星野侑二の全身から、瞬時に冷たい殺気がほとばしった。
「お前、何してる!!!」
私の両手は震え、眼差しには怨毒と断固たる決意が宿っていた。
「私が死んだら、あなたのこの拷問に何の意味があるの?」
星野の額に青筋が浮かぶ。
「お前、俺を脅してるのか!」
「そうよ、私は今、あなたを脅してるのよ!」
私は一か八かで星野をじっと見つめた。
「もしおばあさまにもう一度手を出したら、私はすぐに死んでやる!」
星野は歯ぎしりしながら、脅しを言い放った。
「お前が死んだら、俺はあの人にもお前の後を追わせるぞ」
私は意識を失っている文乃を一瞥し、苦々しく微笑んだ。
「今のおばあちゃんの状態で、あとどれくらい持ちこたえられると思う?苦しむくらいなら、一緒に死んだ方がましよ」
そう言いながら、私は手にした錐をさらに喉元に深く突き刺した。鮮血が首筋を伝い、襟元を赤く染めていく。
けれども、まるで痛みを感じていないかのように、私はまだ笑みを浮かべ、虚ろな瞳で星野を見つめた。
「私の命は、あなたの手の中にあるのよ」
星野の瞳は、底なしの闇のように暗かった。
ついに、歯の隙間から、いやいやながら言葉を絞り出した。
「……お前の勝ちだ!」
「おばあちゃんをちゃんと世話させて」
私は一歩前へ踏み出した。
「これが、あなたが私を操る最後の切り札だって、分かってるでしょ」
星野はもう怒りを抑えきれず怒鳴った。
「いい加減にしろ!」
彼がそんなふうに怒鳴るなら――
私は容赦なく、先を更に深く喉元に刺した。血が滝のように流れ出した。
星野は、死を覚悟した私を見つめ、心臓がきしむほど痛んだ。
彼は仕方なく怒りを押し殺し、歯をぎりぎりと噛みしめながら譲歩した。
「分かった、今すぐ人を呼んで彼女を部屋に戻し、医者に診せる」
そして、視線が私の手の鉄錐に落ちる。
「今、下ろせるか?」
私は手の錐を「ガシャン」と床に投げ捨てた。
星野はすぐに近づいてきて、血まみれの私の首をぐっと掴んだ。
「よくも俺を脅したな」
私は星野ににっこり微笑み、挑発的に見つめ返した。
「だって、あなたは私が死ぬのを惜しんでるんでしょ?」
星野は全身を震わせ、錐を思い切り蹴飛ばした。
「それなら見せてもらおうか。今度はどうやって俺を脅すつもりだ」
私は自ら星野に近づき、赤い唇をわずかに開いた。
「人間が死にたいと思えば、方法なんていくらでもあるわ。あなたに止められる?」
星野は腹の虫が収まらなかった。
本来なら、あの憎たらしい女を懲らしめるためだった!
思い知らせてやるために!
もう二度と逃げ出さないように!
なのに、なぜこんな展開になってしまったのか?
逆に、彼が首を絞められる側になっている!
でも――彼は、どうしても……彼女を死なせたくなかった!!!
星野の怒りは、ひと目でわかった。
私の目にはどこか虚ろで諦めの色が滲み、さっきまでの激しさは鳴りを潜めていた。
「私に操られたくないなら、簡単よ。私を――殺せばいいじゃない!」
星野は私の「死の覚悟」を確実に感じ取った。
赤く血走った目で、私の絶望に染まった生気のない瞳を見つめる。
「俺は言ったよな。お前を一生、俺のそばに置くって」
私は虚ろな目を上げた。
「だから、今お願いがあるのはあなたの方でしょ?私が死んだら、あなたのその拷問手段、今度は誰に使うつもり?」
星野は真っ青な顔で私を力強く突き飛ばし、地下室を大股で出ていった。
彼の後ろ姿が完全に消えた後、私の目の中の絶望も、少しずつ消えていった。
これで、「弱くて無力で、ただ死を願う」キャラ作りは、星野の前で通じるようになったはずだ。
私は苦々しく口元を押さえ、低くつぶやいた。
「やっぱり、前の分析は間違ってなかった……」
星野は、私を死なせたくない!!!
だから、今の私は、自分の命という切り札を手にしている。
まさか、「命を賭けた脅し」という一発逆転の必殺技を、星野宅に戻ってたった三十分で使うことになるなんて。
星野侑二という悪魔と渡り合うには、一手一手が命がけだ。
足が震え、私は文乃の体にすがりつき、涙が溢れて止まらなかった。
たとえ切り札を早々に使ってしまったとしても、私は、ようやくおばあちゃんを守りきったのだ!
―――
星野は、本当に私が自殺するのを恐れているようだ。
数分もしないうちに、手下に文乃を地下室から運び出させ、部屋に戻し、医者も呼んだ。
夜になって、ようやく文乃は目を覚ました。
私を見た途端、彼女は私を抱きしめ、優しさと自責の念にあふれる声で言った。
「麻奈、ごめんね、全部おばあちゃんのせいだよ……」
私は声もなく涙を流した。
本当は、文乃は自分の身を顧みず、命がけで私を助けようとしてくれたのに。
こんなことになって、自分のせいだなんて思ってしまうなんて。
胸が締めつけられるように苦しかった。
「おばあちゃん、私のせいで、こんなことに……」
文乃は血の気のない顔で、目には沈痛の色が浮かんでいた。
「本当に分からない……たった一人の小林ひるみのために……どうして侑二はあんなにも狂ったように、あなたを執拗に追い詰めるの……」
私は苦く笑った。
「たぶん、彼女への愛が深すぎたかな」
文乃の顔色はますます悪くなり、心配でたまらない様子だった。
「うち星野家、どうしてこんな変態が生まれてしまったのかしら……」
私はずっと、星野侑二のことを知り尽くしているつもりだった。
でも、出所して再会した彼は――
全く知らない人間のように感じた。
あるいは、小林ひるみの死が、彼の心の奥底に隠された悪魔を解き放ったのかもしれない。
私は文乃を見つめ、安心させるように言った。
「おばあちゃん、心配しないで。私には、ちゃんと計画があるから」
文乃は慌てて私の手を握った。
「麻奈、あなた、何をするつもりなの?」
私は彼女の手を自分の頬に当てた。
「もう、彼によって死んだ人が多すぎるわ。そろそろ決着をつけないと」
文乃は不安そうに案じた。
「絶対に無茶しないで」
私はちょっと顎を上げて見せた。
「おばあちゃん、忘れたの?私は宮崎麻奈よ!神川県一の令嬢、宮崎麻奈!」
この神川県一の令嬢は、ただの家柄や美貌だけじゃない。頭も必要だった。
昔の私は星野侑二しか見えていなくて、自分を愚かな恋愛脳にしてしまった。
でも今、私の頭の中にあるのは――
復讐!!!
私は文乃をなだめ、文乃が休んでから部屋を出た。
自分の命を賭けて脅したことで、一時的に文乃の危機は去ったが……
星野がまたいつ気が狂って、文乃を虐待して私を精神的に追い詰めるか分からない。
今度こそ、絶対に星野がもう二度とおばあちゃんに手を出せないようにしなければ。
私は別館を出て、小道を通って本館へ向かった。
歩みを進めると――
以前の星野宅の使用人たちは、私に対して警戒心を抱いていたが、今や私を見た途端、恐怖の表情に変わり、みな一目散に逃げていった。
でも、分からなくもない。
前は草壁蛍が死に、今度は蘭さんが私のせいで死に、文乃おばあちゃんまで私のために苦しんだ。
私はまるで、死神みたいだ。
私の近くにいる人は、死ぬか傷つくか、誰も無事じゃない……
それなのに、どうして星野侑二だけには、私の不幸が効かないのか?
まあ、私を避ける人もいれば、わざわざ寄ってくる人もいる。
私の前に立ちはだかった男を見て、私は自然と目を細めた。
――ブラックリストの人物だ。