疲れ果てていた。
花は今日も、仕事に追われて、ボロアパートに帰宅した。夕食もそこそこに、ベッドへ倒れ込んだ。そして、心の支えである乙女ゲームを起動する。今、唯一彼女に微笑んでくれるのは、画面の中のイケメンたちだった。
『グランド・ラブロワイヤル』――架空の王国を舞台に、複数の攻略キャラクターたちとの恋愛を楽しむ、スマホ乙女ゲーム。
その、はずだった。
「なんで毎回こうなるの……!」
スマホの画面に映し出されたのは、またしてもあの男だった。
艶やかな緑髪に、冷たく光る銀縁メガネ。知性を滲ませた笑みは、何度見ても鳥肌が立つ。
王国宰相、グランヴィル・クロフォード。――通称『緑メガネ』
花は、心の底から叫んだ。
「またお前かーー!!」
叫びと同時に、握っていたスマホが手を滑り、額にゴツンと落ちた。
軽い衝撃が、何故か妙に心地よく、ふっと意識が遠のいていく。
――推しは王太子なのに!
その理不尽な怒りを抱えたまま、花は深い眠りに沈んだ。