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第12話 面倒が付きまとう

今、神川県の所々で、星野侑二が狂ったと噂される。

四年前、彼は自らの手で妻・宮崎麻奈を監獄に送り、

そして四年後、今度は狂ったように彼女を探し回っている。


最初、深山彰人は、星野が麻奈を憎んでいるからこそ、彼女が逃げた後に必死に人を探しているのだろうと思った。

だが今の星野の様子は、憎しみだけでは説明がつかないほど異常だった。


青野が深山の前に立ち、麻奈の捜索の進展を報告する。

「監視カメラを使って空港の出入口を全部確認しましたが、宮崎麻奈さまの足取りは見つかりませんでした。」

深山は楽しそうに笑みを浮かべ、唇を動かす。

「どうやら、僕の可愛い後輩ちゃんを甘く見ていたようだな。」


この空港から、まるで神隠しでもされたかのように、麻奈は跡形もなく姿を消した。深山は額に手を当て、ゆっくりと目を閉じる。

「麻奈ちゃんって、一体どこに逃げたかな?」

——この僕の前から完全に消えたとは、ちょっと面白くなってきたな~


深山は再び青野に目を向ける。

「星野社長が今人探しでいっぱい。仕事するどころでなくなったみたい。

私たちが彼の代わりに、仕事を分担してあげないと」


――せっかくこの舞台を整え、シナリオを丁寧に練り上げたんだ。

当然、多少の利益をもらったところで誰も文句ないよね。

ただし、残念なのは、この芝居の主役は、欠席したことだ。


ーーーー

深山がいう「落ち着きのない」私、宮崎麻奈は、何度も白タクを乗り換えて、神川県からそれほど遠くない志津県にたどり着いた。

なぜ志津県なのかというと、

それは、四年前、星野侑二が重大な交通事故を起こし、両足を失った場所だからだ。

そしてその時、星野家の後継者の座を欲しがる人々が彼の後ろを狙い、彼のはずだった星野家の跡継ぎの座を奪ったのだ。

だから、ここは、星野にとって、二度と踏み入れたくない場所であるはず。


そんな彼が避けるべき場所こそ、今の私にとっての安らぎの地となる。

監獄から出所した私は、少しのお金をもっている。それは四年間の労役の報酬だった。

毎日、けがをしていて、何度も作業を完成できなかったため、最低限の報酬しか受け取れなかった。

結局、手に入ったのは12万3千円。


それから交通費に2万円を使ったので、今手元にあるのは10万3千円。

そのお金で、偽のIDカードを作るために闇市で5万円を使った。

今残ったのは、たった3万3千円。これだけではまったく足りない。

急いで仕事を探さなければならない。

しかし、数日間の奔走の末、どんな会社も全滅、ウェイターや清掃員などパートの仕事ですら回ってこなかった。


応募用紙を手に、私はクラウデーホテルに足を運んだ。

今日、私が応募したのは、六番目のホテルだった。オフィスに一歩足を踏み入れ、卑屈な態度で、「清掃員のポジションに応募したいのですが」と言った。

ホテルのマネージャーは若い男性で、私の足を一瞥した後、即座に首を振って断った。

「クラウデーは5つ星ホテルだから、清掃員にも高い基準を求めています。残念ですが、あなたの体調では条件に合いません。」


またしても断られた!

今の残額だと、一週間持っていけるかも心配だ。

絶望的な気持ちで、私はその男性にひざまずいて懇願した。

「足が悪いですが、私、ちゃんと働けます!汚い仕事でも何でもやります!

食事と寝る場所だけあれば十分です!」


マネージャーは私のやつれた姿を見つめ、しばらく黙っていた後、軽くため息をつきながら、

「キッチンでは食器洗いの従業員が足りないです。それでよければ…」

私は感謝の気持ちを込めて、頭を下げた。

「ありがとうございます!」


それから、私は従業員の寮へ案内され、寝室に入った。

6帖くらいの小さな部屋が一人ずつ与えられていて、刑務所でベッドすら与えられなかった私には十分すぎるほどの良さだった。


両親の骨壺をおろしてから、私はベッドに座って、優しくお腹を撫でた。

「見て、ママ、仕事を見つけたよ。」

──もう、ママと一緒に路上で宿を探さなくてもいいよ。


こうして私はクラウデーホテルに三ヶ月も働いてきた。

午前、厨房では誰もいなく、食器を洗う音だけが静かに響いていた。

最後の皿を洗い終わった後、私は立ち上がって、麻痺した足を軽く動かし、平坦なお腹を撫でた。体質的に、私は二度目の妊娠でもあまりお腹が目立たなかった。


掃除を終えた後、私は灯りを消し、キッチンを出た。

寮へ戻る途中、宴会場の外を通りかかると、美しい音楽が流れてきた。私は足を止め、懐かしい記憶が蘇った。


四年前、星野侑二の成人式で、私は彼のためにオリジナルのダンスを披露した。

その時の音楽が、今ここで流れている。私は無意識にその宴会場に足を踏み入れ、舞台で踊っている女性を見つけた。

その女性が踊っているのは、私が作った『鏡花水月』というダンスだった。


それはバレエと伝統舞を融合させたオリジナルもの。

しかも、当時はちょっと技を観客に見せつけたくて、難易度を特に高く設定した。

私ですら、何度も練習しなければ完全には身につけられなかったほどだ。


しかし、その女性は基礎となる技術がまるで不足していて、踊りがうまくいかず、すぐに舞台で転んでしまった。

「なんだ、このクソみたいなダンスは!」

その女性が怒りながら、罵った。


それを聞いて、私は無意識に呟いてしまった。

「そのダンスは、たぶんあなたには合わないです。」

そして、すぐに後悔し、顔を下げて急いでその場を離れようとしたが、

遅かった!


すぐに、その女性――永江ながえリコが私の前に立ちはだかり、怒りの声を上げた。

「待ちなさい!」


彼女が怒りに満ちた表情で、私に近づいてきた。

「下賎な清掃員が、よくも私に指図をしたわね!」

そして、私の髪の毛を無理矢理引っ張った。

「あなたの上司はどこ?今すぐあなたをクビにさせてやるわ!」


私はすぐに頭を下げ、必死に謝った。

「大変申し訳ございません。私が悪かったです。

どうか、大目に見てください。」


永江は嘲笑しながら冷たく言った。

「でも、私があんたを許す理由なんてないわよね?」


私は必死に屈辱を耐えて、深呼吸した。

「お願いです。今回だけはご勘弁いただけませんでしょうか?」


永江は勝ち誇ったように冷笑し、「はぁ、下等な人間はやっぱり下劣ね。」

そして、私の髪を解放し、振り返ると、また舞台へ向かって歩き出した。

「あんたを見逃す代わりに、手でピンたしなさい。ピンたの声で、伴奏するのよ。」


私は、仕事を失いたくなかった。

そのため、仕方なく永江が踊っている間に、舞台の傍らで自分の顔を何度も叩いていた。

いったい何回叩いたのだろう、顔はもう麻痺して感じられなくなっていた。


しかし、永江は結局、舞台で再び転んでしまった。

そして、顔を赤くして私に向かって叫んだ。

「このクソ女! お前がいるせいで、また失敗したじゃない!」


そのまま彼女は私に向かって歩み寄り、一発、私の膝を蹴った。

その瞬間、私はバランスを崩して地面に倒れ込んだ。


でも、永江はそれで気が済まなかった。次は、狂ったように私に殴りかかってきた。

私は自分の体を縮こまらせ、腹部を必死に守りながら、助けを呼ぼうと必死に叫んだ。

「誰か、助けて!」

だが、永江は私の髪を再び引き寄せ、無情に私を引き戻し、

「逃がすものか!」と叫びながら、脚を振り上げて私の腹を蹴ろうとした。


その時、突然、ある人影が私の前に現れた。


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