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第1話 またお前かーー!!

 カサカサと草が擦れる音が、花の耳をくすぐった。ひんやりとした風が頬をなでる。


 ――おかしい。


 花は薄く目を開けた。


 そこに広がっていたのは、真っ青な空と、優しく揺れる緑の木々。――いつもの天井ではない。ましてや、ベッドの硬さでもない。寝室のぬるい空気も感じられなかった。


「……え?」


 寝ぼけ眼をこすりながら、ゆっくりと上半身を起こす。――どうやら、柔らかな芝生の上に寝転がっていたようだ。そしてすぐに、異質な存在が視界に飛び込んできた。


 ふわふわと浮かぶ、花よりも小柄な、可憐で美しい少女。天使のような白い羽を持ち、宵闇の髪と吸い込まれそうな銀色の瞳で、花を覗き込んでいる。


「おはようございます。花さん! 転生おめでとうございます!」


「……は?」


 一拍の間を置き、花はようやく、状況が理解できないことに気づいた。


「て、転生? え? なに? あなた誰?」


「申し遅れました。わたしの名はビオス。生を司る神です。そして、こちらの妖精が、花さんの担当フェアリーです」


 ビオスに示されたのは、宙に浮かぶ、手のひらほどの小さな妖精。半透明の羽を震わせ、つぶらな瞳で花を見ている。


「ボクは、転生管理局所属のサポートフェアリー、ルピナスと申します! 本日より花さんの異世界生活をサポートさせていただきます!」


 妖精――ルピナスは、朗らかに自己紹介をした。その明るさが、花の混乱を更に加速させる。


「い、異世界生活って……なんの話……?」


「昨日は転生説明会、お疲れ様でした! 皆さん眠そうでしたが、無事に契約手続きも済んでおりますのでご安心ください!」


「……説明会……? 行ってないけど?」


「え?」


 妖精の羽音が一瞬止まった。


 それでもすぐに、朗らかな笑顔が戻る。


「いえいえ、ご心配なく! 花さんは乙女ゲーム・グランド・ラブロワイヤルの【連続100時間ログイン特典自動エントリー】により、優先枠で選出されました!」


「勝手に!? え、勝手にエントリーされるの!?」


「もちろんです! 本サービスではプレイヤーの皆様を対象に、より没入感のあるプレイ体験をご提供しております!」


 花の頭はぐるぐると回り続けていた。


 目の前に広がる森の景色。そして、馴染みのある乙女ゲームのタイトル。


 まさか、そんな馬鹿な──


「……ここって、まさか……『グランド・ラブロワイヤル』の世界なの……?」


「はい! 花さんはこの王国の主人公様に認定されております!」


 吐き気がした。


 いや、世界観自体はいい。攻略対象も多彩でイケメン揃い。だが──


「ちょ、ちょっと待って! じゃあ……あたしのルートは……?」


 妖精は嬉々として告げる。


「初期ルートはもちろん、宰相様が確定しております!」


「またお前かあああああああああああああ!!!!」


 花の絶叫は、澄み渡る青空に吸い込まれていった。

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