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第15話 逃げられると思ったか?

星野は一歩一歩私に向かって歩み寄る。

その一歩一歩が、まるで私の心臓を踏みつけるように感じられた。

もう終わりだと思ったその時、「パチン」と音がした。


驚いて顔を上げると、星野が永江から骨灰盒を奪い、そして永江に思い切り平手打ちをしていた。

永江は信じられないという表情で顔を押さえ、

「星野社長、こんな下賤な女のために私に手を上げるの?!」


星野の目は氷のように冷たく、永江を射抜いた。

「うせろ!」

永江リコはさらに言い訳しようとしたが、星野のその殺気立った表情を見て、恐怖に駆られ、ボディガードを連れて足早に逃げていった。


ほんの一瞬の間に、小さな部屋には私と星野侑二だけが残った。

私は必死に骨壺を抱きしめ、全身が震えていた。

星野侑二に捕まってしまった!

これで私の命も尽きる!

彼は、きっと私を徹底的に苦しめるのだ!


そんな恐怖が全身を支配し、息が詰まるような感覚に包まれ、目の前が暗くなる。

その瞬間、星野の低い声が耳に届いた。

「怖がらなくていい、もう誰にも傷つけさせない。」


そして、彼の手が私の前に差し出され、私を支えようとしているようだった。

まさか、私を死ぬほど憎んでいる彼が、こんなにも優しく手を差し伸べるはずがない!

私は本能の恐怖に駆られ、後ろに後退り、彼の手を避けた。


星野はただ私の反応を静かに見つめていた。

しばらくしてから、ようやく声が響いた。

「安心しろ、俺は悪い人間じゃない…ただ通りかかっただけだ。」

その言葉を残すと、星野は手を引っ込め、立ち上がって部屋を出て行った。


ドアがそっと閉まった音が聞こえた後、私は信じられない気持ちで頭を上げ、自分の顔を触わった。

星野侑二は私だと分からなかったのか?


きっとそうだ!

でなければ、こんなに簡単に私を放っておくはずがない。


ほっと息をつきながらも、心に迷いが生じた。

あの冷徹で容赦のない星野侑二が、通りすがって知らない人を庇うものだろう?……


―――

星野は社員寮を出た後、足取りがややふらついていた。

壁に寄りかかりながら、胸を強く押さえた。

彼の心臓は体内で激しく鼓動し、まるでその束縛から逃れ、求めている場所に向かおうとするかのようだった。


彼女だ!

宮崎麻奈だ!

あの、彼が昼夜を問わず探し続けた麻奈だ!

ついに見つけた!


だが、失われたものを取り戻せた喜びは次第に苦しさに変わりつつあった。

出所後の麻奈は彼を恐れていたが、それでも無理にでも彼と目を合わせていた。

だが、星野は気づいた。今の麻奈が彼に対する恐怖は、以前よりも深刻になっており、彼を一目見ただけで息ができなくなり、すぐに倒れそうになっている。


なぜだ? どうして彼女は以前よりもまして彼を恐れているのか?

星野はその理由を知らなかった。どうすることもできず、心の中で沸き上がる感情を抑え、麻奈の存在に気づかないふりをした。

また彼女を恐れさせたくなかったからだ。

だが、麻奈の顔にあった傷を見た時、怒りが急激に湧き上がった。

永江リコめ!!!よく麻奈を傷つけた!


星野は携帯を取り出し、番号を押し、低く殺気を帯びた声で言った。

「矢尾、志津県に来い。」


一週間前に、彼は一人で志津県に向かっていた。

志津県に来たのは、あの車の事故がきっかけだった。

事故の後、麻奈は志津県で彼を支え、三年間ずっと彼の側にいて、彼を立ち上がらせた。

志津県には、星野にとってただの苦しみだけではなく、麻奈との思い出もあった。

今回は偶然志津県に来て、たまたまクラウデーホテルに宿泊した。

今、彼はそれが運命だと確信している。

彼の最愛を見つけるための運命の導きだと。


星野は胸を抑えながら、かすれた声でつぶやいた。

「今度こそ、君を逃がさない。」


―――

一晩中眠れなかった私は宿舎を出ると、ちょうど同じキッチンで働く雪子に出会った。

雪子は私を見て、少し近づき、興味深そうに尋ねた。

「ねえねえ、昨日助けてくれたイケメン、誰だったの?」

私は頭を振って、関係を否定した。

「知らない人よ!」

雪子は明らかに信じていなかった。

「知らないわけないでしょ? 前にホテルで会った時、彼は私を麻奈だって勘違いして呼んだのよ。」


私は雷に打たれたように立ちすくんだ。

「何て言ったの?」

雪子はにやりと笑いながら言った。

「あのイケメン、どうやら君を探してるみたい。結構親しい感じで『麻奈』って呼んでたわよ!」


私の血の気が引いた。

もし本当にそうなら…

昨夜、星野はもう私だと気づいたはず!

なのに、私がまだ安全だと勘違いしてしまった。


私は必死に冷静を保ち、雪子に向かって言った。

「ちょっと気分が悪いから、先にキッチンに行ってて、私もすぐに行くから。」

そう言って、私は急いで寮に戻り、すぐに逃げる準備をした。


星野が私を憎んでいることは確かだ。

彼は必ず私をあらゆる手段で苦しめるだろう。

もし捕まったら、お腹の子を守り切れない…

今すぐにでも逃げなければならない!


私は素早く荷物をまとめ、両親の骨壺をバックに詰め込み、急いでホテルを出て、タクシーを拾った。

車に乗れたとしても、体が震え、冷や汗が止まらなかった。


運転手が私の異様に気づき、心配そうに聞いてきた。

「何かあったんですか?」

私は慌てて首を振り、息を切らして答えた。

「いや、ちょっと具合が…駅に行かなきゃいけなくて、急いでいる…」

運転手はにっこり笑った。

「大丈夫、すぐに着けますから、安心してください!」


ところが、運転手が自信満々だったのもつかの間、車はなかなか進まなかった。

すぐに車両が前に詰まり、思うように進めない。

運転手はハンドルを握りながら文句言った。

「今日は一体どうしたんだか? なんでこんなに渋滞してるんだ!」


私はその怒声に心配を覚え、顔色がどんどん悪くなった。

この渋滞が、事故ではなく、まるで誰かの手によって仕組まれたように感じた。


その直後、二台の車が一気に私たちの前に現れ、強引にタクシーを路肩に停めさせた。

運転手は喇叭を鳴らし、怒鳴り始めた。

「誰だよ! 車の運転もできないのか!ちゃんと免許とっとけ!」


だが、前の二台の車はまったく動じなかった。

私は不安を感じ、すぐに車を降りようと思ったが、誰かが外から車のドアを開けた。


――星野侑二だった!


星野は冷ややかな顔をして、私の隣に座った。

車内には、人を凍らせるような冷気が漂っていた。


私は恐怖に息が詰まり、震えながらも声を出した。

星野は私の恐怖を見逃さず、少し近づいてきて、怒りと狂気を含んだ眼差しで一言を吐き出した。


「お前、また俺から逃げようと思っているのか!!」


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