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第71話 ありがとう、もう一度チャンスをくれて


ジェイムズは、ボス・星野侑二が血を流し、吐血している様子を見て、すっかり怖くなってしまった。


彼の直属の上司は、星野を「主」と呼んでいるのだ!

つまり、星野は「ディヴィーナ」の現在の主人であるだけでなく、

将来的には、自分たち直属の上司の主となるかもしれないということだ!


こんな大物が自分の管轄で問題を起こしていいはずがない!

絶対にダメだ!


ジェイムズは焦りに焦り、近くの医者をつかまえて、

「早く、星野社長を治療しろ!」


ディヴィーナの首領は、イタリアでは子供すら泣き止ませるほどの恐ろしい存在だ。

つかまえられた医者は、ビクビクしながら星野にまず診療室へ移動して治療を受けるようすすめた。

だが、星野はどうしても救急室から一歩も離れようとしなかった。


結局、ジェイムズの圧により、こんな状況が生まれた――

病院の狭い廊下が臨時の治療現場と化し、医者たちが星野の周りに集まり、傷の手当てを始めた。


星野のシャツが開かれると、一人の若い医者が思わず息を呑んだ。

胸の傷は、まるで生きたまま引き裂かれたように肉がめくれ、血がにじんでいた。

星野の血まみれの指先を見ると、すべてが語られていた。

それら全部、完全に彼自身で自分を抉ったのだ。


若い医者は思わず、隣の年配の医者に小声で呟いた。

「精神科医も呼んだ方がいいんじゃないですか?」


普通の人間が、こんなに自分を痛めつけられるわけがない。

完全に自傷行為だ。


年配の医者は若い医者を鋭く睨みつけ、

「余計なこと言うな!」


ディヴィーナの首領すらも敬意を払うような人間が、普通なわけがない。

余計なことはせず、まずは傷の手当てを済ませるのが先だ。


吐血に関しては……

本来なら機械で全身の精密検査をする必要があるが、星野はここを離れる気がない。

だから検査は後回しにするしかなかった。


医者たちの懸命な努力で、ようやく星野の傷の手当てが終わった。


その時、救急室のドアが突然開いた。


ジョン医師が両手に血をつけたまま出てきて、大声で叫んだ。

「大動脈が裂けて、全然止血できません!今すぐ血液バンクから血を!」


この叫び声で、元々張り詰めていた雰囲気がさらに重くなった。


星野は突然立ち上がり、ジョン医師の前に駆け寄った。

「俺と彼女は血液型が同じだ!俺の血を使え!」


ジョン医師は眉をひそめた。

「あなたは患者の家族ですか?」


星野はうなずいた。

「そうだ、俺は彼女の夫だ!」


ジョン医師はきっぱりと否定した。

「それはダメです!」


「なぜ俺じゃダメなんだ!」

星野は目を真っ赤にし、腕を差し出して強引に主張した。

「俺のを使え!」


ジョン医師は辛抱強く説明せざるを得なかった。


「たとえ血液型が合っても、患者は妊婦です。胎児の血液型の影響で、体内に夫の血液成分に対する抗体ができることがあります。あなたの血を輸血すると免疫反応が起きやすいのです!」


星野は、自分の固執が全く役に立たないどころか、返って麻奈を傷つけるかもしれないと気づいた。

彼は苦しげに呟いた。

「じゃあ、今の俺には何もできないのか……」


彼女のすべての苦しみは、明らかに自分が引き起こしたものなのに。

なのに、今の彼にできることは何もない。


ただ、救急室の外で無力に神様に祈り、償う機会を願うしかなかった。


星野はジョン医師の腕をつかみ、口ごもりながら懇願した。

「必ず、彼女を、助けてくれ!」


ジョン医師は看護師が血液パックを持ってくるのを見ると、もう外にとどまらず、そのまま救急室に戻っていった。


先ほど星野の傷を処置した年配の医者が、彼をなだめるように前に出た。

「病院の血液バンクは十分備蓄があります。安心してください、奥様はきっと大丈夫です。」


神経が張り詰めた星野は、心配がかえって混乱を生むことを理解していた。

けれど、今の彼は本当に耐えられない。

麻奈に何かあったら、

その結果を――


もし彼女に何かあったら……

生きている意味すら感じられなくなりそうだ。


星野は廊下の長椅子に崩れ落ち、思わず胸を押さえた。


しかし、その押さえ方は普通の人とは明らかに違う。

指先が無意識に胸の傷に食い込み、心臓を自分で抉り出そうとしているかのようだった。


そのため、せっかく処置した傷口が、ほんの少しの間でまた出血してしまった。


医者たちはまた慌ててしまった。


特にあの若い医者は、つい年配の医者に叫んだ。

「やっぱり精神的に問題ありますよ!ほら、また自傷してる!」


だが、星野には医者たちの声はまったく届かない。


医者たちが彼の手を引きはがそうとしても、どうしても引き離せなかった。


最後は、医者たちもジェイムズの方を無力に見つめるしかなかった。


ジェイムズ:「……」

彼に何ができるというのだ!!!


結局、ジェイムズは医者たちに、まずは下がるようにと首を振るしかなかった。


一方で、星野は医者たちが離れたことにも気づかなかった。


彼はずっと胸元を掴み続け、目には暗い影が差していた。

「こんなに……苦しいんだな……」


だが、自分の胸の傷は、彼女がこれまで受けてきた痛みに比べれば、全く大したことではない。


星野は、極限の苦しみの中で、自分の胸を拳で強く叩いた。

続けて二度目――


三度目の時には、力が強すぎて、またしも吐血してしまった。


吐き出した血と、胸の傷から流れる血が、最後には混じり合った。


ジェイムズは見れば見るほど恐ろしくなってきた。

今や彼は、万が一あの宮崎様が助からなければ、

この新しい主も殉死するつもりではないかと、強く疑い始めていた。


ジェイムズはますます不安になり、星野を避けて人気のない隅に行き、以前の上司になんとか連絡を取ろうとする。


だが、電話の向こうは――不通だった!


たった二時間前に連絡を取ったばかりなのに、どうして今は「この番号は使われておりません」なんて……!?


ジェームズの脳裏に、上司からかかってきた最後の電話がよみがえる。

たった一言だけ――


「これから、“ディヴィーナ”は主・星野侑二のものだ。」


つまり……上の人間たちは本気で、ディヴィーナをまるごと星野に託したということか――。

しかも、こんな一方的な方法で、これから忠誠を尽くす相手は、ただ一人、星野侑二だけだと告げてきたのだ!


星野侑二こそ、これから唯一の主なのだ!!!


ジェイムズは携帯をしまい、星野の前に戻って、慰めるように慎重に口を開いた。

「ボス、宮崎様は……絶対に無事です!」


今まではただ上からの命令で動いていただけだった。

だが今、ジェイムズは心から新しい主を認めていた!


だが、星野はジェイムズの態度の変化にまったく気づいていなかった。

彼は今、際限ない苦しみの中にあった。


どれくらい時間が経ったのか――

ついに、救急室のドアが再び開いた。


星野はすぐ駆け寄った。

ベッドに横たわり、顔色が紙のように蒼白な私を見て、声を震わせた。

「彼女は、どうなった?」


ジョン医師は少し疲れをにじませた声で言った。

「手術は無事成功し、患者さんはひとまず危険状態を脱しました!」


星野の目はたちまち赤くなった。

彼は興奮を隠しきれず、そっと私の頬に手を伸ばして撫でた。

「ありがとう、もう一度チャンスをくれて!」



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