私は思わずうろたえた。
元々は、私と子の死を利用して、星野侑二とエリクソンの間を切り裂くつもりだったのに。
だが今、私も子供も無事で……
それはつまり、星野がまたエリクソンに妥協する可能性があるってこと？
また私を差し出そうとするんじゃないの？
前は、本当に生きる道がなくて、死を選ぶしかなかった。
でも私は誰よりも、生きていたいんだ。
不安と恐怖でいっぱいになり、思わず身をすくめてしまう。
それを見た星野の心は大きく締め付けられ、瞬時に痛みが走る。
彼は手を伸ばし、私の頬にそっと触れて、優しく慰める。
「もう誰にも君を傷つけさせない。」
でも、彼の言葉は私の不安を消し去ることができない。
だって、悪魔の言葉なんて、信じられるものじゃない！
だけど……
エリクソンがソフィアを縛って病室に連れてきたのを見たとき、私は呆然としてしまった。
ホテルでのソフィアの強気な姿は、今でも鮮明に覚えている。
エリクソンですら彼女をどうすることもできなかった。
結局、星野侑二が私を引き渡すしかなくて、彼とエリクソンの協力関係を保っていたのに。
今はどういう状況なの？
エリクソンはソフィアを押しのけ、穏やかな笑みを浮かべて星野の前に歩み寄る。
「すべては誤解だったと分かった。全部、できそこないバカ息子が起こしたことだ。責任は全部やつにある！星野社長には何の関係もない。」
縛られているソフィアも、以前見せた傲慢さは消え、慌てて同調する。
「そうよ、星野社長がやらなくても、私がうちの息子をしっかり懲らしめるつもりだったわ。」
私は自分の耳を疑った。
あの時「息子に手を出すなら、皆殺しにする」と言っていたソフィアが？
なんで今は、高慢な頭を下げて、自分から謝ってるの？
ジェイムズはソフィアを軽蔑の目で見て、あざけるように言った。
「こういう連中は、痛い目見ないと、世の中の広さが分からないんだよな！」
私は疑わしげにジェイムズを見た。
つまり、星野侑二はソフィアとやり合ったの？
しかもソフィアが負けたってこと？！
でも星野が連れてきた護衛たちは、オスクーロ会がホテルに突入したとき、全滅してたはず。他に誰がオスクーロ会と張り合えたっていうの？
それに、このジェイムズも、私が目覚めてからずっと星野のそばにいる。
彼は一体何者？
私が頭を抱えていると、エリクソンはにこやかに星野を見て言った。
「星野社長、俺たちもう何年も知り合いなのに、なぜ『ディヴィーナ』との関係を教えてくれなかったんだ？」
ジェイムズは口を尖らせる。
「俺とボスの関係なんて、お前に言う筋合いはねえだろ？」
エリクソンの目尻がピクリと動いた。
彼らメディチ家は、普通のマフィアなんて恐れはしない。
ただ今回は、「ディヴィーナ」が星野のために総出動した。
「ディヴィーナ」のボスであるジェイムズが、星野侑二を「主」とみている。
かつて彼がオスクーロ会を従わせようとしてもできなかったのに、ソフィアと組んでようやくオスクーロ会を手中に収めたのだ。
つまり、星野の背後には、星野グループにも劣らぬ巨大な勢力があるということ。
元々は星野グループのグローバル展開のために、星野の方が必死にメディチ家との協力を求めていたが、今や形勢逆転、エリクソンの方がこのパイプを失うわけにはいかない。
エリクソンの態度はより誠実になり、「星野社長、今回の件について、心からお詫び申し上げます。」
星野はうっすらと目を上げ、冷たい声で言った。
「君たちは俺の妻を傷つけた。その謝罪だけで済むと思うのか？」
エリクソンはすぐに私の方を見て、顔一面に謝罪の色を浮かべる。
「奥様、私どもが必ず責任を取ります。」
次の瞬間、エリクソンはためらいもせず銃を取り出し、ソフィアの腕と脚に、バンバンバンと六発撃ち込んだ。
一瞬のうちに、ソフィアは血まみれになって地面に倒れ、苦しみの悲鳴を上げた。
だがエリクソンはまるで聞こえないかのように銃を収め、私に穏やかに微笑む。
「奥様が受けた苦しみは、すでに二倍にして償いました。」
私の瞳孔は大きく揺れ動いた。
私の腕と脚には三発、ソフィアは六発……
見れば……確かに公平だ。
ただ、エリクソンやソフィアのような強者が、公平なんて気にするようになったのはいつから？
私は思わず星野侑二を見てから、またジェイムズに視線を移した。
星野はいつからイタリアのトップマフィア組織と関係を持っていたの？
星野は私の疑念に気づいたのか、そっと私の手を撫でて、「もう怖くないだろ？」と優しく約束する。
「これからは、誰にも君を傷つけさせない！」
その瞳には、鋭さの奥にどうしても隠し切れない優しさがあった。
私は黙り込んだ……
ようやくこの瞬間、私ははっきりと分かった。
星野が以前言っていたことは、どうやら嘘じゃなかった。
彼は……本当に私を愛しているの？
信じられない気持ちが、私の目に浮かんだ。
あんなにも長い間私を憎み、私を死に追いやろうとした人が……
今さら私を愛しているなんて？！
言葉にできない感情が一気に押し寄せてきた。
十年以上も、私はずっと彼のあとを追い、彼のためにすべてを捧げてきた……。
いつか星野が私の気持ちに気づいて、少しでも応えてくれることを願って。
なのに、やっと彼が気持ちを返してくれた今、私は……
吐き気がした！怒りがこみ上げた！皮肉で、哀れで仕方なかった！
私の涙は止まらずに流れ落ち、星野を激しく睨みつけ、思わず怒鳴りつけた。
「あなたが私を愛していると言う資格なんてあるの！」
何度も何度も私を苦しめ、人間でもなく化け物のような姿にした！
何度も何度も刃を振りかざし、私の大切な人たちを、みんな殺し尽くした！
今さら……よくもそんなことが言えるわね？！
彼にもう私を愛する資格なんてない！
絶対に！！！
その瞬間、私の怒りは頂点に達した。
心電図モニターが一気に150まで跳ね上がり、耳障りなアラーム音が鳴り響く。
包帯で止めていた傷口は、感情の高ぶりで次々に開き、血が腕や脚から止めどなく流れ出す。
そして、体の奥底から熱い血がせき止められず、星野の体に思い切り吐き出された。
私は血のように赤い目で彼を見据え、一言一言、怒りに震えながら叫ぶ。
「
そう叫ぶと、全身が急に軽くなった気がした。
魂が体から抜け出していく。
周囲のすべてが混沌に包まれる。
ぼんやりとした闇の世界で……
私は、飛び降りてバラバラになった両親を見た。
バラバラに切り裂かれた兄を見た。
傷だらけで、無念のまま逝った蘭さんを見た。
全身血まみれ、両脚を失った文乃おばあちゃんを見た。
そして……既に形を成していたのに、全身が青黒く腫れ上がり、息をしていない私の子も見えた。
彼らは果てしない闇の中で、苦しみもがき、狂ったように叫んでいた。星野侑二という悪魔の数々の罪を。
だから……
こんな殺人鬼の悪魔が、どうして、私を愛しているなんて言えるの！！！
