瞳孔が大きく見開かれ、全身が制御不能なほど震えた。
「嘘よね……嘘だって言って……!」
星野侑二は口元に冷たい笑みを浮かべ、言った。
「違うよ。これはお前の“出所祝い”だ。……気に入ったか?」
その瞬間、脳内で何かが爆ぜたような衝撃が走った。
父も母も、兄も——死んだ……?
「うそ……っ!」
心臓が鷲掴みにされたように締めつけられ、息ができない。涙が勝手に溢れ出る。
そんな私を見下ろしながら、侑二は残酷なささやきを続けた。
「全部、俺がやったんだよ。」
「……!」
私は崩れ落ちるように彼を睨みつけ、力いっぱい彼を突き飛ばした。
「ふざけないでよっ! あのとき、私の家族があなたを助けなかったら……星野グループの社長の座なんて手に入らなかったくせに!」
怒鳴りながら、声が裂けそうだった。
星野侑二の目に宿ったのは、底の見えない憎悪の光。
「全部、ひるみに対する償いだ。お前が大切にしている奴らで、棺の中のひるみに“お返し”をしてやったんだよ。」
——私は言葉を失い、ただ怒りに燃えた。
「私は……小林ひるみを誘拐なんてしてない! 凌辱なんてさせてない! あの子の死に、私は関係ない!!」
侑二は私の首をぐっと掴み、怒声を浴びせた。
「まだ……罪を認めないってのか!!」
「……やってないことを、なんで認めなきゃいけないのよ!!」
その瞬間、彼の口元が歪んだ。
「お前の両親の骨壺、今俺が持ってるんだが……ゴミ捨て場にでも捨ててやろうか?」
その言葉で、私は悟った。
出所なんて、ただ地獄からもう一つの地獄へ移されただけ。
私は、選ぶことすらできなかった。
……すべてを失って私は膝から崩れ落ち、地面に這いつくばるように星野侑二にひれ伏した。
心を殺し、顔を上げる。
「——認めるわ。私が、小林ひるみを誘拐させた。私が、彼女をあんな目に遭わせた。私が……自殺に追い込んだのよ……!」
四年の監獄生活。
どれだけ屈辱的な仕打ちを受けても、私はずっと信じていた。“私は無実だ”と——
でも違った。
星野侑二を愛した——それが、すべての罪だった。
子どもを殺したのも、両親と兄を死なせたのも……すべて私のせい。
——私は罪人だ。
赦されることのない、大罪人。
その場に額を何度も打ちつけ、血が滴り落ちる。
侑二は嫌悪を露わにして私の髪を掴み、血まみれの額に指を押しつけながら、冷たく言い放った。
「やっと……認めたか。」
そのまま、私は乱暴に車のそばへ引きずられた。
次の瞬間、体が宙を舞い、後部座席へと投げ込まれる。
呆然とする私の顎を掴み、彼の顔が目の前に迫る。
「——お前は、本当に……赦されることのない、最低の罪人だ。」
恐怖に支配され、私は逃げようと体をよじる。
だが、侑二はまるで理性を失った獣のように私に覆いかぶさり、私の服を破いた。
羞恥に震える私の体を押さえつけ、彼は耳元で囁いた。
「ひるみが味わった絶望、今度はお前の番だ——」
残忍、野蛮、凶暴——
星野侑二は、まるで私の肉体を喰いちぎらんとするような執念で、私を蹂躙した。
私はすべての抵抗を諦めた。
彼の心には、ずっと小林ひるみしかいなかった。
結婚後も、ほとんど私には触れなかった。酔ったあの日を除いて。それなのに今、こんな残虐な形で私を壊そうとしている——
長い時間が過ぎた。
彼がようやく離れたとき、私の体は打撲と腫れで無惨な姿になっていた。
星野侑二は服を整え、冷ややかな瞳で私を見下ろす。
「骨壺が欲しいなら、星野邸まで這ってこい。」
——南の刑務所と北の星野邸。
間には、この街一番の繁華街が広がっている。私は今、衣服すらまともじゃない。
でも侑二が壊したいのは、身体じゃない。心だ。
小林ひるみのように、私も絶望の淵に立たされ、最後には自ら命を絶つように仕向けられている。
けれど彼は、親の遺骨という名の“枷”で、私に死ぬことすら許さなかった。
黒塗りの車が去っていく。
私は地に落ちたマタニティドレスの布切れを拾った。破れていても、少しでも身体を隠すものが欲しかった。
——わずかに残った尊厳を守るために。這ってでも行く。
それが、私に与えられた命令。
四年の監獄生活で学んだことがある——
命令に逆らえば、死ぬ。私は、両親の遺骨を取り戻さなければならない。
……彼らの魂を、彷徨わせたくない。
私は血の滲む身体を引きずりながら、星野邸に向かって這い始めた——
―――
空が明るかったのが、次第に暗くなる。
夜が来て、また朝が来た。一昼夜。
膝は血と肉に覆われ、もう感覚すら曖昧だった。
そして、ようやく——星野邸が見えた。
雅やかで落ち着いたその屋敷。
百年の伝統を誇る星野家の本邸は、かつて私が嫁いで住んだ場所。まるで水墨画のような静寂と美しさに、かつての私は心から惹かれていた。
——でも、あれは夢だったのかもしれない。
重厚な門が開き、執事の
私は必死に身体を起こし、震える声で訴えた。
「楠井さん……星野社長に伝えてください。私は……言われた通り、這ってここまで来ました……」
「社長は、五時までに来れば会ってやるって仰ってましたよ?今は……八時です。」
楠井は、私を見下ろしながら鼻で笑った。
「遅かったですね。」
「そんなこと……聞いてない……!お願い、会わせてください……!」
私は懇願するように、彼の足元にすがった。
両親の骨壺……何としても、取り戻さなければ。
楠井は侮蔑の笑みを浮かべた。
「神川県一のお嬢様が……今や犬のように這いつくばって、私みたいな下働きにすがってるとはね。」
私は、破れたボロボロの服を握りしめた。
この四年間、何度も人の冷たさを思い知った。
頭を垂れて、声を押し殺す。
「……お願いです、会わせてください……」
楠井は肩をすくめながら、小道を指差した。
「そこに一日中跪いてみなさい。もしかしたら、社長が哀れに思ってくれるかもしれませんよ?」
彼が指したのは、凹凸の激しい石畳。
私は血まみれの膝を見た。
あそこに跪いたら……この脚は、もう二度と使えなくなるかもしれない。
でも、他に選択肢などなかった。
私は這って、石畳の上に身体を置く。
膝が石に触れた瞬間、激痛が走る。
「う……っ!」
あまりの痛みに、私はうつ伏せに倒れ込んだ。
楠井の皮肉な声が背中に突き刺さる。
「その姿勢じゃあ、社長を呼ぶ気にもなれませんよ?」
息を整え、震える体でなんとか膝を立て、まっすぐに跪いた。
夏の陽射しが、容赦なく照りつける。
朝の八時、九時……地面の熱が皮膚に突き刺さる。
汗と血が混じり、石畳が赤く染まっていく。
どれほど時間が経っただろう。
意識が薄れかけたそのとき——
一つの影が、私の上に落ちた。
私はぼんやりと顔を上げる。
——そして、信じられないものを見た。
「……小林、ひるみ……!?」