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第67話 彼女は妊娠していた


ソフィアはオスクーロの前首領の娘であり、今やオスクーロのトップだ。

彼女が最も溺愛しているのは、ただ一人の息子、ジョイス!

しかし、今夜、そのジョイスが星野侑二に無残な姿にまで叩きのめされた!

この恨み、絶対に晴らさなければならない!


ソフィアの両目は血走り、精巧な拳銃を取り出し、素早く星野の頭に向けて構えた。

矢尾翔はひどく怯えていてるが、星野の前に立ちはだかった。

「きっと誤解があるんです、星野社長があなたの……」

矢尾の言葉は最後まで届かない。


ソフィアは一切のためらいもなく引き金を引いた。

「バン!」という音と共に、弾丸が矢尾の腕を貫いた。

矢尾は呻き声を漏らし、激しい痛みに腕を押さえながらその場に崩れ落ちた。


星野の瞳は氷のように冷たい。ソフィアが銃口を向けていることなど意に介さず、重々しく威圧的な足取りで彼女へと歩み寄る。

「オスクーロを潰されたくなければ、今すぐ出て行け!」


近年、各国はマフィアのような犯罪組織を厳しく取り締まっている。

今なお倒れずにいるマフィアは、数えるほどしかない。その中の一つがオスクーロだ。

だが、もしオスクーロがイタリアへビジネス提携しに来た星野グループの社長を殺害したとなれば、国際問題になる。

イタリア政府は絶対に黙って見逃しはしない、必ず根絶やしにされるだろう!


ソフィアは刺激された野獣のようになりふり構わず叫ぶ。

「オスクーロを犠牲にしてもいい!あんたを殺してやるわ!!」


星野はソフィアの怒りと覚悟を見誤った。

それでも、彼は微動だにせず、睨み合いを続ける。

「やれるものなら、やってみろ!」


両者の緊張が極限に達し、膠着状態が続くなか……

突然、さらに一隊の人間が現れた。


先頭に立つのは、星野も知る人物。

メディチ家のタカ派のトップ、エリクソンとその部下たちだ。

星野は少々驚いた。

自分はエリクソンに連絡していないはずなのに、どうしてこんなに早く来たのか?


エリクソンは部屋に入るなり、素早くソフィアの前に進み、彼女の手から銃を奪おうとした。

「もうやめろ!」


だがソフィアは発狂した獣のように、エリクソンが銃に触れた次の瞬間、彼の後ろにいた部下の足を撃った。

部下の悲鳴が響く中、ソフィアはエリクソンに向かって怒鳴る。

「わかってる?私たちの息子が、あと少しで殺されそうだったのよ!」


エリクソンはできるだけ宥めるように言う。

「星野社長は俺の協力者だ」

ソフィアは顔を歪め、大声で問い詰める。

「ジョイスはあなたの唯一の息子でしょう!協力者と息子、どっちが大事なの!」


エリクソンの顔は青ざめ、ソフィアを睨みつける。その瞳には明らかな葛藤が浮かぶ。

ソフィアはさらに態度を明確にした。

「今日は、オスクーロを失ってもいい。息子のために必ず復讐する!たとえあなただろうと、邪魔はさせない!」


エリクソンはソフィアの狂気じみた姿に、彼自身ですら恐れを感じた。

この一触即発の女、どうしていつもみんなを道連れにしようとするんだ!

こうなったら、もう彼女を説得できないだろう。


そこで、エリクソンは星野の方へ向き直る。

「なぜこのイカレ女を怒らせたんだ!ジョイスは彼女の命そのものだぞ!」


今の事態は、星野の予想をも超えていた。

まさかジョイスにあんな狂った母親がいるとは思わなかった。

さらに、彼がエリクソンの一人息子だったとは!


だが、エリクソンがここに現れたからには、両者の協力関係を壊したくないはずだ。

なら、今一番厄介なのは、ソフィアがどうしても引き下がる気がないということだ。


この張り詰めた空気の中で、星野はソフィアを睨みつけ、低い声で問う。

「どうやったら気が済む?」


ソフィアは一歩一歩、星野の前まで歩み寄り、目に毒々しい光を宿す。

「私だって理不尽な人間じゃない。部下から聞いた話じゃ、今回の原因はある女のせいだとか。その女を引き渡しなさい。そしたらこれ以上は追及しないわ」


星野は即座に拒絶した。「不可能だ!」


ソフィアの目が凶悪に光る。矢尾のもう片方の腕に向かって「バン!」ともう一発。

冷たい笑みを浮かべて、「星野社長が承諾しないなら、次はどこに撃つかわからないわよ!」


これは明確な脅し。あからさまな威嚇だ。

そして今、ソフィアの態度ははっきりしている。

彼女はオスクーロの命運などどうでもよく、ただジョイスのためにメンツを取り戻したいだけ。


もし宮崎麻奈を連れて行かせれば、それは星野侑二の面子を潰すことになる。

この復讐で、彼女も一応は溜飲を下げるのだろう。


エリクソンは眉をひそめ、一語一語区切って星野に念を押す。

「たかが一人の女だ!俺たちの計画を邪魔するな。そうなれば、君は星野グループの罪人だ」


誰もが、星野侑二がメディチ家と協力したがっているのはイタリア市場進出のためだと思っている。

違う!

それは星野が流した目くらましだ。

彼らには他に、五年間も密かに準備してきた計画がある。あと一ヶ月でハト派が退陣し、エリクソンがメディチ家の家主になれば、すぐに計画を実行するつもりなのだ!


この連携の第一歩はイタリア市場の開拓だが、最終目標はヨーロッパ全土だ。

それは星野グループの未来に関わる案件であり、グローバルなビジネス帝国へと成長するための鍵でもある。


星野は長い沈黙に沈んだ。

たかが一人の女だ。

しかも、何度も自分を騙した女である。

捨てたとして、何だというのか?


ついに星野は寝室の方へ歩いていき、ドアを開けた。


外の騒ぎがこれほど大きいのだ、私はとっくに何が起こったのか分かっていた。

本来はジョイスを利用して星野とエリクソンの仲を裂こうと思っていたのに、

まさか最後の最後で、ソフィアが矛先を私に向けるとは!


しかも今の星野の態度を見ると、エリクソンとの協力のために、私を容赦なく捨てようとしている。


星野は寝室で縮こまっている私を見つめ、腕を掴んで私を部屋から引きずり出した。

リビングに出ると、私はまず血溜まりに倒れた矢尾が目に入った。


最近、私はようやく星野のもとで自分の身を守る方法を見つけたというのに、

ソフィアのような殺人もいとわぬマフィアに連れて行かれたら、きっと命はないだろう。


私は全身を震わせ、目に涙を浮かべて星野に何度も懇願した。

「私はあなたの妻よ。それでも、私を彼らに差し出すの?」


星野の目は氷のように冷たく、温情のかけらもなかった。

「ソフィア夫人がきっとよくしてくれるさ」


ソフィアは私の前に来て、銃で私の顎を軽く持ち上げ、歪んだ笑みを浮かべた。

「安心して。私は……ちゃんと、しっかり、面倒みてやるから」


その一言一言に、殺気が満ちている。

これは、私を殺す気だ!!!


次の瞬間――

「バン」という鈍い音が響き、弾丸が私の腕にまっすぐ撃ち込まれた。

強烈な衝撃で体が思わず後ろによろめき、続いて骨の奥まで何百本もの針が突き刺さるような激痛が襲ってくる。

私は耐えきれず、悲鳴を上げた。


ソフィアは愉快そうに口元を歪める。

「ごめんね、暴発しちゃった!」


私は血だらけの腕を押さえ、ソフィアを一瞥し、そして星野の方を向いた。

彼のポーカーフェイスには、もはや何の惜しみもない。


私は痛みに耐えながら、ゆっくりとお腹を撫で、苦笑した。

「ありがとう、またひとつ勉強になったわ」


私は、星野は簡単には私を死なせないと思っていた。

だが、今になって分かった。

それはただ、彼を動かせる取引材料が足りなかっただけだと――!


ソフィアは部下に目配せした。

「さっさとこの女を連れて行きなさい!」


黒服の男が二人近寄って、私を連れて行こうとする。

私は力いっぱい彼らを振りほどき、まだ血が止まらぬ腕を押さえながら、強情に頭を上げた。

「大丈夫!自分で歩ける!」


ソフィアに連れられ去った後、エリクソンは目を細める。

「計画に変更なし。俺がメディチ家主になったら、すぐに計画を始めよう」


―――


オスクーロとメディチの人間が皆去った。

残されたのは星野と、床に倒れた矢尾だけだった。


星野は沈鬱な表情で再びソファに腰を下ろし、無意識に両手を強く握りしめ、手の甲の血管が浮き上がる。

あの女は今まで何度も自分を騙した!

今、彼女を使って星野グループの未来を手に入れるのは、十分に見合う取引だ!!!


その時、星野のイタリア訪問のため雇った専属運転手が、おずおずと部屋に入ってきた。

「もう救急車を呼びました。矢尾秘書、もう少し頑張ってください」


そう言った直後、彼の携帯が鳴った。

電話の向こうで何を言われたのか、彼は苛立ち声で答えた。

「HCGが下がったって?俺に言われても困るよ、医者に薬を出してもらえ!」


運転手は不機嫌そうに電話を切った。

ところが、地面に横たわり、今にも死にそうな矢尾がふと思い出したように、力を振り絞って言った。

「宮崎様のHCGが、ものすごく高いんですけど、これってどんな病気ですか?」


運転手はすぐに答えた。

「妊娠していたら、HCGは高くなりますよ。」


星野は雷に打たれたようにソファから立ち上がり、両手が止めようもなく震えた。

「今、何て言った?妊娠?!」


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