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第40話 私を殺して


またしても、濡れ衣がしっかりと私に着せられた。

特に「病院から逃げた」というのは、明らかに星野の逆鱗に触れた。

星野は冷たく私を見つめ、「お前、また逃げようとしてるのか?」

私は星野に負かって必死に首を振る。

「逃げるつもりなんてないわ!全部彼の嘘なんだ!」


佐藤は自分の傷口を指差して罵った。

「今夜、俺がお前を連れて行けないからといって、こんな酷いことをするなんて!本当に毒婦だな!」


小林はすべてを悟ったような顔で加わった。

「なるほど、佐藤先生の傷は、そういうことだったのね。」


草壁はすぐに飛び出して、加勢した。

「今日あなたが夜江様のお世話をしてた時、ずっと佐藤先生と目配せしているのを見てたのよ!」


小林は急に合点がいった表情で推測を口にした。

「私、おかしいと思ったんだよね、宮崎さんは歩くのもやっとなのに、どうしてわざわざ佐藤先生に診てもらいに行ったのかって。やっぱり、誘惑するつもりだったのね。」


草壁は皮肉たっぷりに追加する。

「佐藤先生は結局、彼女を逃がすことはできなかったけど、彼女はきっと佐藤先生を十分満足させたんでしょうね。じゃなきゃ、佐藤先生が殴られるのを、止めるはずないもの!」


小林と草壁は、まるで息を合わせたように、私が佐藤を誘惑したというでまかせを裏付けるために嘘までついて、「淫乱」のレッテルも、完全に私に押し付ける勢いだった。


星野は身をかがめ、目に怒りの炎をたぎらせながら私を見下ろす。

「納得できる説明をしろ。」


私は怯えて震えながら、嗚咽まじりに説明した。

「さっき彼が私を部屋に引きずり込んだ時、背後に誰かの指示があるって漏らしたの。目的は私の身の潔白を奪うこと。それで、あなたに生かしておいて欲しい、黒幕を突き止めたいから止めに入った。」


小林の顔色が一瞬で変わる。

「侑二、彼女の言い訳なんか信じないで!」

絶対に星野に佐藤を調べさせてはならない!


私は取り乱している小林を一瞥し、悲痛な思いで星野に懇願した。

「本当か嘘か確かめたいなら、佐藤が最近多額の入金を受けていないか調べればわかるはず!」


星野は当然、真相を確かめようと、すぐに矢尾に合図した。

矢尾はついに出番が来たとばかりに、早速調査に駆け出していった。


部屋の中は、一瞬、時間が止まったような静けさに包まれた。

誰もが息を潜めていた。

特に小林は、目に見えてうろたえている。

もし草壁が彼女を支えていなければ、今にも倒れそうだった。


どれほど時間が過ぎただろうか。

小林は必死に呼吸を整え、一歩、足を引きずりながら星野侑二に近づいた。

「侑二、ちょっと疲れたわ……先に部屋まで送ってくれない?」


やはり彼女はじっとしていられなかった。

矢尾が何かを掴む前に、どうにか自分を守ろうとしたのだ。


だが、それでも一歩遅かった。


ちょうど矢尾が戻ってきた。

「星野社長、最近佐藤の口座に多額の入金は確認できませんでした。」


小林はやっと安堵の息をついた。


だが、矢尾から小林が見覚えのあるキャッシュカードが取り出された。

「ですが、彼のオフィスでこのキャッシュカードを見つけました。口座名義人を調べたところ、本人名義じゃありませんでした。」


私は嗚咽まじりに尋ねる。

「きっと、彼を買収した人が渡したカードなんです。その口座名義人は?」


矢尾の視線はゆっくりと小林へと向いた。

「口座名義人は――小林夜江さんです。」


私は驚きで口を手で覆い、とても信じられない表情で彼女を見つめた。

「あなたが佐藤を買収して、私のレープを企てようとしたの?女にとって一番大切なのは貞操なのよ。私を死に追いやるつもりだったの!」


私は涙に濡れながら叫び、そのまま息が詰まって、苦しげに床に崩れ落ちた。


星野が慌てて私を支え、私は彼の胸元にすがりつく。

「……さっき……もう少しで汚されるところだった……」


星野は額に青筋を浮かべ、小林を冷たく睨みつけた。

小林は慌てて一歩後ずさる。

あの時、佐藤にカードを渡した時、まさか後から調べられるとは思っていなかった。


「これは全部、私を陥れようとしているだけよ!誰かがこっそり私のカードを佐藤のところに置いたのよ、私は無実だわ!」


小林は言い訳した後、怒りに燃えて私の前に駆け寄り、私の鼻先に指を突きつけた。

「侑二、以前だって彼女はわざと私を階段から突き落として、殺そうとしたのよ!今度はまた私を陥れようとしてる!彼女は私たちの仲を裂こうとしてるんだ!」


人間というのは、焦るとつい本性が出てしまうものだ。

今の小林夜江のように。


私は彼女の取り乱しを無視して、彼女の足元を見て首を傾げ、わざと驚いたように言った。

「あなたの足、もう治ったの?」


私の言葉を聞いて、全員が小林の足に注目した。

ついさっきまで、星野を待っていた小林は明らかに足を引きずっていた。

こんな短時間で、奇跡的に治るはずがない。

つまり――

彼女は嘘をついていたのだ。


小林の顔色は一変し、必死に弁解した。

「わ、私は、ただ焦ってて、一瞬足の怪我を忘れてしまっただけ……!」と言いながら、痛そうに足を押さえる。

「侑二、今気づいたらすごく痛いの……」


星野はじっと彼女の芝居を眺め、全く小林を支える気がなかった。


小林がこれ以上演技しても信頼を取り戻せないのと悟った草壁は、すぐに彼女のところへ駆け寄って支え、私を睨みつけた。

「夜江様がここまで追い詰められたのも、全部お前のせいよ!この毒婦が、夜江様を殺そうとしてるから!」


私は星野の胸に寄りかかりながら、小林の手首を指さした。

「リストカットのフリも、私がやらせたって言いたいの?」


小林は俯いた。

この時になって初めて、手首に巻いていた包帯が、いつの間にか外れてしまっていることに気付いた。

包帯の下には、リストカットの痕はまったくなかった。

つまり、小林の自殺未遂も、すべて嘘だったのだ。


彼女は完全にパニックになり、星野にすがる。

「侑二……」


だが、星野が最も嫌うのは、裏切りと嘘だった。

この瞬間、星野の小林に対する感情は怒りしかなかった。彼は無表情に矢尾に命じた。

「彼女を連れて行け。全身をもう一度、徹底的に検査しろ。」


小林は崩れ落ちる。

「侑二、あなたはこの女のために、私を疑うの?」


彼女は星野に支えられていた私を、怒りに満ちた目で睨みつけた。

私は軽く口角を上げて、小林に無言で挑発した。


その瞬間、小林は逆上して完全に我を失い、私に襲いかかろうとした。

私はすぐに星野の胸にすがりつき、全身を震わせて小ウサギのように怯えた声で哀願した。

「やめて、叩かないで!全部私が悪かった!」


星野は、刑務所でのトラウマに引き起こした私の条件反射を見ると、顔色がますます険しくなった。

彼はボディガードたちに怒鳴った。

「早く小林を連れて行け!」


小林が連れ去られるのを見届けて、私は力なく星野の胸に身を預けた。

「これから、何があっても……どうか、まず私を信じてくれないか……」


星野は眉を深くしかめた。

今回の件、今は私が無実だと信じることができる。

しかし、深山彰人との不倫疑惑のことは――?


星野は無言のまま、私を抱き上げた。

私は頭を星野侑二の胸元にすり寄せながら言った。

「あなたが私の父と母を殺し、兄も殺した……私は彼らのために一年間喪に服したいだけなのに……どうしてそれすらも許されないの……」


星野の足が、ピタッと止まった。

つまり――

自分を拒んでいた理由は、深山のためではなく、家族のために喪に服しているだけか?


星野が俯いて私を見下ろすと、私はちょうど顔を上げていた。

涙に濡れた目には、莫大な絶望が浮かんでいた。


私は傷だらけの手をゆっくりと伸ばし、星野の頬に触れ、疲れ果てた声で言った。

「これだけ長い年数、あなたを愛してきた私のことを思って……もうこれ以上、私を苦しめないで……早く私を殺してくれ……」


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