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ギャンブルの極意 翡翠/ギャンブル/マグカップ

 冬のある日。僕はある老女の家を訪ねる約束をしていた。彼女は連戦連勝のギャンブラーとして有名だ。何か勝利の秘訣、少なくともコツを教えてもらいたい。


 家に着くと、インターフォンを鳴らす。老女は玄関の扉を開けると「どうぞ」と言った。


「雪が降るような寒さよ。早く扉を閉めさせてちょうだい」


「すみません」


 僕はリビングに通されると、老女はマグカップにホットコーヒーを注ぎ始めた。


「こんな寒い日は体の芯からあったまる必要があるわ。健康管理もギャンブラーとして大事なことよ」


 確かにそうだ。まあ、ギャンブラーに限らないけれど。


「さて、ギャンブルで勝つコツを教えて欲しいんだったね」


「そうです! 僕は連戦連敗。あなたとは真逆です……」


「そうね、あなたの賭け方を見ると熱くなりすぎる傾向があるわね。負けた分を取り返そうとして、熱くなる。これは良くないわ」


 なるほど、言われてみればその通りだ。


「では、あなたはどうやって冷静さを保っているんですか?」


「私の腕をご覧なさい。これは翡翠でできたブレスレットよ。翡翠には冷静さや忍耐力を養う効果があると言われているわ。負けた時はいつもこれを見て言い聞かせるの。『熱くなってはダメ』って」


「でも、それっておまじないというか、お守りみたいな物ですよね。僕が知りたいのは勝つコツみたいなものなんですけど……」


「勝つコツねぇ。そうね、結局は運よ、運。あなたは運がないのね。だから、私が教えられることはないわ」


 僕は膝から崩れ落ちた。だが、彼女の言う通りかもしれない。勝利のコツなんてあれば、世の中はギャンブラーで溢れかえっているだろう。僕は決意した。コツコツと働こうと。





 サラリーマンとして働きだして数年。僕はうまくいかなくて、先輩に相談していた。


「先輩、どうしたら成功するんでしょうか?」


「お前の提案力は光るものがある。俺よりもすごい提案力がな。しかし、経営者がゴーを出すかは別だ。ゴーを出すかは気まぐれだ。つまり、お前に欠けているものは……そうだな、運だな。運」

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