私は小説家だ。訳あって京都のホテルに宿泊している。最近はパソコンで執筆する人が多いが、私は原稿用紙派だ。子供の時、小説家の仕事特集を見て以来、原稿用紙に書く姿に憧れを抱いていたからだ。
私は手元の万年筆をうっとりと見る。私は形から入るタイプなので、この前パイロットの万年筆を衝動買いしてしまった。前の万年筆より、手にフィットして書きやすいし、何よりデザインがいい。
「先生、原稿はまだですか?」
編集者の声が聞こえる。扉をドンドンと叩いている。
「もう少し時間をくれ」
「いつもそうじゃないですか。その手にはのりませんよ」
せっかく京都に来ているのに、缶詰め状態だ。とても観光をできそうにはない。売れっ子は辛いよ。