星野侑二に刑務所に送られた後、私は信じていた。
両親も、兄も……それに文乃おばあさまも。
きっと外で必死に手を尽くし、あらゆるコネを使って、私を救い出そうとしてくれているのだと。
だけど、刑務所の四年間——彼らに会うどころか、彼らの消息すら一切届かなかった。
つまり、星野侑二が何かしらの手段を使って、皆を刑務所の外に足止めしていたのだろう。
私はゆっくりと頭を上げ、文乃を見つめながら、胸の奥から込み上げる罪悪感を抑えきれずに言った。
「おばあさま、私が和也おじさんを死なせてしまったの……」
文乃は首を振り、その言葉には苦味が滲んでいた。
「この件はあなたのせいじゃないよ。和也はね、あの時星野グループの社長の座を奪うために、少しやりすぎたところもあったから……」
文乃は、特に次男の和也を大切に思っていた。
けれど、彼女もよく分かっていた。次男は星野グループをしっかり運営できる器ではない、と。
だが、あの年——まず星野侑二の両親が亡くなり、それに続いて第一継承者である星野侑二自身にも事故が起きた……
その時の星野グループは、まるで嵐の中で舵を失った巨大な船のようで、いつ沈んでもおかしくなかった。
文乃は、星野グループが人心の乱れと共に滅びていくのを見たくなかった。
だからこそ、次男が孫の継承者の座を奪い、社長の席に座るのを黙認せざるを得なかったのだった。
その後、星野侑二は立ち直り、宮崎家の助けを得て、星野グループの支配権を取り戻した……文乃も、それに反発しなかった。
文乃の声には深い悲しみが滲んでいた。
「でも、まさか侑二が権力を取り戻した後、和也をとことん追い詰めるなんて……」
母親である彼女は、息子が兄弟を殺し、義姉まで手にかけるとは到底信じられなかった。
それに、和也がこの甥である侑二に対して、残酷な手を下すとも思えなかった。
文乃は顔を怒りで歪め、声も震えていた。
「星野侑二はこの数年、まるで完全な狂人だ。和也を死なせたのもそうだが、あの小林ひるみのために、あなたを刑務所に送りこんで、さらにはあなたのご両親まで死なせて、兄まで追い詰めた!」
私は目が真っ赤に腫れ、胸が張り裂けそうだった。
「私も予想しなかった……彼がここまで冷酷になれるなんて。」
文乃は感情を抑えきれず、歯を食いしばって冷たく言い放った。
「あの小林ひるみなんて、全くろくな女じゃない!生きてる時からトラブルばかり起こしてたのに、死んでもまだこんな騒動を引き起こす!」
私は目を伏せ、ぽつりと呟いた。
「小林ひるみ……本当に
どんなに彼女を嫌っても、
その手腕は認めざるを得ない。
星野侑二のように傲慢な男が、彼女に夢中になったのだから。
文乃は怒りで手をぎゅっと握りしめた。
「当時、誘拐犯から彼を救い出したのも、両親の前で三日間もお願いし続けて、やっと両親を説得して味方につけたのも、全部あなただったのに……このバカ孫、あんな女に惑わされて、目がくらんでる。」
興奮のあまり、床を強く叩きつけた。
「うち星野家からこんな愚か者が出るなんて!」
私は文乃が手を傷つけているのを見て、慌てて手を伸ばして止めようとした。
だけど、うっかり自分の痛む脚に触れてしまい、思わず声を上げてしまった。
文乃はすぐに心配そうに足を確認した。
「動かないで、私が傷を手当てするよ」
私は文乃が慌てて救急箱を手に取るのを見つめていた。
白髪だらけの老婦人が、不甲斐ない私のために気を使いながら傷を手当てしてくれる——胸の奥に言いようのない切なさがこみ上げてくる。
文乃は綿棒で傷を拭きながら、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「聞いたわよ。出所してから、あの男はあの手この手であなたを苦しめてきたって……おばあちゃんにはもう何もできない。こんな方法しか残されてない、あなたをあの男の手から取り返すには……」
私は分かっていた。
もし文乃おばあちゃんが、私にあんなに強烈な悪意を見せてくれなければ、星野侑二は絶対に私を仏間に来させなかっただろう。
彼は、誰かが私に優しくするのを許さない。
許されるのは、私を苦しめることだけ——!
疑う余地もなく、昼間もきっと誰かが仏間を見張っているはずだ。
おばあちゃんが本当に私に酷くしているか、確かめるために。
文乃の涙は止まらない。
「麻奈は痛いのが一番苦手なのに……」
なのに、彼女は私の足に無数の傷跡を見つけてしまった。
私は頬を文乃の手にすり寄せた。
「おばあちゃん、全然痛くないよ。」
文乃は声を震わせて言った。
「痛くないわけがない!」
私は笑って見せた。
「おばあちゃんに会えただけで、私は嬉しい。だから何も痛くないの。」
文乃は切なげに涙を拭って、そして用意していた水を私に飲ませ、表情が徐々に真剣になっていった。
「おばあちゃんはもう全部準備した。今夜こそ、あなたをここから出すから。」
私はそのとき、文乃が今日してきたことのすべてを悟った。
一時的に私を星野の手から救い出したいだけじゃない。
星野から、私を逃がそうとしているんだ、と。
「ごめん、おばあちゃん、私はいけないの!」
私はすぐに首を振って拒んだ。
文乃は私の手を強く握りしめ、決然とした口調で言った。
「今回“十長老”の招集を口実に、星野宅に戻ってきたのは、あなたを逃がすためだけ。」
息子のための復讐だの、星野グループの権力争いだの、全部嘘だった。
彼女の目的は、最初からたった一つだけ。
文乃は、私を見つめる目がいっそう優しく、慈しみに満ちた。
「和也を失った私は、もうあなたまで侑二の手で死なせはしない!」
おばあちゃんが、こんなにも私のためにしてくれるなんて思ってもみなかった……。
でも、もし私を逃がしたら、星野は絶対におばあちゃんを許さないだろう。
口を開いて止めようとしたけど——
なぜだか、声が出ない!!!
文乃は優しく私の髪を撫でてくれた。
「麻奈はおばあちゃんを巻き込みたくないって思ってるだろうけど……これが唯一、おばあちゃんにできることなんだよ。」
私はハッと気づき、飲み干した水のカップを見つめた。
おばあちゃん——私に薬を盛ったんだ!
文乃は身をかがめ、そっと私の頬に触れた。
「心配しないで。飲ませたのはただの睡眠薬。目が覚めた時には、きっと新しい人生が始まるから。」
その声を最後に、
私はとうとう力尽きて、意識が遠のいていった。
文乃は涙を拭い、扉の方を振り向いた。
「蘭、準備はできた?」
中年の女性が仏間に入ってきた。
彼女は二十年以上も文乃の側に仕えてきた、最も忠実な部下・篠田蘭だ。
今回は星野宅に戻るにあたり、星野に警戒心を持たせないよう、蘭だけを連れてきた。
でも、それで十分だった。
蘭は昔、星野宅で二十年以上も働いていたし、後に文乃と共に去った後も、内部の人とは親しいままだった。
蘭は歩み寄り、報告する。
「すべて手配済です。今すぐお嬢様をお連れできます。」
文乃は、昏睡した私を名残惜しそうに見つめた。
「彼女を連れて、行きなさい。」
蘭は驚きに目を見張った。
「文乃さまは私たちと一緒に行かないんですか?」
文乃は落ち着いた笑みを浮かべて言った。
「誰かが後始末をしなければならないわ。」
その“後始末”をするのは、彼女しかいない。
文乃は、いつも身に着けていた数珠を私の手にかけた。
「うちの麻奈は、本来なら空高く輝く太陽なのよ。もっと眩しく、華麗に、自由に生きるべき子なんだ!こんなクズ男に弄ばれて、傷ついて終わるような子じゃない。」
だから——
今度こそ、命を懸けても、麻奈を救い出すのだ!