私の体がその瞬間硬直し、ゆっくりと振り返った。
すると、小林夜江が毒蛇のように、私をしっかりとロックオンしていた。
小林は星野侑二にドイツへ飛ばされないために、この離島のことを思いついたのだ。
ここは星野侑二の両親が生きていたとき、一番大事にしていたプロジェクト。
彼女がこの島のエコパークをもう一度活性化させれば、堂々と国内に残ることができる。
思いもよらなかったのは、彼女が島に来て、さらなる収穫を得たことだった。
小林は邪悪な笑みを浮かべ、私に一歩一歩近づいてくる。
「なんだ、宮崎さんはここに隠れていたのか。だから侑二がいくら探しても見つからないわけね!」
そう言いながら、彼女はゆっくりとスマホを取り出し、星野の番号を打った。
「今から侑二に連絡して、あなたみたいな逃亡者を私が連れ戻してみせるわ!」
本当に自分の運の悪さには呆れてしまう!
こんな人里離れた寂しい島で、まさか宿敵に出くわすなんて。
私は小林が電話をかけようとする手をじっと睨みつけた。
「本当に、星野侑二に私がここにいるって教えるつもり?」
小林は冷たく笑った。
「あなたのために隠してあげる理由なんてないわ!」
私は必死に落ち着きを保とうとした。
「彼に捕まって連れ戻されたら、私はまた酷い目に遭う。でも、あなたも分かってるはずよ。今の星野侑二が私に抱いた執着心……私がそばにいれば、彼はもうあなたなんて見向きもしないでしょう?」
小林はピタリと手を止め、思わず私に向かって怒鳴った。
「今回のあなたは、侑二を本気で怒らせたのよ。今度こそ確実に殺されるわ!」
私はわざと挑発するように彼女を見やった。
「星野侑二が……本当に私を殺そうと思うの?」
小林の顔に明らかな迷いがよぎった。
実は、彼女もずっと感じていたのだ。星野が目の前のこの小生意気な女に特別な関心を持っていると。
その想いは、小林を狂おしいほど嫉妬させていた。
私は小林の迷いを見ぬいて、すかさず言い添えた。
「私は数日後には海外に出る予定。そしたら、星野とはもう何の関わりもなくなる……彼は、あなたのものよ。」
小林はしばらく私を見つめ、私が嘘をついていないか確認しようとしているようだった。
しばらくして――
小林の顔が突然にやっと歪んだ。
「でも、もっと手っ取り早い方法があるの!」
私は心の中でぞっとした。
反応する間もなく、小林夜江は地面から石を拾い上げ、その目に殺意を浮かべていた。
私は恐怖で目を見開き、足を引きずりながら慌てて後退った。
「な、何をするつもりなの!」
小林夜江は一歩一歩近づき、顔のすべてのパーツが歪みきっていた。「私はね……あんたの死こそが本望なのよ!」
その言葉とともに――
小林は何の躊躇もなく石を私の頭に思い切り叩きつけた。
とっさのことで私は全く避けることができなかった。
「ドン」という鈍い音が響いたあと、世界がその瞬間、静止したかのようだった。
次の瞬間――
額に鈍い刃が深く刺さったような激痛が走り、鮮血がどんどん目に流れ込み、世界を真っ赤なベールで覆った。
天が回り、地が揺れ、赤と暗闇が混じり合い、全てが漆黒の混沌になっていく。
私はもうこの目眩に耐え切れず、地面に倒れ込んだ。
小林は気絶した私のそばまで来て、頬をペチペチ叩き、病的な笑みを浮かべた。
「私はね、死人の言葉だけを信じるの!」
彼女は私の腕をつかみ、死体を引きずるようにして、ゆっくりとヨットの方へ歩いていった。
―――
ヨットの上。
私はゆっくりと目を開け、無意識に体を動かそうとしたが、両手足がきつく縛られていることに気づいた。
ほんの少し動くだけで、粗い縄が肉に深く食い込み、血が滲み出てくる……
額の激痛、手足の締めつける痛みに、私はもう動くこともできなかった。
小林は私のみっともない姿を見て、顔を近づけてきた。
「分かる?私はどれだけあなたを羨ましかったか!」
「宮崎家のご令嬢として生まれ、欲しいものはなんでも手に入る!」
「でも私は、全てを懸けても、何一つ手に入らない!」
小林はそう言いながら、私の髪を強くつかみ、目は狂気の憎しみに満ちていた。
「昔、私はあと少しで星野侑二を手に入れたのに、なぜ彼はあなたと離婚してくれないのよ!しかも、どんどんあなたに夢中になっていく!」
「四年以上前、私は彼にあなたを憎ませるように仕組み、あなたを刑務所に送った!」
「今度は、彼にあなたを完全に忘れさせてやるわ!!!」
小林の言葉を聞きながら、私は話がかみ合っていないと感じていた。
私は出所してから、小林夜江と知り合ったはず。
でもなぜ彼女の口ぶりだと、まるで昔から私たちは知り合いだったように……?
考える暇もなく、小林は私をヨットの縁まで引きずり、恐ろしい笑みを見せた。
「あなたが泳ぐのが得意なのは知ってるわ。」
そして、大きな石を運んできて、私の腰にしっかりと縛りつけた。
私は必死に体をよじらせた。
「私はもう海外に行くって言ったじゃない!二度と日本へ戻ってこない!」
小林は私の頬をなでながら、囁いた。
「あなたが死んでくれなきゃ、どうしても私は安心できないのよ。」
私は慌てて警告した。
「殺人は犯罪よ!」
小林は得意げに笑い、私の耳元でささやいた。
「どうせあなたの死体は海の生き物に食べられて、最後は骨だけになる。そうなったら、誰が私があなたを殺したと証明できるの?」
そう言い終えると、彼女は私に一切の抵抗の隙を与えず、私を海に突き落とした。
ごぼごぼごぼ……
私は海の中で必死にあがいた……
だが、両手両足は縛られ、腰には大きな石がつながれていて、体はコントロールできずに海底へと沈んでいく。
どんどん深く沈むにつれ、体の隅々まで海水の圧力が押し寄せ、体内の最後の酸素まで絞り出されるようだった。
窒息感、圧迫感……
少しでも呼吸をしようとするたび、海水が口の中に流れ込む。
死が一歩一歩迫る中、私は強烈な悔しさに襲われた。
蘭たちの期待通りに、ちゃんと生きることもできなかった。
ましてや……星野侑二への復讐もできなかった!
私の人生、なんでこんなにめちゃくちゃなの。
いやだ!
私は、こんなところで死ねるもんか!!!
強い悔しさに突き動かされ、私は粗い縄が肉に食い込む痛みも顧みず、必死で引っ張り、捻った。
縄が手首の肉を削り取り、血がどんどんあふれ出す。
そして……
ほとんど死に物狂いでもがいた末に、縄が緩んだ。
私は手首の激痛も構わず、すぐに腰の石をほどき、さらに足の縄も外した……
体はついに沈むのをやめた。
気を抜くことなく、必死で水面に向かってひたすら泳いだ。
ついに、完全に窒息する直前、私は海面にたどり着いた。
大きく息を吸いながら、私は少し離れたヨットの位置を見つめた。
常識で考えると、小林は自分が私を殺したと思い込んで、星野の前で私の居場所を明かさないだろう。
でも、なぜ私だけが好き勝手にされなきゃいけない!
小林夜江の前でも。
星野侑二の前でも!
私は、もうこれ以上こんな風に生きていたくない。
自分の運命は、自分で決める!!!
この瞬間、私は自分がこれから進むべき道がはっきりと分かった。
復讐。
必ずそいつらに復讐する!!!
私は残された力を振り絞り、ヨットの位置まで泳ぎ、そっと這い上がった。
小林は「私を殺した」ことで、悠々とヨットでワインを飲み、隙だらけだった。
私はオールをつかみ、ゆっくりと彼女の背後へと歩いた。
そして、彼女の背中に向かって呼びかけた。
「小林夜江!」
小林は一瞬動きを止め、ワイングラスを持ったままゆっくりと振り返り、私を見た瞬間、信じられない表情を浮かべた。
「なんで、あなたがまだ生きてるの?」
私は彼女にニコッと微笑み、次の瞬間、オールを振りかざし、思い切り彼女の頭に叩きつけた……