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第14話 lost and found 

星野侑二は焦燥感に駆られ、エレベーターに乗って階下に降り、ロビーに向かった。

遠くに、エレベーターの人と同じ作業服を着た女性を見つけ、胸が激しく縮むような思いを抱いた。

彼は急いでその女性を追いかけ、焦った声で叫んだ。

「待て!」

作業服を着た女性は明らかに一瞬止まり、星野はその瞬間、足を踏み出すのをためらった。足がとても重たく感じた。


三ヶ月、正確に言うと九十二日。

彼は何度も想像してきた、麻奈を捕まえたとき、彼女に言いたい言葉…

「もう二度と離さない」と。


だが、女性の前に回り込んで、その顔を見た瞬間、周囲から冷気が一気に立ち上る。

「君は、麻奈じゃない!」

女性は星野に気おされて、慌ててその場で逃げ出した。

星野はまるで魂を抜かれたかのように、その場で立ち尽くした。

その後、自嘲の笑みを浮かべながらつぶやいた。

「本当に俺は…どうかしている。」

通りすがりの女性を、宮崎麻奈だと思い込んでしまって。


胸が再び痛み、彼は一方の椅子に崩れ落ちた。

その時、永江リコが嬉しそうに小走りで近づき、甘えた声で呼びかけた。

「星野社長!」


永江リコの父親は、星野家の当主である星野侑二が志津県に来たことを知り、その機会を狙っていた。

彼は迷わず、娘をクラウデーホテルに泊まらせ、星野に近づくように手配した。

しかし、星野はほとんど外出していて、永江リコは毎晩、彼が帰ってくるのを待つばかりだった。

さらに、神川県での噂を聞いた永江リコは、星野が最近ダンスに興味を持っていて、特に「鏡花水月」に心惹かれているという話を聞いた。


それで、彼女は完璧なダンスで星野の心を掴み、一目で惚れさせようと考えていた。

だが、今夜やっと星野を見つけ、接近しようとしたその時、彼は冷たく「出て行け」と言い放った。

永江は落ち込んで、今夜も無駄だと思ったが、まさか再び出会うことになるとは思ってもみなかった。


永江は情熱的な眼差しで星野を見つめ、

「ご機嫌斜めみたいですね。私の踊りを見て元気を出してみませんか?」


星野は白いドレスを着た永江リコを見上げた。

白いドレス、それは麻奈が最も愛していた色だった。

成人式の日、麻奈はそのような純白のドレスを着て、彼のために「鏡花水月」を踊ってくれた。


永江リコは星野の無言を、了承だと勘違いし、すぐにスマホで音楽を流し、星野の前で踊り始めた。

だが、星野は見れば見るほど眉をひそめ、その目には抑えきれない嫌悪がにじみ出てきた。麻奈が彼の成人式で踊った時の自信と誇り、その高貴で傲慢な白鳥のような姿は、永江リコには到底及ばなかった。

彼は今でも鮮明に覚えている。あの時、会場の男性たちの目は、麻奈に釘付けになっていた。

それで、麻奈が「好きか?」と尋ねた時、彼は無意識にその占有欲を露わにし、冷たく言った。

「君の踊りは大嫌いだ。」

驚くべきことに、彼女はその言葉に従い、二度と踊らなかった…


星野はその回想から現実に戻り、この女がいくら麻奈のかっこをまねて、同じ踊りをしても、まるで別物だと感じた。

例えるなら、こいつはただの滑稽な鶏で、しかもその醜さに気づかず、自分に媚を売り続けていた。

星野の目には、嫌悪が実体化したように映り、冷たく「ゴミだ」と吐き捨てた。

そして、迷わず立ち上がり、振り返ることなくその場を去った。


志津県では皆に追い求められる存在であった永江リコは、これで星野の前で何度も侮辱され続けた。

永江は踊りを止め、目に怒りを滲ませて言った。

「あの下賤な女が悪い。あれさえなければ、私の踊りがもっとうまくいくはず。星野社長も私を嫌っていなかったのに!」


――あの下賤な清掃員を懲らしめるわよ!自分を侮辱した代償を思い知らせてやる!


ーーーー

私は地下駐車場から迂回して寮へ戻り、まだ怖じ気付く心をなんとか宥めて、ベッドに座った。

三ヶ月間必死に隠れていたのに、どうしてまた彼に出会ったのか。

私はどうにか冷静さを保とうとし、「隠れれば大丈夫、絶対に気づかれることはない」と言い聞かせた。


鏡の中の自分をちらりと見てみると、顔はひどく青ざめ、目に見えて傷だらけ。

もし星野侑二に会ったとしても、彼は私だとは気づかないだろう。

したら、突然一つの疑問が頭に浮かんだ。

どうして深山彰人は一目で私を見抜けたのか?

彼が医者だから、うわべを越えて骨格まで見抜けるのだろうか?


その時、ドアの外で「ドンドン」と激しくノックする音が聞こえた。

私は足を引きずりながらドアを開けた。

目の前に、永江リコが険しい顔で立っており、その背後には二人のボディガードがついていた。


永江が私を見たとたん、勢いよく部屋に飛び込んできて言った。

「ついに見つけたわ、この下賤女!」

私は恐怖で後ろに退きながら言った。

「もう十分に罰を受けました…お願い、勘弁して…」


永江リコは怒りのままに叫んだ。

「星野社長の前で恥をかかせたあなたを、許せるわけないでしょ!」

そして、背後の二人のボディガードに命じた。

「お前ら、しっかりこの女をやっつけろ!」


二人の男が私の部屋に押し入った。

一人は乱暴に私の持ち物を壊し、もう一人は私を床に押さえつけた。


私は必死に抵抗しながら、壊された物の中から両親の遺灰を取ろうとするボディガードを見つけ、必死に叫んだ。

「やめて!!!」


永江リコは私の痛々しい顔を見て、満足そうに笑い、遺灰をボディガードから受け取った。

「これを大事にしているんだね?」

その言葉を発しながら、永江はわざと落とした。

私は必死で拘束を解き、遺灰をちゃんと掴み取った。


だが、永江はまた別の骨壺を取り上げ、冷たく笑って言った。

「じゃあ、これも受け取れるかしら?」

その瞬間、永江は遺灰を投げようとした。


と同時に、突然冷徹な声が響き渡った。

「貴様ら、何をしている?」

私は思わずドアの方を見た。


――星野侑二がどうしてここに!?


先ほど星野は永江リコの踊りで気持ちを悪くさせられ、その後ホテルの周りをぶらぶらと歩きながら、社員寮の建物に差し掛かると、懐かしい声が聞こえてきた。

それが幻聴であることは分かっていたが、星野は無意識に駆け寄った。


そして、目にしたのは、永江リコが灰色の陶器を手に持ち、それを私に投げようとしている光景だった。

その灰色の陶器は、かつて彼が選んだものだ。彼自身はそれをよく知っていた!

――宮崎夫婦の骨壺だ!つまり、麻奈もここにいる!

星野は瞳を震わせ、ゆっくりと頭を下げて、床に横たわり、もう一つの骨灰盒を抱えて鼻と顔が青く腫れた私を見つけた。


私が星野侑二を見た瞬間、心の中は混乱と恐怖でいっぱいになった。

理性では、星野が今の私の顔を認識できることはないだろうと思っていたが、恐怖はそれを打ち消し、私を呑み込んだ。


心臓は胸の中で激しく跳ね、喉元まで飛び出しそうだった。

体全体が震え、急いで頭を垂れ、星野と目を合わせることができなかった。


しかし、星野は私の小さな動きにもすべて気づいていた。

彼の目には、複雑な感情が浮かんでいた。心の中には痛み、怒り、そして失ったものをついに取り戻した後の喜びが混ざり合っていた。


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