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第55話 計略


今回、再び星野宅へ戻る前に、

まず最初に「弱くて無力で、死だけを望む女」というキャラを設定しただけでなく、秋山さんと一緒にブラックリストを作った。

そこに載っている人物は、私たちの復讐にとって不利な者であり、必ず始末しなければならない!

星野家の執事、楠井海もその一人だ。


実は、楠井海はこの数日間、生きた心地がしなかった。

どうしても私の行方が掴めず、毎日星野侑二に無能だと叱られていたのだ。

そんな中、私が秋山陽一に連れ戻されてきた……。

それは楠井海にとって、まさに「バチン!」と顔を叩かれたに等しい屈辱だった。


楠井は私の行く手を塞ぎ、皮肉たっぷりに言った。

「宮崎様、せっかく必死に逃げ出したんじゃなかったんですか?どうしてまた戻ってきたんですか?」


目の前の男がわざと嫌味を言いに来たのだとすぐに見抜いた。

以前なら、耐えられるだけ耐えるつもりだった。

けれど今は……


私はゆっくりと彼を見上げ、彼の心を刺すように言い放った。

「秋山さんは、あなたよりずっと有能ですよ。あなたには私を捕まえることができなかったのに、彼なら簡単に私を連れ戻せるんですから。」


星野侑二の両親がご存命の頃から、楠井は秋山をライバル視していた。

五年以上前、やっとの思いで秋山から星野宅の執事の座を奪い、人を追い出したのに……。

今、秋山が帰ってきただけで、自分の輝きは消えてしまった。

楠井は、納得できなかった!


楠井は怒りで顔を真っ赤にして、「何を偉そうに……今回星野社長が絶対にお前を許さないぞ。せいぜい死を待つんだな!」と吐き捨てた。


私はゆったりと楠井に近づいた。

「私の末路を心配するより、自分がこの執事の座にあと何日座っていられるか、よく考えたほうがいいんじゃないですか?」


楠井は一瞬呆気に取られ、それから何かに気付いたように私の鼻先を指さした。

「お前、秋山と結託したな?」


私は軽く眉を上げてみせた。

「星野宅の執事が私の味方になったら、あなたはどうやって私と争うつもり?あなたの後ろ盾も、私に勝てると思う?」


楠井海は典型的なご都合主義者だ。

以前は小林ひるみに媚を売り、小林ひるみが死ぬと、すぐに妹の小林夜江に乗り換えた。

未来の「女主人」にうまく取り入れば、自分も人生の頂点に立てると思い込んでいたのだ。


私のちょっとした挑発で、楠井の怒りは頂点に達した。

彼は私の襟首をつかみ、怒鳴りつけた。

「俺は星野宅で六年も執事の権力を握ってきたんだ。お前らに俺の座が脅かせると思ってるのか?」


「あなたが執事をやってる間、ずっと不正して私腹を肥やしていたこと、私が知らないとでも?」

私はさらに楠井を煽った。

「私ね、これから星野侑二に会いに行くのは、その証拠を渡すためなんだよ!」


楠井はついに動揺し、私に向かって「証拠をよこせ!!」と叫びながら詰め寄った。


私は大声に痛む耳を揉みながら、にこやかに断った。

「その証拠で、秋山にあなたの死体を踏み台にさせてあげるつもりなのに、どうして渡すと思うかしら?」


楠井の目に、強い不安が走る。

万が一、星野社長にそれらの悪事がばれたら、本当に命はない。

やっとたどり着いた今の地位を、そう簡単に失うものか!


楠井の目が殺気を帯びた。

彼は私の首を強く締め上げ、鬼のような形相で私を地面に押し倒した。

「どうせ星野社長もお前に死んでほしいと思ってるんだ。だったら俺が先に手を下してやる!」


そうだ!

この女さえいなくなれば、すべては計画通りだ。

誰にも俺の執事の座は奪えない。

小林夜江が星野家の女主人になる。

俺はまた、星野社長以外に、誰よりも偉い執事でいられる。


楠井はますます狂気に駆られ、締める手に力が入る。

もう少しで首が折れる――というとき……


遠くから怒号が響いた。

「楠井、何をしている!」


楠井はその声を聞き、条件反射で振り返った。

そこには星野侑二が、まるで今にも彼を八つ裂きにしそうな怒りの表情で立っていた。


彼はおののきながらも星野に駆け寄った。

「星野社長、私、私は……この女がまた逃げようとしていたので、ちょっと懲らしめようと……!」


だが――


彼が必死に弁解した後、私は地面からよろよろと立ち上がり、涙も声も枯れ果てたふりで泣き出した。

「私があんたの暴行に逆らったから、無理やり……!」


楠井は怒って私を振り返る。

「ふざけるな!俺がそんなこと……!」


だが、私の今の姿を見て彼の言葉は止まった。

私の衣服は乱れ、大きく破れていて、腕には青痣がくっきりと残っている。

いかにも誰かに無理矢理襲われたような悲惨な姿だ。


楠井海は呆然とした。

さっきはただ感情が抑えられず、この女を殺そうとしただけだ。

それ以外は何もしていない。

なのに――どうしてこんなに誤解を招く姿になってるんだ?服まで破れて!


楠井は慌てて星野に訴えた。

「星野社長、私は彼女に触れてもいません!」


私は破れた服を押さえ、涙をこらえながらよろよろと星野の前に歩み寄った。

そして――

彼の頬を思いきり平手打ちし、叫んだ。

「他人に私を虐げさせて、今ここで私を死なせたいの?」


私は本気で打ったので、星野の頬には真っ赤な手形がくっきりと残った。


星野は、怒りで今にも私を焼き尽くしそうな目を向けてきた。

私は人を凍えさせるその氷のような視線の中、虚ろな目で、小道の脇にある石碑に頭から突っ込もうとした。


星野の瞳孔がぎゅっと縮まった。

彼はまさか、私がまた死のうとするなんて思ってもいなかった!


私はもうすぐ頭を打ちつける――その瞬間、

星野が駆け寄り、私の腰をしっかり抱き寄せ、怒鳴った。

「お前、気が狂ったのか!」


私は彼の腕の中で号泣した。

「お前なんか悪魔だ!もう私を苦しめないで!もう生きたくないの!お願いだから殺してよ!」


星野は私を強く抱きしめた。

「もういい!」


私はその叫びで動きを止めた。


星野はしばし沈黙し、冷たい目で楠井を見据えた。

そして――

いきなり一蹴り、楠井を華麗に蹴り飛ばした。


私は楠井が転がるのを見て、思わず口角が上がった。


星野侑二の私への独占欲は、異常なまでに強い。

他人に私を苦しめるのは許せても、私の体に触れられるのは絶対に許さない。

ましてや、私が自殺未遂まで演じてみせたのだ。


楠井は胸を押さえて苦しみながら、

「星野社長、私は……私ははめられたんです……」と訴えた。


負けじと、私は涙を流しながら、ボロボロの姿で星野を見上げた。

「私は今、両親の喪に服していると言ったはずだ!あなたに触れられたら死ぬつもりだというのに……」


私はそう悲しそうに言い終わって、次に楠井を見やった。

「じゃあつまり、私があなたと何の恨みもないのに、自分の潔白を犠牲にして、たかが一人の執事を陥れるとでも言うんですか?」


楠井は、私の演技力に驚愕した。

彼は必死に星野の前に這い寄り、私を指差しながら訴えた。

「星野社長、さっきこの女は私に白状しました。秋山と前からグルで、私を追い出して秋山を執事にするつもりだって!」


星野は楠井の話を聞いて、ますます顔色を曇らせる。

さらにもう一発、激しく楠井を蹴りつけた。


楠井は血を吐きながら、それでも言い続けた。

「星野社長、だまされないでください!全部あいつらの陰謀なんです!」


ずっと遠くで黙っていた秋山が、この時初めてゆっくり近づいてきた。

「私は先ほど、若旦那に挨拶を済ませ、これからまた島に戻って余生を過ごすつもりでしたが……」


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