私はまだ深山彰人の突然のキスに、ぼうとしている間、彼はすでに私をしっかりと抱きしめ、病室を出ていた。
私はがらんとした廊下を見つめ、少し戸惑った。
「あのディヴィーナのガードたちは?」
深山は落ち着いて答えた。「ちょっとした囮で引き離したんだ。」
私はさらに驚いた。
なにせ、星野侑二はジェイムズに厳命していたはずだ。誰一人として病室の外の廊下から離れるなと、ここを死守しろって。
私はつい好奇心で聞いてみた。「どうやって囮をかけたの?」
深山は微笑んだ。「たぶん、先輩の僕がすごいからだよ!」
もう、先輩ったら、こんな危機を前にも、まだ自慢気だ!!
私は思わず彼を睨んだ。
深山は冗談を引っ込めて、真面目に説明し始めた。
「今まで、君はずっとメールで僕に連絡してた。でも今回は自ら電話をかけてきた。」
私は固まった。
「それなら、私からの電話じゃないと気づいたのに、なぜ出たの?」
深山は歩みを止め、じっと私を見つめた。
「君じゃないからこそ、出なきゃいけなかったんだ。」
私の心は大きく揺れた。
先輩は、電話が私からじゃないと明確に分かっていたからこそ、私が危険に遭っていないか心配になったわけか。
深山はまた優しく微笑んだ。
「でも、この電話があったおかげで、後輩ちゃんが僕のことをそんなに気にしてくれてるってわかったよ。」
私は黙ってうつむいた。「私は、あなたを巻き込みたくなかっただけ。」
深山の瞳に一瞬、複雑な色がよぎった。
「心配しないで。今の僕なら、一人の星野侑二くらい、どうにでもできる。」
私の罪悪感を和らげるため、彼はさらに辛抱強く説明を続けた。
「電話に出て、最初は気づいていないふりをした。かけてきたのが星野侑二だってね。」
「星野は、すべて自分の掌の中だと考えるだろう。」
「それから、わざと彼に、病院に着くまで最低でも30分かかると思わせた。」
「その30分の間、あいつはきっと油断しているはずだ。」
「でも、実際僕が病院に来るのに、たった5分でいい。」
「残りの時間は、後輩ちゃんを連れて出るのに余裕だった。」
私は深山を呆然と見つめ、心の中は衝撃でいっぱいだった。
電話が鳴り、彼が出るまで、せいぜい三秒。
その間に、先輩の頭の中では、すでにこれほど綿密な布石が打たれていたのだ。
この瞬間……
私が考えた復讐計画など、彼の前ではままごとなんじゃないか、と深く感じられた。
それほど立派な頭脳を持つ深山彰人なら、私なんて駒として本当に必要なのだろうか?
今の私は、ただの役立たずの花瓶のような気がした。
心が詰まるように苦しくなり、すっかり落ち込んでしまった。
「私は前に、自信満々であなたに宣言した。私は期待以上の駒だって。でも結局は、あなたを危険に巻き込んでしまった。」
私の目は次第に陰っていった。
「この前、星野侑二が私を愛してるって言ったとき、私は攻守が逆転したのかと思った。」
「彼の愛を利用して、計算して、復讐しようと考えていた。」
「でも今になってわかった。悪魔の愛なんて、ただの増幅された独占欲だって!」
それは星野侑二による、私への病的な支配欲だった!
これまで彼が見せてきた卑屈、優しさ、深い愛情、甘やかし。
すべては、私の心も体も再び支配しようとする手段だった!
滑稽なのは、私はその歪んだ「愛」を利用しようとしていたことだ!
深山が私の頬に近づき、優しく慰める。
「でも、君はちゃんと彼に痛烈な一撃を与えたじゃないか?星野グループは今回大ダメージを受けたよ!」
私は呆然とまばたきした。
さっきまで星野の恐怖に包まれて、先ほどの「戦果」をすっかり忘れていた。
私は深山の胸に顔を埋めた。「そうだね、少なくとも彼を苦しめた!」
深山は私の負の感情が少し和らいだのを見て、惜しみなく励ました。
「これからまた考えればいい。あいつを地獄に送る方法を。」
―――
星野侑二は隣の病室に行き、傷の処置を受けている。
新しい傷と古い傷が何度も重なり、目に見えてボロボロだった。
矢尾翔はそれを見て、肝を冷やした。
彼は一つの法則に気づいた――星野社長と宮崎様が一緒にいると、必ず誰かが傷つく、あるいは共倒れになる。
エリクソンからも、何となく事情を聞いた矢尾は、恐る恐る口を開いた。
「宮崎様、今回は本当にやりすぎましたが、お腹の中には社長のお子さんが……」
星野は冷たい視線を投げた。
「彼女は本当に魅力的だな。俺の秘書まで、もうすぐ彼女の肩を持ちそうだ!」
矢尾はすぐにひざまずき、震えながら忠誠を誓った。
「星野社長、僕にはあなただけがボスです!宮崎様はせいぜい奥様です!」
星野は、足がすくんでいる矢尾には構わず、ゆっくりと目を閉じ、怒りを必死に抑えた。
矢尾は冷や汗をぬぐった。
毎回、星野社長と宮崎様が揉めると、なぜか無関係の自分がとばっちりを受ける。
弱くて可哀想で無力な矢尾秘書は、星野をそっと見て、もう一言言いたかった。
今は宮崎様を虐めて気分がいいかもしれないが、結局後悔する羽目になりかねないと。
しかし、そんな度胸はなく、ウズラのように星野のそばに控え、小声で医者に尋ねた。
「星野社長の傷は大丈夫ですか?」
星野の傷を処置していた医者は、まぶたをピクピクさせ、無意識につぶやいた。「どうしてまた裂けてるんだ……」
それを聞いて、星野は固く閉じていた目を突然見開き、鋭い視線で医者をにらむ。「あなたたちが一晩で傷がまた開くと思ったから、処置に呼んだんじゃないのか?」
医者はその目つきにビクビクしながら答えた。
「本来なら、縫ったばかりの傷はすぐ包帯を替えないものですが、主任に強く言われて再度処置することに……」
星野はすぐに問題に気づいた。
まだ処置が終わっていないが、すぐに立ち上がり、病室を飛び出した。
そして、元々この廊下を守っていたはずのディヴィーナが、いつの間にか消えていた。
星野は顔色を変えて、すぐ隣の病室へ行く。
ドアを開け――
中はがらんどう、誰もいなかった!
星野の目が瞬時に冷たい光を帯び、狂気じみた様子で叫んだ。
「よくも俺の目の前で、また逃げやがった!」
彼はすぐに携帯を取り出し、ジェイムズに電話をかけ、怒鳴った。
「今どこにいるんだ?」
ジェイムズは慌てて説明した。
「下の階で誰かがディヴィーナを襲っています。今、自分で現場を指揮しています!」
星野は歯ぎしりしながら言った。
「囮だ!すぐに病院の出入口を完全に封鎖しろ。一階一階、必ず宮崎麻奈を捕まえろ!」
隣の病室に行っていたのは、わずか三~五分ほど。
つまり、まだ院内にいるはずだ。
星野は電話越しに、悪魔のごとき命令を下した。
「宮崎麻奈の命だけは残せ。他の奴らは、死んでも構わない!」
深山彰人がわざわざ乗り込んできて、俺の女を奪った。
だったら見せてやろう。
お前に、彼女を無事に連れ出す運があるかどうか!