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第47話 命を懸けても、麻奈を救い出す


星野侑二に刑務所に送られた後、私は信じていた。

両親も、兄も……それに文乃おばあさまも。

きっと外で必死に手を尽くし、あらゆるコネを使って、私を救い出そうとしてくれているのだと。


だけど、刑務所の四年間——彼らに会うどころか、彼らの消息すら一切届かなかった。


つまり、星野侑二が何かしらの手段を使って、皆を刑務所の外に足止めしていたのだろう。


私はゆっくりと頭を上げ、文乃を見つめながら、胸の奥から込み上げる罪悪感を抑えきれずに言った。

「おばあさま、私が和也おじさんを死なせてしまったの……」


文乃は首を振り、その言葉には苦味が滲んでいた。

「この件はあなたのせいじゃないよ。和也はね、あの時星野グループの社長の座を奪うために、少しやりすぎたところもあったから……」


文乃は、特に次男の和也を大切に思っていた。

けれど、彼女もよく分かっていた。次男は星野グループをしっかり運営できる器ではない、と。


だが、あの年——まず星野侑二の両親が亡くなり、それに続いて第一継承者である星野侑二自身にも事故が起きた……

その時の星野グループは、まるで嵐の中で舵を失った巨大な船のようで、いつ沈んでもおかしくなかった。


文乃は、星野グループが人心の乱れと共に滅びていくのを見たくなかった。

だからこそ、次男が孫の継承者の座を奪い、社長の席に座るのを黙認せざるを得なかったのだった。


その後、星野侑二は立ち直り、宮崎家の助けを得て、星野グループの支配権を取り戻した……文乃も、それに反発しなかった。


文乃の声には深い悲しみが滲んでいた。

「でも、まさか侑二が権力を取り戻した後、和也をとことん追い詰めるなんて……」


母親である彼女は、息子が兄弟を殺し、義姉まで手にかけるとは到底信じられなかった。

それに、和也がこの甥である侑二に対して、残酷な手を下すとも思えなかった。


文乃は顔を怒りで歪め、声も震えていた。


「星野侑二はこの数年、まるで完全な狂人だ。和也を死なせたのもそうだが、あの小林ひるみのために、あなたを刑務所に送りこんで、さらにはあなたのご両親まで死なせて、兄まで追い詰めた!」


私は目が真っ赤に腫れ、胸が張り裂けそうだった。

「私も予想しなかった……彼がここまで冷酷になれるなんて。」


文乃は感情を抑えきれず、歯を食いしばって冷たく言い放った。

「あの小林ひるみなんて、全くろくな女じゃない!生きてる時からトラブルばかり起こしてたのに、死んでもまだこんな騒動を引き起こす!」


私は目を伏せ、ぽつりと呟いた。

「小林ひるみ……本当に人だったな」


どんなに彼女を嫌っても、

その手腕は認めざるを得ない。

星野侑二のように傲慢な男が、彼女に夢中になったのだから。


文乃は怒りで手をぎゅっと握りしめた。

「当時、誘拐犯から彼を救い出したのも、両親の前で三日間もお願いし続けて、やっと両親を説得して味方につけたのも、全部あなただったのに……このバカ孫、あんな女に惑わされて、目がくらんでる。」


興奮のあまり、床を強く叩きつけた。

「うち星野家からこんな愚か者が出るなんて!」


私は文乃が手を傷つけているのを見て、慌てて手を伸ばして止めようとした。

だけど、うっかり自分の痛む脚に触れてしまい、思わず声を上げてしまった。


文乃はすぐに心配そうに足を確認した。

「動かないで、私が傷を手当てするよ」


私は文乃が慌てて救急箱を手に取るのを見つめていた。

白髪だらけの老婦人が、不甲斐ない私のために気を使いながら傷を手当てしてくれる——胸の奥に言いようのない切なさがこみ上げてくる。


文乃は綿棒で傷を拭きながら、ぽろぽろと涙をこぼしていた。

「聞いたわよ。出所してから、あの男はあの手この手であなたを苦しめてきたって……おばあちゃんにはもう何もできない。こんな方法しか残されてない、あなたをあの男の手から取り返すには……」


私は分かっていた。


もし文乃おばあちゃんが、私にあんなに強烈な悪意を見せてくれなければ、星野侑二は絶対に私を仏間に来させなかっただろう。


彼は、誰かが私に優しくするのを許さない。

許されるのは、私を苦しめることだけ——!


疑う余地もなく、昼間もきっと誰かが仏間を見張っているはずだ。

おばあちゃんが本当に私に酷くしているか、確かめるために。


文乃の涙は止まらない。

「麻奈は痛いのが一番苦手なのに……」


なのに、彼女は私の足に無数の傷跡を見つけてしまった。


私は頬を文乃の手にすり寄せた。

「おばあちゃん、全然痛くないよ。」


文乃は声を震わせて言った。

「痛くないわけがない!」


私は笑って見せた。

「おばあちゃんに会えただけで、私は嬉しい。だから何も痛くないの。」


文乃は切なげに涙を拭って、そして用意していた水を私に飲ませ、表情が徐々に真剣になっていった。

「おばあちゃんはもう全部準備した。今夜こそ、あなたをここから出すから。」


私はそのとき、文乃が今日してきたことのすべてを悟った。

一時的に私を星野の手から救い出したいだけじゃない。

星野から、私を逃がそうとしているんだ、と。


「ごめん、おばあちゃん、私はいけないの!」

私はすぐに首を振って拒んだ。


文乃は私の手を強く握りしめ、決然とした口調で言った。

「今回“十長老”の招集を口実に、星野宅に戻ってきたのは、あなたを逃がすためだけ。」

息子のための復讐だの、星野グループの権力争いだの、全部嘘だった。

彼女の目的は、最初からたった一つだけ。


文乃は、私を見つめる目がいっそう優しく、慈しみに満ちた。

「和也を失った私は、もうあなたまで侑二の手で死なせはしない!」


おばあちゃんが、こんなにも私のためにしてくれるなんて思ってもみなかった……。

でも、もし私を逃がしたら、星野は絶対におばあちゃんを許さないだろう。


口を開いて止めようとしたけど——

なぜだか、声が出ない!!!


文乃は優しく私の髪を撫でてくれた。

「麻奈はおばあちゃんを巻き込みたくないって思ってるだろうけど……これが唯一、おばあちゃんにできることなんだよ。」


私はハッと気づき、飲み干した水のカップを見つめた。


おばあちゃん——私に薬を盛ったんだ!


文乃は身をかがめ、そっと私の頬に触れた。

「心配しないで。飲ませたのはただの睡眠薬。目が覚めた時には、きっと新しい人生が始まるから。」


その声を最後に、

私はとうとう力尽きて、意識が遠のいていった。


文乃は涙を拭い、扉の方を振り向いた。

「蘭、準備はできた?」


中年の女性が仏間に入ってきた。

彼女は二十年以上も文乃の側に仕えてきた、最も忠実な部下・篠田蘭だ。


今回は星野宅に戻るにあたり、星野に警戒心を持たせないよう、蘭だけを連れてきた。

でも、それで十分だった。


蘭は昔、星野宅で二十年以上も働いていたし、後に文乃と共に去った後も、内部の人とは親しいままだった。


蘭は歩み寄り、報告する。

「すべて手配済です。今すぐお嬢様をお連れできます。」


文乃は、昏睡した私を名残惜しそうに見つめた。

「彼女を連れて、行きなさい。」


蘭は驚きに目を見張った。

「文乃さまは私たちと一緒に行かないんですか?」


文乃は落ち着いた笑みを浮かべて言った。

「誰かが後始末をしなければならないわ。」


その“後始末”をするのは、彼女しかいない。


文乃は、いつも身に着けていた数珠を私の手にかけた。

「うちの麻奈は、本来なら空高く輝く太陽なのよ。もっと眩しく、華麗に、自由に生きるべき子なんだ!こんなクズ男に弄ばれて、傷ついて終わるような子じゃない。」


だから——

今度こそ、命を懸けても、麻奈を救い出すのだ!


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