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第32話 彼女の命さえ奪ってもいい


私は不意に地面に激しく叩きつけられた。

背中に激痛が走り、まるで内臓まですべてズレてしまったかのようだった。

だが、星野は私に立ち直る隙すら与えなかった。

彼は力強く私の腕を掴み、見下ろして怒りを込めて睨みつける。

「何度も俺を挑発して、楽しいか?」


誰が好き好んで、悪魔を挑発するものか!

私は命がいくつあっても足りないじゃないか?

しかも、今この瞬間、星野の顔を見るたびに、無残に殺された兄のことが頭から離れない!

もともと星野への恐怖が、一瞬で憎しみに変わった。


私は力いっぱい星野の手を振りほどく。

「私に八つ当たりすることはできたとしても、星野家の連中をどうやって片付けるおつもり?」


星野は私の顎を掴み上げた。

「俺と深山彰人の取引を知った今、随分と自信がついたな。もう俺を恐れもしないのか?」

今の私が、彼の怒りに真っ向から向き合っていることに、彼自身も驚いたようだった。


私は震える衝動を必死に抑え、顔を星野の頬に近づけて、一句一句を吐き捨てた。

「なぜ恐怖で悪魔を喜ばせないといけないのよ!」


出所してから……

星野の折檻や辱めを受けるたび、私は恐怖によって卑屈に哀願してきた……

だが、一度も通じたことはない!

挙げ句の果てに、彼の残忍さを煽るだけだった!彼の行動がますますエスカレートしただけ!

なぜ、兄を殺したこの悪魔を、さらに満足させてやらねばならない!!!


星野は私の憎しみに満ちた目を見て、冷酷な笑みを浮かべた。

「今のお前のその姿の方が、よほど俺を楽しませてくれる。」

私の心は激しく震えた。

星野はゆっくりと私の耳元に顔を寄せ、ささやいた。

「本当に深山のやつに骨をもらって、十分な勇気がついたのか、見てやろうじゃないか。」


私に反応する間も与えず、星野は私の首筋を掴み、地面から無理やり引き上げた。

そして、まるで無価値なゴミを引きずるように、私の抵抗など一切無視して、乱暴に病室の外へと引きずっていった。


青野はその光景を見て、呆然とした。

さっきまで「星野はもう暴力は振るわないはず」と言っていたのに、

次の瞬間には現場で暴力沙汰だ。

青野は咄嗟に立ち上がり、止めに入った。

「星野社長、宮崎様の怪我はまだ治っていません。そんなことをしてはいけません。」


しかし、星野の冷酷な視線が、刃のように青野を射抜き、口を開けてから一言だけ怒鳴りつけた。

「どけ!」


青野はその怒声に、手も足も出ず、私が引きずられていくのをただ見ているしかなかった。

これでようやく、私の身体にこれほどまで傷がある理由を、彼は悟ったのだった。

星野はやっぱり正気じゃない!常識で考えられないんだ!

だからボスが、わざわざ自分をここに手配して彼女の世話をさせたのか。


青野は急ぎ病室を出て、人気のない角に移動し、深山の番号を押した。

何か緊急な事態があれば、深山さまへ!


―――

私は星野に引きずられるまま、階下の病室まで連れて行かれた。

病衣は床との摩擦で破れ、

もうすぐ治りかけていた傷口も再び開き、血が滲み出す。


みっともない姿で、血まみれになって小林の前に現れると、彼女の目に抑えきれない喜びが一瞬走った。

だが、彼女はまだ弱々しいふりをして、わざとらしく問い詰める。

「侑二、宮崎さんに何をしているの?」

その声に合わせて、小林は病床から降りようとする仕草をした。


草壁は慌てて小林を押しとどめる。

「夜江様、星野社長はあなたのために怒っているんですよ。」

そして、私を睨みつけて言った。

「彼女がわざとあなたを刺激したのが悪いんです!」


そうか。今朝のことの仕返しか。

私は少し後悔した。

この小林夜江は、姉と同じで、やたらと告げ口が好きだ!

こんなことなら、今朝は我慢しておけばよかった!


小林は私を挑発するように一瞥すると、すぐに目を赤くして星野を見上げた。

その声は、泣きそうなほどの悲しみに満ちていた。

「侑二、私が宮崎さんに侮辱されたせいで落ち込んだんじゃなくて、彼女を見るたびに、もう二度と子どもを産めないことを思い出してしまって……それが辛くて自殺しそうになったの……」


星野は「自殺」という言葉を聞いた瞬間、全身から殺気が抑えきれずに溢れ出した。

あの時、小林ひるみも非人道的な仕打ちを受けて自殺したのだ!

今度こそ、妹の夜江を私に追い詰められて死なれるわけにはいかない。


星野は怒りを爆発させ、私の膝を力いっぱい蹴り飛ばした。

不意を突かれて、「ガタン」という音とともに、私は地面に膝をついた。

膝に激痛が走り、骨が砕けそうだった。


星野は冷徹に私を見下ろした。

「何度も夜江を傷つけて、本当に俺がお前を罰しないとでも思ってるのか!」

私は必死に背筋を伸ばし、星野を見つめて、強気に問い返した。

「今まで罰が足りなかったとでも?」


私の反論が、星野をさらに刺激した。

「まだ足りないと思うくらいだ!」

星野は私の頭を無理やり床に押さえつけ、「今すぐ夜江に跪いて謝れ!」

首がこのままへし折れるのではないかと思うほどの力で押し込まれた。


「ドサリ」という音が響き、数秒も経たないうちに、私の体は耐えきれず、屈辱な姿勢で小林のベッドの下に土下座させられた。

私は精一杯抵抗し、かすかに顔を上げ、ベッドの上の小林を見た。

その刹那、確かに彼女にはドヤ顔がちらついたのが見えた。


でも、すぐにまたいじめられっ子に戻った小林は小声で星野侑二に告げ口した。

「宮崎さんは謝る気がないみたいです。」


星野は私をまたもや地面から引き上げ、耳元で脅すように囁いた。

「俺がもっと手伝ってやろうか?まだ謝る気がないのか?」

その声は、まるで地獄から這い出た悪魔の声だった。

私はよくわかっている。今ここで頭を下げなければ、待っているのはさらにひどい仕打ちだけだ。

星野は今、私の全てのプライドを粉々にしようとしている!!!


私は屈辱の思いでありながらも、腰を曲げ、頭を低く垂れ、小林の前にひれ伏して卑屈に謝った。

「全部私が悪いの。あなたを刺激するべきじゃなかった……」


小林は唇を噛みしめ、悲しげに言った。

「侑二、宮崎さんは本気で謝ってるように見えないわ!」


私は両手をきつく握りしめ、本能による抵抗心を堪えて額を床に打ちつけ、「ゴツン」と音を立てた。

そして……

二度目。

三度目。

しばらくの間、病室には「ゴン、ゴン、ゴン」と鈍い音だけが響き、他の音はまったくなかった。


星野の瞳に一瞬だけ複雑な色が浮かんだ。

だが、それはすぐに消えた。

裏切り物の女に、同情する価値などない!

これこそが報いなのだ!


小林は、星野の目線が私だけに向いていることに、ようやく気づき、気分が悪くなった。

彼女の口元は下がり、私を見る目には憎しみが宿っていた。

そして、私の額から血が顔中に流れ始めてようやく、止めに入った。


小林はか細い声で宥める。

「侑二、私が欲しいのはこんな謝罪じゃないの。」

だが、彼女がどんなに星野に甘えても、彼から一瞥すらもらわなかった!

星野の視線は私に釘付けのまま、冷酷な一言を絞り出した。

「お前が彼女をどう罰したいか、好きにしろ。」

わざと一呼吸置いて、無慈悲に唇を動かす。


「たとえ命を奪いたいなら、それでもいい。」


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