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第2話:私は罪人


瞳孔が大きく見開かれ、全身が制御不能なほど震えた。

「嘘よね……嘘だって言って……!」


星野侑二は口元に冷たい笑みを浮かべ、言った。

「違うよ。これはお前の“出所祝い”だ。……気に入ったか?」


その瞬間、脳内で何かが爆ぜたような衝撃が走った。

父も母も、兄も——死んだ……?

「うそ……っ!」

心臓が鷲掴みにされたように締めつけられ、息ができない。涙が勝手に溢れ出る。


そんな私を見下ろしながら、侑二は残酷なささやきを続けた。

「全部、俺がやったんだよ。」

「……!」

私は崩れ落ちるように彼を睨みつけ、力いっぱい彼を突き飛ばした。

「ふざけないでよっ! あのとき、私の家族があなたを助けなかったら……星野グループの社長の座なんて手に入らなかったくせに!」

怒鳴りながら、声が裂けそうだった。


星野侑二の目に宿ったのは、底の見えない憎悪の光。

「全部、ひるみに対する償いだ。お前が大切にしている奴らで、棺の中のひるみに“お返し”をしてやったんだよ。」

——私は言葉を失い、ただ怒りに燃えた。

「私は……小林ひるみを誘拐なんてしてない! 凌辱なんてさせてない! あの子の死に、私は関係ない!!」


侑二は私の首をぐっと掴み、怒声を浴びせた。

「まだ……罪を認めないってのか!!」

「……やってないことを、なんで認めなきゃいけないのよ!!」


その瞬間、彼の口元が歪んだ。

「お前の両親の骨壺、今俺が持ってるんだが……ゴミ捨て場にでも捨ててやろうか?」


その言葉で、私は悟った。

出所なんて、ただ地獄からもう一つの地獄へ移されただけ。

私は、選ぶことすらできなかった。


……すべてを失って私は膝から崩れ落ち、地面に這いつくばるように星野侑二にひれ伏した。

心を殺し、顔を上げる。

「——認めるわ。私が、小林ひるみを誘拐させた。私が、彼女をあんな目に遭わせた。私が……自殺に追い込んだのよ……!」


四年の監獄生活。

どれだけ屈辱的な仕打ちを受けても、私はずっと信じていた。“私は無実だ”と——

でも違った。

星野侑二を愛した——それが、すべての罪だった。

子どもを殺したのも、両親と兄を死なせたのも……すべて私のせい。

——私は罪人だ。

赦されることのない、大罪人。


その場に額を何度も打ちつけ、血が滴り落ちる。

侑二は嫌悪を露わにして私の髪を掴み、血まみれの額に指を押しつけながら、冷たく言い放った。

「やっと……認めたか。」

そのまま、私は乱暴に車のそばへ引きずられた。

次の瞬間、体が宙を舞い、後部座席へと投げ込まれる。

呆然とする私の顎を掴み、彼の顔が目の前に迫る。

「——お前は、本当に……赦されることのない、最低の罪人だ。」


恐怖に支配され、私は逃げようと体をよじる。

だが、侑二はまるで理性を失った獣のように私に覆いかぶさり、私の服を破いた。

羞恥に震える私の体を押さえつけ、彼は耳元で囁いた。

「ひるみが味わった絶望、今度はお前の番だ——」


残忍、野蛮、凶暴——

星野侑二は、まるで私の肉体を喰いちぎらんとするような執念で、私を蹂躙した。

私はすべての抵抗を諦めた。

彼の心には、ずっと小林ひるみしかいなかった。

結婚後も、ほとんど私には触れなかった。酔ったあの日を除いて。それなのに今、こんな残虐な形で私を壊そうとしている——


長い時間が過ぎた。

彼がようやく離れたとき、私の体は打撲と腫れで無惨な姿になっていた。

星野侑二は服を整え、冷ややかな瞳で私を見下ろす。

「骨壺が欲しいなら、星野邸まで這ってこい。」


——南区の刑務所と北の星野邸。

間には、この街一番の繁華街が広がっている。私は今、衣服すらまともじゃない。

でも侑二が壊したいのは、身体じゃない。心だ。

小林ひるみのように、私も絶望の淵に立たされ、最後には自ら命を絶つように仕向けられている。

けれど彼は、親の遺骨という名の“枷”で、私に死ぬことすら許さなかった。


黒塗りの車が去っていく。

私は地に落ちたマタニティドレスの布切れを拾った。破れていても、少しでも身体を隠すものが欲しかった。

——わずかに残った尊厳を守るために。這ってでも行く。


それが、私に与えられた命令。

四年の監獄生活で学んだことがある——

命令に逆らえば、死ぬ。私は、両親の遺骨を取り戻さなければならない。

……彼らの魂を、彷徨わせたくない。

私は血の滲む身体を引きずりながら、星野邸に向かって這い始めた——


―――

空が明るかったのが、次第に暗くなる。

夜が来て、また朝が来た。一昼夜。

膝は血と肉に覆われ、もう感覚すら曖昧だった。

そして、ようやく——星野邸が見えた。


雅やかで落ち着いたその屋敷。

百年の伝統を誇る星野家の本邸は、かつて私が嫁いで住んだ場所。まるで水墨画のような静寂と美しさに、かつての私は心から惹かれていた。

——でも、あれは夢だったのかもしれない。


重厚な門が開き、執事の楠井海が現れた。

私は必死に身体を起こし、震える声で訴えた。

「楠井さん……星野社長に伝えてください。私は……言われた通り、這ってここまで来ました……」

「社長は、五時までに来れば会ってやるって仰ってましたよ?今は……八時です。」

楠井は、私を見下ろしながら鼻で笑った。

「遅かったですね。」

「そんなこと……聞いてない……!お願い、会わせてください……!」


私は懇願するように、彼の足元にすがった。

両親の骨壺……何としても、取り戻さなければ。

楠井は侮蔑の笑みを浮かべた。

「神川県一のお嬢様が……今や犬のように這いつくばって、私みたいな下働きにすがってるとはね。」


私は、破れたボロボロの服を握りしめた。

この四年間、何度も人の冷たさを思い知った。

頭を垂れて、声を押し殺す。

「……お願いです、会わせてください……」

楠井は肩をすくめながら、小道を指差した。

「そこに一日中跪いてみなさい。もしかしたら、社長が哀れに思ってくれるかもしれませんよ?」


彼が指したのは、凹凸の激しい石畳。

私は血まみれの膝を見た。

あそこに跪いたら……この脚は、もう二度と使えなくなるかもしれない。

でも、他に選択肢などなかった。


私は這って、石畳の上に身体を置く。

膝が石に触れた瞬間、激痛が走る。

「う……っ!」

あまりの痛みに、私はうつ伏せに倒れ込んだ。

楠井の皮肉な声が背中に突き刺さる。

「その姿勢じゃあ、社長を呼ぶ気にもなれませんよ?」


息を整え、震える体でなんとか膝を立て、まっすぐに跪いた。

夏の陽射しが、容赦なく照りつける。

朝の八時、九時……地面の熱が皮膚に突き刺さる。

汗と血が混じり、石畳が赤く染まっていく。


どれほど時間が経っただろう。

意識が薄れかけたそのとき——

一つの影が、私の上に落ちた。

私はぼんやりと顔を上げる。

——そして、信じられないものを見た。


「……小林、ひるみ……!?」


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