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第73話 こっちが後輩ちゃんを奪い取る


急患室から出てきたばかりのとき——

星野侑二は、自分と麻奈の子どもがまだ無事だと知り、心から感謝した。

そして密かに誓った、「必ず麻奈とこの子をしっかりと補っていく」と!


だが今、ジョン医師は彼に「子どもは諦めなければならない」と告げる。

まるで運命が、彼にとんでもない悪戯を仕掛けてきたかのようだ!


星野はゆっくりとうつむき、顔色が真っ青で意識不明の私を見下ろした。

心の中で葛藤を繰り返しながら——


そして星野はジョン医師に、きっぱりと言った。

「何があっても、子どもを守り抜いてくれ!」


ジョン医師は思わず眉をひそめ、真顔で忠告した。

「星野さん、今回の手術で患者は銃創による大量出血を起こし、身体機能に不可逆的なダメージを受けています……子どもを守ることを優先すれば、患者の命が極めて危険な状況になります!」


ジョン医師自身も、残念に思っていた。

マフィアの銃弾が飛び交う中で、患者は奇跡的に生き延び、さらに胎児にも傷はなかった……

だが、現実は残酷だった。患者の容態は急激に悪化し、とても妊娠を続けることはできない。


ジョンは重々しい口調で言った。

「星野さん、早く決断しなければなりません!患者に残された時間は多くありません!」


難題が、星野一人に投げられた。

大人と子ども、どちらか一人を選ばなければならない。

いや、正確には大人だけしか選べない。


大人の命すら守れないなら、お腹の子も結局は死を免れない運命だ。

だが星野は、今の私が生き続ける理由は、お腹の子だけだと分かっていた。

もし子どもを失えば、私は再び極端な道を選び、自殺しかねない。

しかも、それは彼がどんなに守ろうとしても防げないものかもしれない。


星野の目は血走り、「彼女も子どもも、どっちも失えない!」


どちらかを失えば、自分の命もないも同然だった!


ジョン医師はしばらく沈黙したあと、首を振り続け、深い無力感をにじませた口調で言った。

「申し訳ありません、当院では本当にどうにもできません!」


星野のそばにいたジェイムズが、何かを思いつき、助言した。

「ここの医者が駄目なら、別の医者を呼べばいい。必ず腕のいい医者がいるはずだ。」


この病院はこの地域でトップクラス。

ジョン医師も、ここで最も優秀な医師の一人……

だが、上には上がいる!


星野は、最後の希望を掴んだかのように、「そうだ、専門家を探せ!」と声を上げた。

すぐにスマホを取り出し、連絡を始める。


だがジョン医師は無念そうに制した。

「我々も患者の容態悪化の第一報で、外部の援助を探しましたが、多くの専門家は海外にいて、こちらに来るには少なくとも十数時間かかります。患者はそこまで待てません!」


これが最も難しい点だった。

星野侑二の財力と背景があれば、もっと優れた専門家を呼ぶことはできるだろう。

もしかすると、宮崎麻奈と子どもを守れるかもしれない。

だが——間に合わない!


星野がこの現実を受け入れ難く思っていたとき、突然外から人の一団が入ってきた。


先頭に立っていたのは白衣を着た中年の女性。その後ろには、精鋭のオーラをまとい、見るからに凄腕の医師たちが続いていた。


ジョン医師はその医療チームを見て、目を見開いて驚いた。

「なんと、ラファエル教授!」


中年女性はうなずき返し、まっすぐ星野の前へ進み出る。

「今からここは私のチームが担当します。」


星野は警戒した目でラファエルを見つめた。「あなたは誰だ?」


病室の入り口から穏やかな声が響く。

「彼女は俺が手配した。」


星野が入り口に目を向ける。

それは深山彰人だった!


星野は鋭い目つきで深山をにらみ、即座に拒絶した。

「必要ない!」


ジョン先生は慌てて説得し始めた。

「星野さん、これはラファエル医療チームですよ、世界でもトップクラスのチームです。彼らがいれば、宮崎さんとお子さんが必ず助かります!」


星野は拳を強く握りしめる。

彼は今、麻奈と深山の関係を自分が誤解していたことに気付いていた。


麻奈は彼に不実などなかった!


だが、男として、何度も麻奈の前に現れる深山が、明らかに麻奈に対して特別な感情を持っていると敏感に感じていた。

恋敵に助けられたくない——それが彼の本音だった!


深山はゆっくりと星野の前に歩み寄り、穏やかな声に冷たい響きをのせて言った。

「また、彼女の死を見たいのか?」


「死」という言葉を聞いた瞬間、星野の身体が震えた。

絶対に、麻奈をもう一度死なせるわけにはいかない!!!


星野は長く葛藤し、まるで追い詰められた獣のように、深山をにらみつけ、歯の隙間から悔しげに言葉を吐き出した。

「この恩は、必ず返す!」


深山は冷たく返した。「必要ない。」

自分は、別に星野侑二を助けに来たわけではないのだ。


深山の視線は、自然とベッドの上に落ちる。

私の腕や脚の銃創はすでに処置されているが、赤い血が幾重ものガーゼを染み抜けて滲んでいる。

呼吸も非常に弱く、完全に機械に頼っている状態。

顔だけでなく、さらけ出された肌は紙のように白く、今にも壊れそうな陶器の人形のようだった。


深山は後輩ちゃんの容態が極めて悪いことを知っていた。

だが、ここまで悲惨だとは思わなかった!


深山の瞳はますます暗くなり、指先は震え続ける。

次の瞬間——


彼はついに感情を抑えきれず、拳を振り上げ、星野の腹に強く叩き込んだ。

低く唸るように叫ぶ。

「貴様が彼女を要らないのなら、俺がもらう!」


星野はその一撃でうめき声をあげる。

だがすぐに体勢を立て直し、一言一言、強く言い返す。

「彼女は俺の妻だ。お前なんかに、絶対に奪わせない!」


星野と深山は、怒りに満ちた目で睨み合い、

空気には火花が散り、すべてを焼き尽くしそうな勢いだった。


重苦しい雰囲気の中、ラファエルが大声で制した。

「これから宮崎さんの検査をします。静かにしてください!」


深山はやむなく感情を抑え、病室を出た。


病室を出た後、青野千里が不思議そうな顔で深山の後ろをついていった。

「顔を見るだけって言いましたよね?なんで殴り合いになりそうですけど?」


深山は青野のうるさい声を聞きながら、胸元をそっと押さえた。

さっき、後輩ちゃんのひどい姿を見て、ここが針で何度も刺されるように痛んだ——


とても、とても苦しかった!

だから、まったく感情を抑えることができなかった!


しばらく沈黙した後、深山は自嘲気味に笑い出す。

「俺も、バカだったんだな。」


もし今でも、後輩ちゃんへの気持ちを誤魔化そうとしたら——

それこそ、星野侑二よりもどうしようもない愚か者だ!


自分は、後輩ちゃんに本気で惹かれてしまった。


そう気づいた深山は、自然と口元がほころび、微笑みが浮かんでくる。

だがその笑みはどんどん悪辣に、そして抑えきれない高揚を含み始める。


「なあ、俺が後輩ちゃんを奪ったら、星野侑二はきっと壊れると思わないか?」


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