今回、再び星野宅へ戻る前に、
まず最初に「弱くて無力で、死だけを望む女」というキャラを設定しただけでなく、秋山さんと一緒にブラックリストを作った。
そこに載っている人物は、私たちの復讐にとって不利な者であり、必ず始末しなければならない!
星野家の執事、楠井海もその一人だ。
実は、楠井海はこの数日間、生きた心地がしなかった。
どうしても私の行方が掴めず、毎日星野侑二に無能だと叱られていたのだ。
そんな中、私が秋山陽一に連れ戻されてきた……。
それは楠井海にとって、まさに「バチン!」と顔を叩かれたに等しい屈辱だった。
楠井は私の行く手を塞ぎ、皮肉たっぷりに言った。
「宮崎様、せっかく必死に逃げ出したんじゃなかったんですか?どうしてまた戻ってきたんですか?」
目の前の男がわざと嫌味を言いに来たのだとすぐに見抜いた。
以前なら、耐えられるだけ耐えるつもりだった。
けれど今は……
私はゆっくりと彼を見上げ、彼の心を刺すように言い放った。
「秋山さんは、あなたよりずっと有能ですよ。あなたには私を捕まえることができなかったのに、彼なら簡単に私を連れ戻せるんですから。」
星野侑二の両親がご存命の頃から、楠井は秋山をライバル視していた。
五年以上前、やっとの思いで秋山から星野宅の執事の座を奪い、人を追い出したのに……。
今、秋山が帰ってきただけで、自分の輝きは消えてしまった。
楠井は、納得できなかった!
楠井は怒りで顔を真っ赤にして、「何を偉そうに……今回星野社長が絶対にお前を許さないぞ。せいぜい死を待つんだな!」と吐き捨てた。
私はゆったりと楠井に近づいた。
「私の末路を心配するより、自分がこの執事の座にあと何日座っていられるか、よく考えたほうがいいんじゃないですか?」
楠井は一瞬呆気に取られ、それから何かに気付いたように私の鼻先を指さした。
「お前、秋山と結託したな?」
私は軽く眉を上げてみせた。
「星野宅の執事が私の味方になったら、あなたはどうやって私と争うつもり?あなたの後ろ盾も、私に勝てると思う?」
楠井海は典型的なご都合主義者だ。
以前は小林ひるみに媚を売り、小林ひるみが死ぬと、すぐに妹の小林夜江に乗り換えた。
未来の「女主人」にうまく取り入れば、自分も人生の頂点に立てると思い込んでいたのだ。
私のちょっとした挑発で、楠井の怒りは頂点に達した。
彼は私の襟首をつかみ、怒鳴りつけた。
「俺は星野宅で六年も執事の権力を握ってきたんだ。お前らに俺の座が脅かせると思ってるのか?」
「あなたが執事をやってる間、ずっと不正して私腹を肥やしていたこと、私が知らないとでも?」
私はさらに楠井を煽った。
「私ね、これから星野侑二に会いに行くのは、その証拠を渡すためなんだよ!」
楠井はついに動揺し、私に向かって「証拠をよこせ!!」と叫びながら詰め寄った。
私は大声に痛む耳を揉みながら、にこやかに断った。
「その証拠で、秋山にあなたの死体を踏み台にさせてあげるつもりなのに、どうして渡すと思うかしら?」
楠井の目に、強い不安が走る。
万が一、星野社長にそれらの悪事がばれたら、本当に命はない。
やっとたどり着いた今の地位を、そう簡単に失うものか!
楠井の目が殺気を帯びた。
彼は私の首を強く締め上げ、鬼のような形相で私を地面に押し倒した。
「どうせ星野社長もお前に死んでほしいと思ってるんだ。だったら俺が先に手を下してやる!」
そうだ!
この女さえいなくなれば、すべては計画通りだ。
誰にも俺の執事の座は奪えない。
小林夜江が星野家の女主人になる。
俺はまた、星野社長以外に、誰よりも偉い執事でいられる。
楠井はますます狂気に駆られ、締める手に力が入る。
もう少しで首が折れる――というとき……
遠くから怒号が響いた。
「楠井、何をしている!」
楠井はその声を聞き、条件反射で振り返った。
そこには星野侑二が、まるで今にも彼を八つ裂きにしそうな怒りの表情で立っていた。
彼はおののきながらも星野に駆け寄った。
「星野社長、私、私は……この女がまた逃げようとしていたので、ちょっと懲らしめようと……!」
だが――
彼が必死に弁解した後、私は地面からよろよろと立ち上がり、涙も声も枯れ果てたふりで泣き出した。
「私があんたの暴行に逆らったから、無理やり……!」
楠井は怒って私を振り返る。
「ふざけるな!俺がそんなこと……!」
だが、私の今の姿を見て彼の言葉は止まった。
私の衣服は乱れ、大きく破れていて、腕には青痣がくっきりと残っている。
いかにも誰かに無理矢理襲われたような悲惨な姿だ。
楠井海は呆然とした。
さっきはただ感情が抑えられず、この女を殺そうとしただけだ。
それ以外は何もしていない。
なのに――どうしてこんなに誤解を招く姿になってるんだ?服まで破れて!
楠井は慌てて星野に訴えた。
「星野社長、私は彼女に触れてもいません!」
私は破れた服を押さえ、涙をこらえながらよろよろと星野の前に歩み寄った。
そして――
彼の頬を思いきり平手打ちし、叫んだ。
「他人に私を虐げさせて、今ここで私を死なせたいの?」
私は本気で打ったので、星野の頬には真っ赤な手形がくっきりと残った。
星野は、怒りで今にも私を焼き尽くしそうな目を向けてきた。
私は人を凍えさせるその氷のような視線の中、虚ろな目で、小道の脇にある石碑に頭から突っ込もうとした。
星野の瞳孔がぎゅっと縮まった。
彼はまさか、私がまた死のうとするなんて思ってもいなかった!
私はもうすぐ頭を打ちつける――その瞬間、
星野が駆け寄り、私の腰をしっかり抱き寄せ、怒鳴った。
「お前、気が狂ったのか!」
私は彼の腕の中で号泣した。
「お前なんか悪魔だ!もう私を苦しめないで!もう生きたくないの!お願いだから殺してよ!」
星野は私を強く抱きしめた。
「もういい!」
私はその叫びで動きを止めた。
星野はしばし沈黙し、冷たい目で楠井を見据えた。
そして――
いきなり一蹴り、楠井を華麗に蹴り飛ばした。
私は楠井が転がるのを見て、思わず口角が上がった。
星野侑二の私への独占欲は、異常なまでに強い。
他人に私を苦しめるのは許せても、私の体に触れられるのは絶対に許さない。
ましてや、私が自殺未遂まで演じてみせたのだ。
楠井は胸を押さえて苦しみながら、
「星野社長、私は……私ははめられたんです……」と訴えた。
負けじと、私は涙を流しながら、ボロボロの姿で星野を見上げた。
「私は今、両親の喪に服していると言ったはずだ!あなたに触れられたら死ぬつもりだというのに……」
私はそう悲しそうに言い終わって、次に楠井を見やった。
「じゃあつまり、私があなたと何の恨みもないのに、自分の潔白を犠牲にして、たかが一人の執事を陥れるとでも言うんですか?」
楠井は、私の演技力に驚愕した。
彼は必死に星野の前に這い寄り、私を指差しながら訴えた。
「星野社長、さっきこの女は私に白状しました。秋山と前からグルで、私を追い出して秋山を執事にするつもりだって!」
星野は楠井の話を聞いて、ますます顔色を曇らせる。
さらにもう一発、激しく楠井を蹴りつけた。
楠井は血を吐きながら、それでも言い続けた。
「星野社長、だまされないでください!全部あいつらの陰謀なんです!」
ずっと遠くで黙っていた秋山が、この時初めてゆっくり近づいてきた。
「私は先ほど、若旦那に挨拶を済ませ、これからまた島に戻って余生を過ごすつもりでしたが……」