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第65話 それなら一生騙し通す


私は深山彰人の返事を聞いて、少し顔色が曇った。


「それじゃあ……これからも先輩って呼ぶね。」

しょんぼりと呟いた後、うるうるした目で深山を見つめた。

「じゃあ、あなたがあんなに色々してくれたのも、お兄さんの復讐のため?」


深山は心の中に浮かぶ罪悪感を押し殺して言った。

「そうだよ、宮崎衛は僕の一番の親友だったからな。」


私は疑わしげな顔で、「でも、私は今まで兄さんからあなたのことを聞いたことがないよ?」と尋ねた。


深山は肩をすくめて苦笑した。

「当時君は星野侑二ばかり見てたし、深山家と星野家はずっと敵同士だった。

僕と君の兄の関係なんて、君に話せるわけないだろ?」


たしかに……本当にそうかも!


私はうつむいてぼそっと呟いた。

「きっと、恋愛に夢中で、先輩まで嫌いになって、お兄さんに先輩との距離を置くよう求めるかもしれない……」


深山は今度こそ本当に好奇心が湧いて、ずっと疑問に思ったことを聞いてきた。

「星野の何がそんなに魅力的だったんだ?なんでそこまで追いかけたんだ?」


私が星野侑二を好きになった理由、実はそれはずっと昔のことだった——


幼稚園の時、ある日家族と喧嘩して、こっそり廃倉庫に隠れていたことがある。

でも、運悪く悪ガキたちに見つかって、私が隠れているのを見て、悪ふざけにわざと火をつけたんだ。

あのときの炎の勢いの恐ろさ、今でもはっきり覚えてる――!

濃い煙に息ができなくなった時、星野が危険を顧みずに中へ飛び込んできた。

だから、もし彼がいなかったら、私はもうとっくに火事で死んでいたかもしれない。


それから私は意識的に星野侑二に近づくようになった。

その恩によって、彼の前では私は心の奥底になんとかいつも負い目を感じ、何事も彼を最優先するようになった。

そしてその恩義が、知らず知らずのうちに、習慣のようにしみついて、愛に変わっていった。


でも、今になってよく考えてみると——

彼は一度私を助けてくれたし、私も一度彼を助けた。

実は、私たちはとっくにお互いに借りはないのだ。


でも、今や過去のことはもうあまり話したくない。私はただ淡々と口元を下げて言った。

「多分……昔の私は目が曇ってたのよ。」


深山はそれ以上は聞かず、追及しなかった。本題に戻り、

「君の計画は一見順調に見えるけど、僕は星野がアンナとの縁談を受けないと思う。」


私は納得できずに聞き返した。

「どうしてそう思うの?」


深山はすべてを見透かすような目で分析した。

「昔の星野侑二には選択肢がなかった。でも今は選択肢がたくさんあるんだ。」


私は不思議な顔で追及した。

「彼はスフォルツァ家と協力してイタリア市場を開く以外に、他に方法があるの?」


深山は、私の知らない内部情報を爆弾のように投げてきた。

「最近、メディチ家で権力交代があった。」


「いったいどういうこと?」

これは驚いた!


深山は優雅に立ち上がり、私の隣の席に座り、片腕を私が寄りかかっている椅子の背もたれに軽く回し、詳しく説明してくれた。


「メディチ家はタカ派とハト派に分かれていて、今はハト派が権力を握っている。」

「でも、星野が裏でずっと繋がっていたのは、実はタカ派なんだ。」

「つまり、僕たちは星野に騙されていたってことさ!」

「当時、星野は君を捕まえるためにメディチとの連携のチャンスを逃したんじゃなくて、最初からその協力をわざと捨てたんだよ。」

「今はタカ派がハト派を超えてきてる。きっともうすぐ、メディチ家の主導権が変わるはずだ。」

「だから、後輩ちゃんが飛行機の中で警告した通り、たとえ深山家が今メディチと契約しても、タカ派が台頭したら無効になるかもしれないよ。」


私は深山の話を聞いて、心の中で「ドキッ」とした。

私や小林姉妹より、一番の演技派は、やっぱり星野侑二だ!!!

イタリア市場は、最初から彼の掌の中にあったなんて!

笑っちゃうのは、私がそれを突破口にして彼を罠にはめようとしてたこと!


私は指を震わせながら、自嘲気味に苦笑した。

「自分では何もかも知ってるつもりで、飛行機の中であなたに警告したけど、本当は……あなたの方がよっぽど知ってたのね!」


深山は私の額を優しく撫でてくれた。

「でも、君の善意はちゃんと伝わってきたよ、後輩ちゃん。」


私は表情を引き締め、呟いた。

「これじゃあ、私の計画は確かに問題があるわ……」


深山は細めた目で、意味ありげに聞いてきた。

「後輩ちゃんは星野とアンナをどうしても結びつけたいの?」


「うん!」

私は即答した。


深山はしばらく黙って考え、ふいに「君はジョイスのこと、どれくらい知ってる?」と尋ねた。


五年以上前、ジョイスがしつこく私に迫ってきたとき、私は彼の身元を調べたことがある。

「彼はオスクーロ会の人間で、今はコアメンバーのはず。」


深山はうなずき、肯定した。

「そう、彼は今オスクーロのNo.2だ。」


私は驚かずにはいられなかった。

「どうしてそんなに早く出世できたの?」


普通、こういうマフィアの首脳って、みんな修羅場をくぐって順番に昇進するものだ。

ジョイスは30にも満たないのに、こんなに早くのし上がれるものか?


私ははっと気づいた。

「彼のバックはかなり有力なんでしょ?」


「彼の母親はオスクーロの前首領の娘なんだ。」

深山は少し言葉を切って、意味深に私を見つめた。

「そして父親は、今のメディチ家タカ派の代表、エリクソンだ。」


そうか……


もう今となっては、自分の運が良くなったのか、星野の運がここで尽きたのか、分からなくなってきた!!!


私は再びコーヒーを手に取った。

「先輩、またあなたに頼み事ができたみたい。」


―――


数分後、深山はカフェから出てきた。

彼は横を向き、ガラス越しにカフェの中の麻奈を見やった。

「後輩ちゃん、だんだん騙されづらくなってきたな……」


深山は指でスマホを何度かスライドし、さっき後輩ちゃんに見せたメッセージを確認して、口元を上げた。

「予め用意しててよかった。」


もし用意してなかったら、後輩ちゃんは彼の前後の話の矛盾から、すぐに自分が騙されてることに気づいて、きっと彼に警戒心を持つだろう。

でも、偽造した一通のメッセージで、後輩ちゃんはまた彼を信じて疑わなくなった。

さらには、彼を兄の代わりだとまで思っている始末!


青野千里が後ろから現れて、小声で呟いた。

「深山さま、宮崎様にバレるのが怖くないんですか?」


深山は意地の悪い笑みを浮かべた。

「なんだ、お前は宮崎衛を地獄から引っ張り出して、俺と対質させるつもりか?」


青野は黙り込んだ。

そうだ、今や死者は喋れない。ボスがいくら宮崎さんを騙してても、どうしようもない!


深山はざわざわした心を落ち着かせながら、一語一語低く呟いた。

「それに、一生騙し通せば、それはもう嘘じゃないだろう。」


青野「……」


やっぱり、ボスはすごい!

青野は小さくため息をついた。

「ボス、どうしてずっと宮崎様を見張ってるんですか?」


「彼女は星野侑二の弱点だからな。」

深山は悠然とスマホをしまいながら言った。

「だから、後輩ちゃんと協力して星野に致命的な一撃を与え、彼の背後に潜む鼠を炙り出すのさ。」


青野はさっきまで疑問に思っていた。

どうしてボスは雅が命懸けで集めたメディチ家の内部情報を、そのまますべて宮崎さんに渡したのか。

やっぱり、これも計算のうちだったんだ!


青野は顔を引き締めて言った。

「でも、あの人たちは何年も隠れてきたんです、そう簡単には姿を現さないでしょう。」


深山の目には殺気がよぎった。

「星野侑二に何かあれば、奴らが出てこないはずがない!」


星野は、やつらが何度も選び抜いた後継者だからだ!


―――


運命を信じている人もいる。


二人の出会いは、神様が自分に示した導きだと思う人も。


例えばジョイス。


運命の導きのまま、カフェの前を通りかかった時、足元から血を流し、靴も履かず、みじめに道端の片隅に立っている私を見つけて——


ジョイスは急ブレーキでスポーツカーを止め、車を飛び出してきて、私の前に駆け寄った。

「麻奈ちゃん、誰にこんなひどい目に遭わされたの!」


私はジョイスを見て、慌てて後ずさった。

しかし、体のバランスを崩した。

そのまま倒れそうになった瞬間、ジョイスが素早く私の腰を抱き寄せ、腕の中に引き寄せた。

「とりあえず病院に連れて行くよ。」


ジョイスが私をスポーツカーのところまで抱えていった時、背後から冷たい声が響いた——


「君たち、何をしている!」


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