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第70話 彼女を愛してしまった


星野侑二は、最速でホテルを出発し、ソフィアを追いかけていた。


その間にも、各交差点から大型SUVが次々と疾走してきて、徐々に星野の車の後ろに集結していく。

これらのSUVの車体には、金糸で縁取られたディヴィーナのマークが貼られている。


地元の人々は皆知っている。これは「ディヴィーナ」と呼ばれるマフィア組織、イタリアで規模が最も大きいマフィアだと。

だが、この巨大なマフィア組織の背後には、イタリア国内の力ではなく、国外勢力が潜んでいる。

ディヴィーナの首脳ジェイムズは、その背後については一切を語らず、誰にも明かさなかった。


いまだに、ディヴィーナの裏側を探り当てた者はいない。

そして今夜、この静かで巨大なマフィアは、ひとつの指令を受け取った。

彼らは星野侑二のために、総力を挙げた!


こうして、ディヴィーナ所属の無数のSUVが星野の車に追いつくと、今度は彼のために道を切り開き始めた。

しかし、まだオスクーロ会の連中に追いつく前に、前方の道はすでに封鎖されていた。


しばらくして、ジェイムズが情報を持って星野の車の横にやってきた。

「宮崎麻奈様がソフィアを拉致した!」


星野侑二の心臓が喉元まで跳ね上がる。

もし麻奈が大人しくソフィアと一緒にオスクーロ会の本部へ行くなら、拷問は避けられなくとも、ソフィアはすぐに命を奪うことはないだろう。

そうすれば、彼は人を率いて救出に向かう時間ができる。


だが、彼女はソフィアを拉致し、逃げ出そうとした。

あれほど多くのオスクーロのメンバーの目の前で、逃げ切れるはずがない。

逃げ切れないどころか、ソフィアを刺激することになる。


つまり……

ソフィアは激怒のあまり、麻奈をその場で殺すかもしれない。


星野はほとんど叫びにも似た声でジェイムズに命令した。

「すぐに追え!どんな手を使っても、彼女を守り抜け!」

そして、目を血走らせてさらに言い足した。

「彼女が死んだら、お前たちも死ぬ!」


ジェイムズは、先ほど受けた命令を思い出す。


あの方からただ一言『これからディヴィーナは主・星野侑二のものだ』とだけ言われた。


実際、星野はそれまで言う必要すらなかった。

ジェイムズは誰よりも分かっている。新たなボスが最初に命じたことを果たせなければ、自分は捨て駒となる。

自分も、組織も、待つのは死だ!


ディヴィーナのメンバーは、最速で前方の混雑現場に到着した。

だが、すでに銃声が響き、人が倒れていた……


ディヴィーナの者たちは瞬時に狂乱状態に陥った!

オスクーロ会の連中が宮崎麻奈に発砲した。それは自分たちを射殺したも同然だ!


激しい銃撃戦が始まった。

銃弾が飛び交い、火花が散る。


後になって、多くのネットユーザーは命知らずの見物人がコッソリ撮影した現場のビデオを見て、ディヴィーナが狂ったように戦う姿を目にした……


多くのコメントがこうだった。

「オスクーロ会ってやつは、ディヴィーナ全員のご先祖のお墓でも掘ったのか?!」

「そうじゃなきゃ、なんであそこまで命懸けで戦うんだ?」

……


この死闘は、ディヴィーナの狂気によって、あっという間に終わった。

そのため、星野の車が到着したとき、オスクーロ会の者はほとんど残っていなかった。


周囲の空気には、緊張と血の匂いが満ちている。

星野はそんなことなど気にも留めず、車から飛び降りると、倒れている私の元へと駆け寄った。

その時の私は、すでに血の海の中で昏倒していた。腕や脚から絶え間なく血が流れ、地面を染めて大きな暗紅色の血溜まりとなっていた。


星野はその光景を見て……

ただ頭が「ガン」と炸裂し、胸が引き裂かれるような痛みで呼吸ができなくなった。

彼はゆっくりとしゃがみ込み、私の頬をそっと撫でた。


その瞬間……

最近ずっと悩み続け、葛藤し、自分でも理解できなかった狂おしい感情に……ついに答えが出た。


彼は、絶対に愛するはずがないと思っていた人を、愛してしまったらしい!!!


だから……

彼女の裏切りは許せない!

他の男と交わることも許せない!

ましてや、彼女が自分を愛さなくなり、離れようとすることなんて絶対に許せない!


ずっと自分をごまかし、彼女を傍に置き続けたのはひるみへの復讐のためだと信じ込もうとしていたが……

違う!

全部違う!


本当の理由は、宮崎麻奈が自分を必要としなくなることが、どうしても受け入れられなかっただけ。

もう、彼女を深く深く愛してしまっていたのだ。

彼女が自分を愛さなくなるなんて、彼女が自分を捨てるなんて、絶対に許せない!!!


星野は、これほど自分の気持ちをはっきりと自覚したことはなかった。

俺は麻奈を愛している、それだけだ!

どれだけ自分に嘘をついても、否定しても……この事実は変わらない。


だけど……

なぜ、何度も間違いを犯し、もう取り返しがつかなくなってからでしか、本当の気持ちに向き合えないのか!!!


悔しさと暗い絶望が、星野を深く飲み込んだ。

彼は私を強く抱きしめ、涙を流し続けた。

「俺が悪かった……麻奈……今すぐ病院へ連れて行く……全部俺が悪い……」


そう呟きながら、よろよろと私を抱き上げ、少し離れたところにいるジェイムズに怒鳴った。

「すぐに道を開けろ!病院へ行くんだ!」

俺の麻奈を、絶対に死なせてはいけない!!!


こうして……

ディヴィーナの専用SUVが道を切り開き、星野は私を病院へと運んだ。


医者が私を救急室へ運び込もうとしたとき、星野は医者の腕を掴み、これまでにないほどの真摯と懇願の声で言った。

「お願いします、どうか彼女を救ってください!」

医者は苦しげにうなずき、「全力を尽くします!」と約束し、私を素早く救急室へ運び入れた。


星野は救急室の扉に点滅するランプをじっと見つめていた。

あの眩しい赤色は、まるで地獄からの死の予告のようだった……


彼は悲しみに拳をしめつけ、廊下の壁を殴りつけ、声にならない叫びをあげた。

「麻奈、俺から離れないでくれ!!!」


もし、彼女まで自分を捨てたら。

本当にもう、自分の周りには誰もいなくなる。


星野の脳裏には、最近私と過ごした日々がゆっくりと蘇る。

だが、そこに美しい思い出は一つもなかった。

あるのは苦しみ、痛み、虐待――


どの場面も惨たらしい光景ばかりで、鋭いナイフのように彼の心臓を貫いた。

この間、自分は一体何をしてきたのか!!!


星野は無限の後悔の中で、かつて私に刺された胸元が、熱くなっていくのをかすかに感じた。


自分の胸元に視線を落とした、

次の瞬間……

星野は手を伸ばし、胸元を激しく掴んだ。

ほんの数秒で、治ったはずの傷口が裂け、血が滲みシャツを染め、裾からじわじわと滴り落ちる。


だが、この痛みですら、彼の後悔を癒すことはなかった。

取り返しのつかない苦しみが、彼を完全に飲み込んでいく。

ついに、気血が逆流し――

星野は突然腰を折り、真っ赤な血を「ゴホッ」と吹き出した。


それは床に広がり、目を奪うほど鮮烈な血の花を咲かせた。

まるで、この壊れきった愛への最後の挽歌を奏でるかのように。

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