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第62話 宿命のライバル


夜の帳が下りた。


私は星野侑二と一緒に、とあるプライベートレストランを訪れた。


一流の料理技術と贅を尽くした貴族的な雰囲気で、上流階級の間では広く知られている。

だから、ただ金さえあれば予約できるというわけではなく、それ相応の深い“背景”が必要なのだ。


星野にとって、背景と金は一番不足していないものだった。


だからこそ、私がスフォルツァ家の友人と連絡を取った後、矢尾翔にこのレストランの予約を頼んだのだ。


レストランに足を踏み入れた瞬間、贅沢な空気が全身を包み込む。


クリスタルシャンデリアが柔らかな光を落とし、大理石の床に幻想的な輝きを映し出す。レストランのレイアウトからカトラリーの細部に至るまで、お金の匂いが漂っている。


まるで……私はご飯を食べに来たのではなく、金を食べに来たのではないか、そんな錯覚さえ覚える。


だけど、まもなく会うことになる人物のことを思うと、私はみるみる顔色が青ざめ、手が震えだした。


星野は私の異変を鋭く察知し、暗い瞳で見つめる。

「どうした?」


声をかけようとしたその時、艶やかな女性の声が響いた。

「宮崎麻奈、足を引きずってるじゃない。これじゃあ首席ソリストの座、私と争えないわね!」


私はレストランの少し離れた場所を見上げた。


赤いベアトップのミニドレスを着た妖艶な女性が、見下すような目で、嘲るように私を見ていた。


彼女の名前はアンナ。


スフォルツァ家の現当主の孫娘だ。


私たちはロイヤルバレエアカデミーの時代から、そしてその後の王立バレエ団でも……ずっとライバル関係だった。いや、もっと厳密に言えば、死闘を繰り広げる宿命の敵だった!


ソリストの座を巡って、アンナは私に幾度となく罠を仕掛けてきた。


もし当時、宮崎家の庇護がなければ、彼女はきっと殺し屋を雇って、私を暗殺していただろう。


けれど、今の私は、かつての宿敵に頼らざるを得ない。


私は太ももをぎゅっと握りしめ、アンナにぎこちない笑みを向けた。

「そんな昔のこと、もう忘れかけてるわ。」


アンナの目が鋭くなった。

「あなたが忘れても、私は一生忘れないわ。」

悔しそうに歯ぎしりしながら鼻で笑う。

「子どもの頃から、私は誰にも負けたことがなかった。あなた以外にはな!」


私は寂しげに目を伏せる。

「でも今は、あなたが私に勝ったじゃない。」


誇り高かったかつての「お姫様」が、今や地に落ちた姿を見て、アンナは勝ち誇ったように笑った。

「そうよ、今のあなたは私に負けた敗者に過ぎないもの。」

彼女は一歩一歩、私に近づいてくる。

「学院の先生たちやバレエ団の先輩たちは、きっとあなたのことを会いたがってるでしょうね。彼らが一番期待していた生徒、最高の後輩を!」


そこまで言うと……


アンナはスマホを取り出し、悪意に満ちた笑みを浮かべた。

「今から彼らにビデオ通話して、あなたの姿を見せてあげる!」


私はその言葉を聞いて、慌てて懇願しながら止めに入った。

「やめて!!」


生きるため、復讐のためなら、私はプライドも自尊心も捨てられる。

でも、私に期待してくれた先生や先輩たちに、今の障害者になった自分の姿だけは、絶対に見せたくなかった……


アンナは冷たく笑う。

「はぁ?それが人に頼む態度?」


私はアンナの嘲笑の中、情けなくゆっくりと膝をついた。

「お願い、ビデオ通話だけはやめて!」


アンナは勝ち誇ったように高笑いし、容赦なく嘲る。

「バレエ団が誇りに思っていた首席宮崎麻奈が、私にひざまずいてる!これは記録しておかなきゃ!」


そして、悪意たっぷりにスマホの録画機能を起動した。

私は慌てて顔を手で隠す。

「撮るのはやめて!」


アンナは止めるどころか、ますます高笑いした。

「撮るだけじゃないわ、私のインスタにもアップしてやる!」


アンナがスマホのカメラを私の顔にぐっと近付けたその時――

今まで冷静に傍観していた星野が、ついに手を伸ばし、アンナのスマホを取り上げた。

「もういい。」


今の彼には、アンナが私の友人ではなく、私を侮辱することが好きな宿敵だということが、はっきり分かった。


スマホを取り上げられたアンナは、星野を上から下まで値踏みし、強い興味を見せた。

「あなたが星野グループの星野社長ね!」


星野は私を床から立ち上がらせ、冷たい眼差しで見つめた。

「これが君の言う友人か?」


私は気まずそうに目を伏せ、何も言えなかった。


そんな私の慌てる様子に、星野侑二の視線は冷たくアンナへと向かった。


アンナは微かに眉を上げ、妖艶な微笑みを浮かべる。

「宮崎から聞いたわ。あなた、私のおじい様と会ってビジネスの話がしたいのでしょう?」


スフォルツァ家の当主は、もう何年も公の場には姿を見せていない。

星野もメディチとの提携を失ってから、スフォルツァ当主と接触するために幾度となく手を尽くしたが……全く成果がなかった。

だからこそ、今回私のルートを使い、イタリアまで足を運んで自ら関係を築こうとしているのだ。


アンナが「ビジネス」と口にしたのを聞き、私は星野の背後からそっと顔を出した。

「星野グループとスフォルツァ家が提携すれば、きっとウィンウィンになるはず。」


アンナは鼻で笑った。

「あなたが口でウィンウィンって言ったら、そうなるの?なんで私があなたたちの橋渡しをしなきゃいけないの?」


「聞いた話だと、あなたのおじい様の体調はどんどん悪くなって、もう長くないらしいね。こんな大事な時期に、外部から強力な助力が得られれば、あなたの一族にとって間違いなくプラスになるのだ。」


今のスフォルツァ家の当主、つまりアンナの祖父は、かなり博愛な人だ。

そのせいで、アンナには十二人もの叔父叔母がいる。

十三番目のアンナの父親は、当主にとても可愛がられているが、上の兄姉たちがもう資源をほとんど奪い取ってしまっている……

だから、アンナの父が当主亡き後に十分な利益を得るには、今は外部の助力を探すしかないのだ。


私は一言でアンナ一族の苦境を突いた。


アンナの艶やかな顔に、一瞬殺気が走る。

「祖父が重病ってこと、知ってる人はほとんどいないのよ。誰から聞いたのかしら?」


この情報が漏れれば、スフォルツァ家傘下の会社も株式も大打撃を受ける。

一日でも隠したいのが家族の本音なのだ。

なのに、なぜ宮崎が知っているのか?


同じく星野も不思議に思ってた。

この情報は、彼でさえ知らなかったのだから!


二人にじっと見つめられた私は、おずおずとアンナに目を向けた。

「一ヶ月前、あなたとリリィがクラブで飲んで、酔いつぶれたことがあったでしょう?」


それ以上は言わなかったが、アンナもすぐに察した。


アンナは怒りに満ちて叫ぶ。

「あのクソ女、私が酔ってる隙に話を聞き出した上、あなたにまで漏らしたのね!」


私はアンナの怒りを無視し、真剣な表情で訴えた。

「私が嫌いでも、今は……利益を最優先すべきじゃない?」


アンナの目は険しく光っていた。

「昔からあなたが嫌いだったけど、今でも大嫌いよ。」

だが、本当にこれだけで自分を思い通りにできると思った?


アンナは感情を抑え、星野の方をじっと見つめ、その瞳に狡猾で危険な閃きを宿した。


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