうだろう」


 僕が神霧君の下の名前を呼ぶことが出来ない理由は、共有した時間以外のところにあるのではないかと考えたらしい神霧君が、新たな案を提示してきた。


「秘密? 僕には大層な秘密なんてありませんよ。せいぜいが初恋相手がアニメキャラだったことくらいです」


「なにそれ。涼太は可愛いね」


「小さい頃の話ですよ!?」


 さすがに今は二次元と三次元の違いを理解している。

 二次元キャラと結婚がしたいと願う人を否定するわけではないけど、僕はもうその地点からは卒業をした。

 二次元キャラは二次元キャラとして、僕とは関わらないものとして、愛している。


「そう言う神霧君にはどんな秘密があるんですか?」


「俺のはそういう微笑ましい秘密じゃなくて……薄々勘付いてるかもしれないけど。涼太は俺が何を言っても引かない?」


 引くか引かないかは内容による……けど、それを言ったらこの話は進まない。

 さて、神霧君はどんな秘密を暴露するつもりなのだろう。


 うーむ。僕が勘付いているかもしれないことと言うと、あれしかない。

 勘付いていると言うか、神霧君本人に教えてもらったことだけど。


「神霧君の秘密は、占いが出来ることですか? それなら引きませんよ。むしろ自慢すべきことだと思います」


「惜しい。実はあれ、占いじゃないんだよね」


 神霧君がぼそりと呟いた。

 そして続けてこう言った。


「俺には黄泉の手が視えるんだ」




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